返事
私は身体に虹色の光を纏わせながら加速して麗紗ちゃんを組み伏せる。
八重染琥珀で勢いを付ければ今の私でも動ける!
「っ……! な……!」
「今度は幻聴でも何でもないよ、ほら。お願いだから私の話を聞いて!」
「エ……っ? ナんなン、でスか、こレハ……!」
麗紗ちゃんは何が起きているのか分からないようで、息も絶え絶えになりながらそう言った。
駄目だ……! 身体の部位が損傷しすぎてこの子は今会話できる状態じゃない……!
どうしよう……。
私が麗紗ちゃんを抑えながら途方に暮れていると。
『琥珀、これ使って!』
「え!? 千歳!?」
突然千歳の声が聞こえた。
声がした方向を振り返ると、一台のドローンが私の目の前で飛んでいた。
そのドローンの上に千歳の回復薬が乗っている。
「ナイスタイミング! ありがとう千歳!」
「ちょ、ちょっとバレるから名前で呼ばないで! この位当然よ!」
私は千歳にお礼を言って八重染琥珀で手を上手く動かして薬を受け取り、麗紗ちゃんに飲ませようとした。
「これ飲んで!」
「コの味ハッ……千歳の……! イヤ、です……!」
しかし麗紗ちゃんは飲み込んでくれない。
くっ……何て強情な……!
こうなったらもうしょうがない。
覚悟を決めよう……!
私は薬を口に含み、麗紗ちゃんに直接口移しで無理矢理飲ませた。
「っ……!」
「んぐっ―――っ!?」
とろりとした触感を私の舌が味わう。
これは応急処置これは応急処置……!
私の心臓が早鐘を打つ。
舌で強引に喉の奥まで薬を押し込むとそこでようやく麗紗ちゃんは薬をごくりと飲み込んだ。
私が唇を離すと、麗紗ちゃんの目はもう元通りになっていた。
腕の付け根からにょきにょきと腕が生えてきている。
「ええ……医学を無視してる……って能力だしそりゃそうか」
「先輩……今のは……」
「あっ……いや……その……今のは……た、ただの応急処置だよ!」
「……応急、処置……」
麗紗ちゃんは魂の抜けたような顔をしてそう呟く。
あまりの出来事に心が付いていっていないんだろう。でもあれ以外にどうしろって言うんだ!
ていうか今はそんな事どうだっていい。
今はもっと大事な事を麗紗ちゃんに伝えないといけない。
「それよりも麗紗ちゃんあなたね! 今何したか分かってる!? 自分を散々傷付けるなんて! あのね麗紗ちゃん、自分を傷付けるって事は同時に周りの人も傷付ける事になるのよ! 二度としないで! あとこの私は幻でも何でもないから! これが現実よ! 目を覚まして!」
「……っ!」
麗紗ちゃんは私の言葉にはっと目を見開き、そしてポロポロと泣きながら私に抱き着いてこう言った。
「……うっ、うわああああああん! 先輩……本当にすみませんでした……! 私が弱いばっかりに先輩を幻だと勝手に勘違いして、自分を傷付けて……でも全部違ったんです! あの優しい先輩は幻なんかじゃなかった……! 私を思って言葉をかけ続けてくれた先輩は幻聴なんかじゃなかった……! 全部違ったんです……! 全部本物だったんです……! 先輩は、凄く優しかったんです……!」
「私は先輩なんだから当たり前でしょ。よしよし」
泣き叫ぶ麗紗ちゃんの頭を私は優しく撫でる。
能力が解除されてる……八重染琥珀を使わなくても普通に手が動かせる。
麗紗ちゃんが私を信じてくれた証拠だろう。
「今まで信じられなくてごめんなさい……! あんなに優しくしてくれる人なんて今までいなかったから……私は先輩のそこが一番大好きなのにっ……! 分かってる筈だったのに……!本当にごめんなさい……!」
「全然いいって。もう。今は信じてくれてる訳だし」
「……こんな私を許して下さり本当にありがとうございます……先輩、そう言えば告白のお返事を聞いていませんでしたね……私ったら勝手に結果を決めつけて……もし良ければ……聞かせてくれませんか……? どんなお返事でも私は受け入れる覚悟ですから!」
「分かった、いいよ」
さっきまで泣いていた麗紗ちゃんは決意に満ちた顔で私にそう言った。
私はその言葉に頷いて告白の返事に答える。
「……私は男の人が好きだから、君を恋人として見る事は出来ない。ごめんね」
「……はい」
「だから私は、あなたとは友達でいたいかな。普通に仲良くしよ?」
「……はい、分かりました……うっ、ひっく、うわああああああん! ……先輩ヒドいじゃないですか! 私……フラれる覚悟はしてましたけど、キスで私の事を骨抜きにしておいてそれは罪作りにも程がありますよ!」
「なっ!? だからあれはお、応急しょ……」
「私は気持ち良かったのであれはキスです。された方がキスって言えばそれはもうキスです! 応急処置だなんて認めませんよ!」
「わあああああああ! やめて麗紗ちゃん! あれは仕方なかったんだってば―――!」
涙を拭って私のした事をからかってくる麗紗ちゃん。
やめてくれ……本当にやめてくれ……。
あれはノーカンなの!
私がそう全力で否定していると、麗紗ちゃんがふと笑顔でこう言った。
「うふふっ……冗談ですよ先輩! あと……友達ならちゃん付けはやめて下さい。前から思ってましたけどなんか他人行儀じゃないですか……」
「ああ……確かにそうかもね。じゃあ、これからは麗紗って呼ぶね。改めてよろしくね麗紗」
「え、えへへ……私も先輩の事……これから琥珀先輩って呼んでもいいですか!?」
「いいよ」
「きゃっーーー! ありがとうございます! こちらこそ改めてよろしくお願いします、琥珀先輩!」
「うん」
私達は名前で呼び合って握手を交わした。
そうして、私達は色々あったけど友達になった。




