終止符
「ううっ……」
元に戻ったエリアが呻き声を上げる。
意識を取り戻したのか……!
私達はとっさに臨戦態勢を取った。
「まだ戦う気なの?」
「ははは……戦えられればよかったんだけどね……もう指一つ動かせないよ……」
「ほっ……」
弱々しく答えるエリアにほっとする。
さすがに私達ももう体がボロボロだった。
これ以上戦うのはかなりつらい。
「じゃあ決着はついたって事でいいですか?」
「ああ……私達の完敗だ……負けを認めよう……地球からも手を引く」
「そっか……よかった……」
エリアが約束を守ってくれればもう地球が支配されることはない。
なんとか地球の平和は守れたな。
「ずいぶんと落ち着いているな……この私に勝ったのだからもっとはしゃいでくれてもいいんだぞ?」
「そんな元気ないってば……限界だよもう……」
「……帰ったら何回したいですか?」
麗紗がこそっとエリアに聞こえないように聞いてくる。
即答する。
「103回くらいかな」
「ものすごい元気じゃないですか! 安心しました!」
にっこりと笑う麗紗。
この子はこんなところで私を焚き付けて何がしたいの?
我慢できなくなるでしょ!
本当に何やってるの!
「エリア……! まって……! わたしはまだ戦えるわ……! わたしたちは負けてないわよ……!」
「ヘルル……もういい……!」
「でも……!」
ヘルルが無理矢理体を起こそうとした。
それをエリアが止める。
「勝負はついた、だろう?」
「……いや! わたしたちのほうが愛し合ってるんだから……! 負けるわけないんだから……!」
ヘルルは意地でも立とうとする。
体中が震えているのに……敵ながら凄い根性だ。
根性というよりは、執念といった方がいいのかもしれない。
そんなヘルルを、エリアは優しく諭す。
「私達が負けたからといって、それで私達の愛が彼女たちに劣る訳じゃないさ。私達には私達の愛があって、彼女達には彼女達の愛があるのだから」
「エリア……! そうね……!」
ヘルルは目に涙を浮かべながら頷いた。
宇宙人でもまともな事言うんだな。
「むしろそれで勝って調子に乗るほうが負けよ! あいつらみたいにね!」
「ははっ! そうだな」
「うわっ……」
「そういうの負け犬の遠吠えって言うんですよ?」
やっぱりこういう奴らだった。
そもそも人の惑星支配しようとする奴がまともなはずがなかった。
というか麗紗も結構言うなぁ。
そういうところ大好きだよ。
「琥珀先輩、こいつらどうします? 止めを刺しておいた方がいいんじゃないでしょうか」
「うーん……」
確かにこいつらが約束を守る保証はどこにもないし、あと一回くらいならなんとか攻撃もできそうだ。
でも……。
「やめておこう、麗紗」
「な、なんでですか?」
「この人達が私達を特色者にしてなかったら、きっと私達はこうやって出会えなかったんじゃないかな」
「……っ!」
「そう思ったら、なんかね」
倒そうという気は無くなってしまった。
もしかしたら、これもこいつらの狙いだったのかもしれない。
でも、私達は今こうして幸せでいる。
それでいいんじゃないかって思った。
「……そうですね。じゃあ見逃してあげましょうか」
「うん」
「……命乞いをした覚えはないが……ありがたく生きるとするよ……」
「まだわたしたち、愛し合い足りないもの……」
二人は私達にそう言って、死んだように眠った。
喋って体力を使い果たしたみたいだ。
「……それじゃあ、帰りましょうか」
「そうだね」
私達が静かにそこを立ち去ろうとしたその時。
「おらァ!」
床から漢野が飛び出てきた。
「漢野!?」
「俺だけじゃないぜ!」
「お嬢様! 琥珀さん! 無事でしたか!」
「大丈夫!? 怪我はしてない!?」
「やっといたか……あ~あ、探すの面倒だったぜ……!」
「みんな……!」
漢野の言う通り、床に空いた穴からみんながひょっこりと現れた。
みんな怪我はなさそうで無事みたいだ。
千歳が治してくれたのかもしれない。
「無事だったんだね……!」
「当たり前だろ! ちょっと死にかけたけどな!」
「おい」
漢野は明るくとんでもないことを言った。
いつも通りだけど……。
きっとみんなも、強力なヘルル族と戦ったんだろう。
「それじゃあ、みんなで帰りましょう」
「うん!」
麗紗の言葉に、みんなが頷いた。
こうして、全ての元凶、ヘルル族との闘いは幕を閉じたのであった。




