レベルの差
学校の授業が終わり、入っている部活もない私は一人のんびりと家路を辿っていた。優紀は園芸部に入っているから、今頃花に水でもあげている所だろう。
部活はやってみたい気もするけど他にやりたい事もあるし。主にヲタ活とヲタ活とヲタ活がね?
そんな事を考えている内に川の近くまで来た。普段ならただ魚か何かが泳いでいるだけの広い川。
でも今日は違った。河原に数人人影が見える。
「ん……? 何でこんな時期に……」
まあ冬に魚とか捕る人も居るんだけど、ちょっと気になった。
その集団をよく見てみると……
一人は茶髪で目付きが悪く私と同い年くらいの男。その横を取り巻くように似たような見た目の二人の男が立っている。
さらにもう一人は……何と昼休みの時会った一年生だった。男三人は一年生を取り囲むように河原に立って彼女に向かって何か言っている。
もしやこれは……遥か昔に滅びたとされるあの、いたいけな可愛い女の子を襲うヤンキーという構図なのか!?
よ~く耳を澄ませて話の内容を聞いてみる。
「おい~。そりゃつれねえなアンタ。お前能力者なんだろ!? しかもそのオッドアイ! 特殊型じゃねえかよ! レベルも高そうだし。何で俺と決闘してくんねえんだよ~」
「そ……そんな……駄目ですよ決闘なんて……」
「何だとぉ? いいか、俺はな! 強くなりたいんだ! 強さってのはいいよなあ! コイツがあれば色んな事が出来る! 理不尽なヤツはぶちのめせるし強いってだけで慕ってくるヤツも居るッ! 俺はそれを更に高め―――」
「暑苦しいんじゃボケ!」
「がはぁ!」
違った。コイツはヤンキーじゃない。厨二病だ。
私は自分語りするコイツの後頭部に拳を叩き込んだ。
こんな河原で決闘とかいう絶滅種が本当に居たんだな……とか感心する前に私はとりあえずこの子を助ける事にした。
勿論警察は呼んでおいた。つまり時間稼ぎが出来れば十分だ。
え? じゃあ何で殴ったのかって? うっかり手が滑ったのさ!
そういえば思い出したけど、今日のHRで先生が言ってた特色者に決闘仕掛けて来る奴ってコイツの事かな? こんなか弱い女の子にまで申し込むなんて……。
ていうかオッドアイの人って特殊型なのか……初めて知った。なら黒萌も特殊型なのかな?
「あ、あなたは……!」
「痛ってえな……何だアンタ? コイツの知り合いか?」
「双方の同意があっても決闘は決闘罪に引っ掛かるよ~。そんな事も知らないの?」
「質問を質問で返すなよ。あとその事なら知ってるさ。俺を舐めんなよ? 警察如き俺にかかれば逃げるのなんて朝飯前だ。で、お前はコイツの知り合いなのか?」
どうしよう。助けに出たは良いけど何て言ったらいいんだろう。一年生もきょとんとした表情を浮かべている。まあ何にせよ適当に何か言おう。
「別に知り合いじゃないけどさ。同じ学校の後輩を助けようって思ってね。悪いけど帰ってくれない? 君のその行動の所為で何人の人に迷惑が掛かると思ってんの?」
「んなこた知らねえよ! そんな事よりお前特色者だろ? さっきのパンチは普通の奴じゃできねえ! いいね~、お前と戦っても良さそうだ!」
うわ何なのコイツ。一応会話は成立してるけど思考が破綻してる。割とまともな対応だった筈なのに!
まあ手が滑っちゃったのは悪かったけどさ!
なんか少年漫画に出てくる戦闘狂の敵キャラみたいな思考回路だ。 こういう奴って現実に居るとかなり痛々しいな。
言っても聞かないなら戦うしかないか……あんまり和解は期待してなかったんだけどね。
「よしお前等、殴れ」
「「了解だぜ兄貴!」」
厨二病が取り巻き二名にそう命令する。
来る!
