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麗紗ちゃんは最狂メンヘラ  作者: 吉野かぼす
第一章 ここから私達の全てが始まったんですよね先輩!
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贖罪

ほんのちょっぴりグロ注意♡


「ふふっ……先輩、私良い事を思い付いちゃいました! 鉈が駄目なら能力を使えば良いんですよ! ほらっ!」


 麗紗ちゃんはそう言って桃色の糸で自分の人差し指をぶちんと千切り取った。指がポトリと床の上で跳ねる。


「ぎいいいいいいいいいっああああああああああああっ!!!」

「え……?」


 痛みに悶え苦しむ麗紗ちゃん。

 彼女の人差し指があった場所から赤い雫がボタボタと床に落ちる。


 私はこの子が一瞬何をしたのか分からず思考停止した。

 そして……数秒後ようやく理解した。


「はっ……あっ……いやあああああああああああっ!!!」

 な、なんて事をしているのあの子は……!? 

 自分で自分の指を千切るなんて……! 


「はあっ……はあっ……まだ、まだメインディッシュにもなっていませんから先輩……ご安心ください……っ! ぐあああああああああああああああああっ!!!」


 麗紗ちゃんは今度は中指を引き千切る。

 床に血の水溜りが広がっていく。


 そして彼女は自分の指をそう一本一本苦痛に喘ぎながらさながら雑草でも引き抜くかのように千切っていき、とうとう十本の指全部が無くなってしまった。


「おええっ……っ!」

 私はその光景のあまりのおぞましさに胃の中物を全て吐き出してしまった。

 人間のやる事じゃない……! 


「やめてっ……! 麗紗ちゃん……! そんな事をする意味なんてないよ! もういいから! 今すぐやめて!」

「先輩……? ああ、今度は幻聴ですか。おかしくなっている場合じゃないんですよ私!」


 麗紗ちゃんはまた自己完結して能力で自分の両腕を切り落とした。

 白く細い腕が血溜まりに落ちて血に染まる。


 彼女の身体から血が噴水のように噴き出す。


「ああっ……あ」

 凄惨すぎてもう声も出ない。

 目を背けたい。ここから逃げたい。もう見たくない。


 でも、身体は少しも動いてくれない。

 何故か目を逸らす事が出来ない。


「ううっ……はああっ……お次はっ、先輩の幻影を、見てしまうこのわる~い目ですねっ……!」

 麗紗ちゃんは糸を眼球の裏に入れて――抉り取った。


「がああああああああああああああああっ! あはっ、もう、片方もっ……! ぎいやあああああああああああああああっ!」


 身体から離れた二つの丸い眼がコロコロと床に転がり落ちる。麗紗ちゃんはそれを足で踏み付け、ぐちゅぐちゅと壊した。


「本当に、役立たずの、目でしたね……」

 彼女がもう原型を留めていないそれから足を上げると、血と白目と黒目が混ざり合った元眼球が姿を現した。


「どう、ですか、先輩……私の、贖罪……まだ……たくさん、あります、から……! 」

 目があった場所から滝のように血の涙を流し薄く笑いながらそう言う彼女。


 そこでもう、限界だった。

 というか、よく耐えたと後になって自分でも思う。

 私は自分の舌を嚙み切ろうとした。


 だって、これ以上、見てられない。

 あの子の想いを受け取りきれない。

 もう疲れた。心が摩耗した。ボロボロだ。


 ごめん、凍牙、千歳……。

 私でもこの子を助けるのは無理だった。


 優紀……。

 これからも園芸部頑張ってね……。


 お袋……親父……。

 せっかく産んでくれたのに高校生で死んじゃって本当にごめん……。


 ストーム……。

 私の今世の推し事はここで終わりみたい。一度でもいいからあなたに現実で会ってみたかった……。


 はは、最後に想うのは両親でも大切な恋人でもなく推しか……。

 私らしいと言えば私らしいな。

 そうして、自ら自分の人生の幕を下ろそうとしたその時。


 推しの声が、頭の中に響いた。

『常識の枷を外せ! 己を開放しろ!』

 私はその声で、はっと我に返った。


 ……このセリフは、主人公と彼が敵より下級の装甲しか持っていない状況で敵と遭遇してしまった時、絶望する主人公に言うのだ。

そのシーンは確か……。


『無理ですよ……! もう駄目だ……! だって奴等の装備は私達の二倍の性能を持っているんですよ!?』


『それがどうした?』

『いや……どうしたじゃ無いんですよ! ストームさん!』


『……もし仮に装甲の性能が二倍だったとしても、それに乗ってる奴が俺達の半分の操縦力しか無かったら五分だろ?』

『えっ……』


『常識の枷を外せ! 己を開放しろ! 性能で負けてんなら中身で勝負すりゃいいんだよ! 何ハナから諦めてんだ! とっとと行くぞ!』

『……はい!』


 それで主人公は覚醒して何とか敵を倒し、ストームは持ち前の操縦力で敵をボコボコにするんだったな……。


 ――私は今、常識に囚われてないか? 

 麗紗ちゃんをもう助けられないとか。


 恋色紗織は対策しようがないとか。

 八重染琥珀の能力が、触れてエネルギーを与えるだけだとか。


 ――そうだ! 私はまだくだらない常識に囚われたままなんだ。

 だから自殺などという事をやろうとしてしまったんだ。


 ――八重染琥珀は、触れた対象にエネルギーを注ぎ込んで勢いを持たせる能力。

 本当に、そうなのか? 


 本当に、わざわざ触れないといけないのか? 

 別に触れなくてもいいんじゃないか? 


 私は、八重染琥珀を発動させてみた。

 よかった。あの子は私の能力までは封じてないみたいだ。


 そして、その八重染琥珀のエネルギーを触れずに私の身体全体に行き渡らせる。

 やっぱり……! 


  私は常識に囚われていた。

 そんなんだからあんなメンヘラに捕まるんだ。


 今の私はもう捕まらない。

 誰も、私を閉じ込める事なんかできやしない!


「せん……パい……次は……!?」

「常識に囚われるなよ……そんなんじゃ他人に流されるぞ麗紗ちゃん……!」

 私は、八重染琥珀で自分の身体を宙に浮かしながらそう言ってやった。







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