飼ってあげる
ソイアとピセッロの二人は能力の高さゆえ幼い頃からヘルルの護衛としてスカウトされ、訓練を受けていた。
特にソイアは、能力の応用性の高さ、本人の戦闘センスからとても活躍を期待されており、美しい容貌も相まって周囲の憧れの的だった。
「勝者、ソイア!」
「お姉様……やっぱりかっこいい……!」
実践訓練の試合で、相手を華麗に叩きのめすソイア。
綿密な戦略から導き出される姉の鮮やかな勝利は、ピセッロの目を磨き上げた宝石のように輝かせた。
「私も、絶対お姉様みたいになってみせるわ……!」
ピセッロは、自分の姉がこんなにも素晴らしい人間であることが一番の誇りだった。
「そしていつかお姉様と……きゃーっ!!! もう! 私ったら!」
ピセッロは自分の幸せな妄想に頬を押さえて身体をくねらせる。
その想いはとうに尊敬の念を通り越して、血のつながりを超えた恋慕の念にまで成長していた。
「ふう。勝ててよかったわ~」
「ソイアお姉様! すっごくかっこよかったです! 私、もう、ドキドキが止まらなくて……! 心臓発作で倒れそうになっちゃいましたよ……! でもお姉様の雄姿を見ながら死ねるのなら本望なんですけどねえへへへ……!」
戻ってきたソイアに、ピセッロはすぐさま駆け寄る。
「もうピセッロ……言い過ぎよ。って心臓は大丈夫なの!?」
「あはは! 冗談ですよぉ! こんな時でも心配して下さるなんてお姉様ってば本当にお優しいですね……!」
ピセッロはソイアの腕にすりすりと頭をこすりつける。
「えへへへ……お姉様だいすき……!」
「もう……! 甘えん坊なんだから……!」
ソイアは呆れたように笑って、ピセッロを受け止めた。
(ソイアお姉様と、ずっと一緒に居たいなあ)
ピセッロは、ソイアを見る度、ソイアを話す度、ソイアと接する度に想いを募らせていった。
しかしある日、どういう因果かピセッロは優しく完璧な姉の本性を見てしまった。
「あれ……? お姉様の部屋のドアが空いてるわ……」
ソイアの部屋のドアが半開きになっており、覗けば中が見えてしまう状態になっていた。
「はあっ……んっ……ピセッロ……ぉ……!」
「ん? お呼びですかお姉様?」
部屋の中のソイアに名前を呼ばれて、ピセッロは部屋の中に入った。
いや、入ってしまったと言った方が正しいかもしれない。
そこには、涎を垂らしながら縄で自らの体を縛る姉の姿が。
「ピセッロ……ぴせっろ……ぁん! いいわよぉ! もっと私を虐めてぇ!」
「お姉、様……?」
「えっ」
しかも、妹の、ピセッロの名前を恍惚に満ちた艶やかな声で唱えながら。
「これは……どういう事なんですか……?」
「きゃああああああああああああああああ!!?」
ソイアの悲鳴が、天井を突き抜ける勢いで響き渡る。
そしてすぐさまベッドに滑り込み、毛布をかぶった。
ピセッロは、何が起きたのかまったく分からず固まってしまった。
(お姉様が……私の名前を呼びながらあんなことを……)
呆然と、目の前の事実を噛みしめる。
(お姉様は……完璧で……かっこよくて……私なんかよりもずっとすごい人で……)
頭がゆっくりと動き始め、ピセッロの中での結論が出る。
(でも……私のことを求めて下さっていたんだ! 私ったらそれに気付かないでずっとお姉様を一人にして……私の馬鹿!)
ピセッロは、ずんずんと、決意に溢れた足取りでソイアのベッドに近付いて声を掛ける。
「お、お姉様……」
「私はもうあなたのお姉ちゃんでいる資格はないわ……放っておいて……」
「え、えいっ!」
「あんっ!?」
勇気を出して、ソイアの体をぽこっと殴るピセッロ。
これが二人の“初めて”だった。
「お、お姉様が……私に虐めてほしいと言うのなら……私は……いつでもお姉様のことを虐めますっ! だから……姉の資格がないだなんて言わないで下さい……私にとっては、今のソイアお姉様も大好きなお姉様であることには変わらないんですから!」
「ピセッロ……あなた……」
ピセッロのひたむきな想いに、ソイアはかぶっていた毛布をどけて顔を上げた。
「こんな駄目で変態な姉でも、許してくれるの?」
「当たり前です! むしろ、お姉様が私を必要としてくれたことが嬉しいですよ!」
「ピセッロ……! ありがとう……!」
「いいんですよ。私は、お姉様のことが大好きなんですから!」
姉妹はぎゅっと抱擁を交わした。
お互いの愛情を確かめうように。
「それでピセッロ、さっそくで悪いのだけど私の上に乗って首を絞めてほしいわ」
「はい! 喜んで締めさせて頂きますお姉様!」
「あぁっ……! いいわ……すっごくいいわぁ……! そ、それで私に『お姉様は妹で発情する畜生なんですね。虫唾が走るわ』って言って!」
「お、お姉様は妹で発情する畜生なんですね。虫唾が走るわ……」
「あああああん! 棒読みでも気持ちいいぃ! もっと蔑んで! 汚物を見る目で言って!」
「お姉様は妹で発情する畜生なんですね。虫唾が走るわ。気持ち悪くてもう吐いちゃいそう……こ、こんな感じですか?」
「ああぁぁぁ~っ! 蔑んでくれる上にアドリブまで入れてくれるなんて最高じゃないぃ! 今の、最っ高に気持ちよかったわ……あ、もうお姉様だなんて言わないで家畜って呼んで!」
「……それは駄目です。お姉様はお姉様ですから」
「ええ~。別にいいじゃない。ストレス発散になるし」
「その代わり、一生飼ってあげる。一生妹に勝てない、情けなぁ~いお姉様として」
「ひぅん! は、はぁ~い!!!」
「……あのお姉様が、私の手で………………」
素質たっぷりのピセッロの攻めは、ソイアの欲求を大いに満たした。
だんだんとピセッロも攻める快感に目覚めていき、姉妹の仲は発展し続け、結婚が許された瞬間に結婚した。
「お姉様……逃げられると思わないでね?」
「んんっ! ふへへ……私はピセッロ様に一生仕える奴隷でしゅ!」
「……ふふっ。よく分かってるじゃない」
ピセッロは、自らの調教の上手さに我ながら感動した。
姉妹の爛れた関係は、これからも永遠に続いていくのだろう。
お互いの愛が、それを築き上げていた。