私はさっと身構えて八重染琥珀を使う用意をした。
でも取り巻き二人はなんと私ではなく厨二病の方を殴りだした。何の遠慮もなく本気で。
「えっ……そういう趣味の人だったの……」
「違うわアホ! 仕方ねえな……教えてやるよ俺の能力は“ド根性馬鹿力”! 己の体が傷付けば傷付く程身体能力が上がっていくっつー力だ! 因みに分類はレベル7の身体強化型! どうだ凄えだろ!」
厨二病が自分の能力を堂々と語る。レベル7か……私の八重染琥珀より強いじゃん……厄介だな。
しかも一撃で決めないと向こうはどんどん強くなってしまう。今ですら奴の筋肉が膨張して服がミチミチと音を立てている。
これは不味い。本気を出すしかないな。
「怖気づいてちゃあ何も始まらねえぜ!? 行くぜこれが俺の挨拶だ!」
厨二病が地面に向かってパンチを繰り出した。すると轟音が響いて辺り一帯に砂埃や石の破片が撒き散らされた。
「うっ……!」
コイツ……ちょっとは近所迷惑ってモノを考えろよ! 私は巻き込まれないように慌てて後ろに下がった。
「よおっ!」
「ちょっと嘘でしょ!? くっ!」
砂埃の中からテレフォンパンチの構えをとった厨二病が突進してきた。厨二病が突きを撃ってくる。私はそれを八重染琥珀で足を加速させて躱した。しかし厨二病の突きが少し掠る。
「いい反応速度だぁ! やるじゃねえか!」
「ちっ……ちょっとカスッた……」
流石はレベル7。八重染琥珀で避けても掠るとは……。思っていた以上にコイツは強いみたいだ。思考のアホさから絶対に弱いと思ったのに……。
「オラオラどんどん行くぜ! 挨拶はまだ終わってねえ!」
「くっ!」
厨二病がパンチを放つ。それを私は加速を入れた拳で防ぐ。
「うりゃあああああああああああああああ!!!」
「……っ!」
鬼のような筋肉で生み出されたパンチと私の拳がまるで鍔迫り合いのように競り合う。
コイツの突き……重い!
って何で私がこんなバトル漫画のキャラみたいな台詞を言わないといけないんだ?
「どわあっ!」
「痛った!」
力が分散して私達の拳が弾き飛ばされた。手が痛い……もうほんとコイツ嫌だ……。
「本当にタフねあんた……」
「それはお前もだ! お前のレベルが幾つかは知らないが俺と互角とはな! おっと、そう言えば名前を名乗っていなかったな! 俺の名前は漢野力也だ! お前の名前は何て言うんだ!?」
「ああ~悪いけど私は名前教えてあげられないよ。ごめんね」
「何でだよ! 教えたって減るモンねーだろうが!」
「いや君暑苦しいし……何かイヤ。教えたくない」
「おいーーー! ふざけんなお前この野郎! ぶっ殺す!」
私がそう言うと漢野は怒って殴り掛かってきた。こんな事なら素直に教えとくんだった! いやでも教えたら教えたらで色々とめんどくさそうだ。
どっちにしろ駄目か……。
ていうか今の私のパンチもちょっとは効いてくれよ!まだ漢野ピンピンしてるじゃん! これがレベルの差ってものなのか……。
漢野はさっきよりも素早く突きを放ってきた。やばい避けられない! 私の攻撃を食らったから力が強くなったんだ。
私は漢野の突きに対応出来ずお腹に一発入れられてしまった。
「がっ!」
胃の中の物が押し出されるような苦しい感覚に囚われる。私は地面に蹲った。そこに容赦なく漢野がラッシュをお見舞いする。
「うりゃああああああああ!!!」
「ぐっ……! かはっ……」
激しいラッシュの勢いに私は吹き飛ばされた。勢いで地面に転がされて視界が目まぐるしく回る。
「もうやめて下さい! 何でこんな事する必要があるんですか!?」
一年生が漢野達にそう叫んだ。さっきの攻撃に巻き込まれて無かったんだな。良かった……。
ん? よく見たらあの子の周りに結界みたいなのがあるな。あれは一体……。
「大有りさ。俺らは強さを追い求める戦士だから闘いが必要なんだ……正々堂々と一対一で戦えば何も卑怯な事はねえ。今あいつが負けてるとは言ってもよ。そんな事は闘いの意味に関係無い!」
「心配すんなよアンタ。正々堂々と闘うのが兄貴の信念だ。アイツがぶっ倒れたらそこで闘いは終わりさ。でもアイツはまだ立ち上がれる。だからアンタはこの俺の結界の中で大人しくしてな。闘う前に怪我しちまったら笑えねえからよ!」
なるほど。それで無事だったのか。あの子自身の能力使ったのかと思った。
迷惑極まりないけどコイツ等にはコイツ等なりのルールがあるみたいだ。
明日の夜8時に更新します!




