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麗紗ちゃんは最狂メンヘラ  作者: 吉野かぼす
第二章 もう絶対に離しませんからね、先輩!
43/213

開戦

 一方その頃……。

「やっと来たな。随分と遅かったじゃないか」

「………」


 支社の社長室にて。

 天衣は椅子に腰を掛け、彼の息子……凍牙に皮肉気味にそう言った。

 その天衣の側には吉良榎葉が立っている。


「おっと、返事をしてくれないと困るね。もしかして急な配属に怒っているのか? 特に私は君に道徳に反する様な事はしていない筈だよ。この転勤は十分常識の範囲内。社会人ならいつでもあり得る事さ」


「この配属の何処が常識の範囲内なんだ!? 私は正確には桜月財閥の社員じゃない! その上あんな脅迫までして!」

「脅迫? 私がそのような物騒な事をするとでも?」


 天衣に激昂する凍牙。

 凍牙がこの支社に行かざるを得なくなってしまったのは、情報屋の件が空振ったのと……あの手紙の内容の所為だ。


『支社に来い凍牙……応じられないと言えば君の同僚がどうなるかは分かるね?』

 率直にして清々しいまでの脅迫だった。


「何故私の仲間まで巻き込もうとする! そうまでして私を転属させて何が楽しいんだ! 第一貴様は一度私を捨てただろう!」


「ふん……別に親子団欒の為にお前を入れたのではない」

「なら何だ! 何の意味がある!」


「……あの化け物から身を守る為だ」

「化け物……お嬢様の事か……!」


 凍牙は血が出る程拳を強く握り締める。

 まだ幼い彼が化け物、麗紗の下へと送られる時にも天衣は言った。


『化け物から私を守れ、凍牙』

『そんな……嫌だよオヤジ……』


『それがお前の生まれた意味だ。連れて行け』

『はっ!』

『い、嫌だ! 放せ……!』


 幼き少年の目に映ったのは、冷たくそして無感情に彼を見る父親の表情。

 そこで、少年の何かが堅く閉ざされた。


「あの時から貴様は何も変わっていない……! 唯の子供に怯える臆病者……!」

「ふ……臆病で結構。それで災害から生き残れるのなら上等だ」


「そもそも……私如きをここに配属した程度でお嬢様を食い止められるとでも思っているのか……!?」

「ははは、お前とんでもない勘違いをしているな」


「何だと……!」

「いつ私がお前を化け物と戦わせると言った? とんでもない。お前は“人質”だ。化け物のな。機能するかは分からんが。少しでも可能性があるなら試しておくべきだ」


「貴様……どこまで性根が腐っている……!」

「腐っているなどと言うな。発酵していると言って貰おう……」


 殺意を剥き出しにする凍牙に対し、天衣は薄くニヤリと笑う。

 社長室の空気が更に重くなる。


 実の親子とは思えないこのやりとりを見守っている榎葉は今日の分の有給を残しておくべきだったと後悔した。


 そんな榎葉に天衣が指示を下す。


「吉良君、すまんが愚息の教育を頼めるかい? その間の業務は誰か代理を立てるから安心してくれたまえ」

「はっ」


「なっ……!?」

「では早速本社の規定を叩き込んでおいてくれ」

「かしこまりました。行くぞ」


「……相変わらず他人任せか……覚えてろ……!」

「最近物忘れが激しいから無理だ」


 険悪な雰囲気を更に増させつつも榎葉が凍牙を連れて社長室を出ようとしたその時。

 社長室の床から轟音が鳴り響き、粉塵が中を満たした。


「うっ……!」

「な、何だ……?」

 しばらくして粉塵が止み、轟音の正体が姿を現す。


「お? 何か強そうなのが三人もいるな! こん中に識英凍牙って奴はいるか?」


 その正体は茶髪で目付きの悪い青年……そう、漢野力也だった。

 同時に社長室の床に大きな穴も現れる。


 三人はあまりに突然の出来事に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 漢野はそんな三人の反応にほんの少し傷付いた。


「おいおい……何だよお前らその顔……ってあれお前もしかして……識英凍牙?」

「え? あ……はい。そうですが……」


 顔も知らない男にいきなり名前を呼ばれ更に困惑しつつも凍牙は答えた。

 その返事を聞いた漢野は笑顔で言う。


「おっし! なら殴っていいのはその二人だな! あ、言い忘れてたぜ! 助けに来てやったぞ、識英凍牙ぁ!」

「なっ……あなたは一体……」


「フッ……俺はマブダチの……マブダ……そういや俺あいつの名前知らねえ……と、とりあえず金髪の女に頼まれて来たのさ!」

「金髪……という事はまさか琥珀さんが!?」


「思い当たるフシはあるみてーだな。そいつで間違いねえぞ」

「はは……琥珀さん……全く、あなたという人は……」


 凍牙は琥珀の行動に半ば呆れつつも深く感謝した。

 そして理解する。


 麗紗は琥珀のこんな所を好きになったのだと。


「あと助けるとか言っといて何だが……俺二対一ってのは好かねえんだ……片っぽ任せていいか? お前も特色者だろ?」

「……ええ! 勿論です!」


「じゃあ俺強そうなこいつと戦うわ。お前その赤い奴な」

「えっ……なあっ!?」

「おい待……うわっ!?」


 漢野は強引に決闘する相手を決め凍牙と榎葉を穴に突き落とした。

 二人は叫び声を上げて下の階へと落ちた。


 そして漢野は天衣に向き直って言った。


「さて……二人になったな。戦ろうぜ」

「ここで殴り合いをするつもりかね? 場所を変えたいのだが」


「戦うんならどこでもいいぜ。砂漠でも深海でもな!」

「ならばいい場所へ招待しよう。付いて来なさい」

「おう!」


そうしてまた、二人の戦いも始まった! 

「黒萌先輩ーーー? ちょっと用があるのですがーーー?」

「ひっ!?」











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