千歳の実験その2
どうしよう。
筋は通ってるけどこの人を信用していいのかな……。
凍牙みたいに麗紗ちゃんを大事に思ってるのは伝わってくる。でもこれが全部私を拘束する為の演技だったら……。あの子ならそれを命令しかねない。
ただ本当だったら心強い味方になってくれるだろう。麗紗ちゃんの性格とか過去を知ってる訳だし。
そう私が迷っていると、千歳は仕方がないという風な表情をして言った。
「まあ、会って早々私を信用してって言われても判断が付かないわよね」
「ごめん……ちょっとあの子の今までの行動がね……」
「それなら信頼を築けばいいだけの事よ。はいどうぞ」
「何これ薬?」
「そうよ。琥珀ちゃん、あなたってばずいぶんボロボロじゃない。これは怪我に効くわよ。もし疑うなら今ここでこの薬を私が飲んでみせるけど?」
「別に飲まなくていいよ。貰うね」
敵か味方かどうか怪しい奴に薬渡されても普通疑うけどそこまで言うのなら本当に回復薬なんだろう。
私はそう考えて渡された透明な黄緑色の薬を飲んだ。
飲んだその次の瞬間、体の痛みがスッ……っと消えていく。
「なっ……治るの早すぎでしょ……」
「だってこれただの薬じゃないもの。私の能力で作った薬よ」
「て事はやっぱりあなた……」
「そう、琥珀ちゃんと同じ特色者よ。医療型のね」
やっぱり千歳も特色者だったのか。どうりでこんな一瞬で治る訳だ。
まあ、何はともあれ……。
「信頼は十分見せてもらったよ。よろしくね千歳」
「ふふっ、信じてくれてありがとう琥珀ちゃん」
これで、信頼できる仲間が加わった。
千歳は私の目の前に手を差し出して言う。
「琥珀ちゃん、握手しよ?」
「もちろん」
私はその差し出された手を握ろうとして……。
うっかり何かにつまずいてしまった。
「わあっ!?」
「きゃ!?」
しかもその勢いに千歳まで巻き込んでしまい、結果的に千歳を押し倒してしまった。
「いたた……ご、ごめん千歳……ん?」
「いやいや大丈夫よ~。あれどうしたの琥珀ちゃん?」
私は千歳にそう謝りつつ、私は偶然千歳の胸に乗っている右手の感触に違和感を覚えた。
あれ? 女の子の胸にしては感触が変だぞ……?
不思議に思って右手でそれを優しく握ると、パコッという高い音が響いた。
「ねえ千歳……これって……胸パッド……」
「ああああああああああああああああああ!」
「わあっ!? ご、ごめんごめん……つ、つい偶然で! 気にしてたんなら謝るよ!」
私の呟きに顔を手で覆い隠して叫ぶ千歳。
わ、悪い事をしちゃったなあ……。
何だかいたたまれなくなっていると、千歳が叫ぶのを止めて鬼のような形相でこちらを睨んできた!
「お前……知ったなああああああっっっっ!」
「ぎゃあああああああ! ごめんなさいーっ!」
ヤバい。私は千歳の特大サイズの地雷を踏んでしまった!
その証拠に千歳は白衣の懐からピンク色のドライヤーを取り出し……。
「焼き焦げなさい! 薬餌式ドライヤー銃!」
そこからハート型の炎の塊を放ってきた。
私は慌てて八重染琥珀でその炎を躱し、千歳から距離を取った。
ドライヤー型の火炎放射器……こんな物は見た事もない。
「な、何よそれ……」
「これは私が発明した薬餌式ドライヤー銃。この銃から出される炎は低温で燃え広がる心配が無いの。つまり……」
千歳は薬餌式ドライヤー銃を私に向けて言い放つ。
「室内だろうといくらでも乱射していいのよ! あはははははははっ!」
「わあああああああっ!? 熱い熱い熱いっ!」
薬餌式ドライヤー銃からハートの炎が撒き散らされる。
そのあまりの数に私の体はその炎に焼かれてしまう。
今低温って言ったよね!? 熱いじゃん! まあ炎にしてはって事なんだろう!
私は床を転がってその炎を消した。
「消した所で無駄よ! 弾はまだまだあるんだから!」
「うわあっーーー!」
転がって消したそばから千歳が炎を撃ってくる。
医療型なのに放出型の私より戦えるとかずるい! しかもこの薬餌式ドライヤー銃は弾速が結構速くて八重染琥珀を使う隙を与えてくれない。
何て厄介な銃……! でも不思議な事に服とかは焼けないから本当に人を容赦なく苦しめる為だけにある道具なんだろう。
誰だよこんなの発明した奴を信頼できる仲間とかほざいた奴は!
そうして長い間火炙りにされ続けていると、突然炎の連射が止まった。
何だ……? 何が起こったんだ?
「あら……弾切れね……リロードしなきゃ……」
どうやら弾切れみたいだ。
やった! 今の隙にあの銃を奪って千歳を説得するチャンス! 私は八重染琥珀で加速して千歳の銃を奪おうとした。
しかし千歳はそれを見越したように銃を懐にしまい……。
「いや、やっぱり別の方法で苦しめてあげる♪ “モルアディクト”」
能力を発動させて何かを飲み込んだ。
「なっ……!」
銃を奪い損ねた私は足でブレーキを掛け加速を止める。
千歳はそんな私を見て舌なめずりし、床を蹴って距離を詰めてきた。そのスピードは、凍牙の氷弾をはるかに凌駕する。
私は負けじと八重染琥珀を掛けた拳で対抗しようとした。
でも圧倒的に千歳の方が強く、私の攻撃は空を切り千歳の蹴りが私の横腹に吸い込まれる。
「ぐっ……!」
「私の能力“モルアディクト”はね、水から色々な薬を作り出す能力なの。今私が飲んだ薬は“ミルキーラビット”って言う身体強化薬よ。これを使うとウサギちゃんみたいに身軽になれるの」
千歳はご丁寧にも倒れる私に自分の能力について教えてくれる。
そして私の髪の毛を掴み私の体を持ち上げて更に続ける。
「あなた、私が医療型だから戦えないって思った? 違うのよね~。そういう思い込みをする人がっ! 私の胸を馬鹿にするのよっ!」
「がはっ……!」
千歳はそう言い放って私にボディーブローをお見舞いする。
くっ……貧乳は希少価値なのにっ……!
何なら私だってそこまで大きくないぞ!
私は殴られながら心の中でそう思った。




