まのーぶれーき
「マーライオンにしてあげるっ! “knightjump”」
バネを足に具現化させ神速を得て、真乃はまるで居合切りのように回し蹴りを入れた。
「きゃっ!?」
「ぐふぉ! こ、この人間……速いわ……! 気を付けてピセッロ!」
姉妹は真乃の速さに追い付けず蹴りを食らう。
「ええお姉様……! この前のような失態を見せるわけにはいかないわ……! “シャロットブリッツ”!!!」
負けじとピセッロが水色の光弾を乱れ撃つ。
鮮やかな水色の弾幕が、真乃を阻む。
ピセッロの能力、“シャロットブリッツ”は水色のエネルギー弾を放つ能力だ。
弾速や弾道、弾の大きさは自由に変更可能であり、さまざまな戦法を取ることが可能となっている。
分類はレベル10以上の放出型。
「くっ……! これじゃ迂闊に近づけないわ……! この数だとスピードを出し過ぎたら避けられない……!」
「へっ、どいてな。ここは俺がやってやんよ~。“百姓――」
「アンタは引っ込んでなさい! 邪魔よ!」
「どわっ!? 何しやがる!」
真乃は耕一郎を突き飛ばして一人弾幕の中に飛び込んだ。
加速を抑えながら弾幕を躱し、距離を詰める。
「私一人で十分なのよ……!」
「見つけたわよ! “スプラウトワークス”!」
避ける事に集中している真乃に、ソイアが大砲を具現化させ、砲口を向けて発射した。
周囲の空気を。
不可視の砲撃が、無防備な真乃を襲う。
「ぐっ……!? きゃあああああああああああ!!!」
真乃の体が突き飛ばされ、光弾にぶつかった。
光弾が爆ぜ、その爆発が隣の光弾にも伝染し、大爆発となる。
真乃の体は爆炎に包まれた。
「あのバカ野郎……! “百姓一揆”!」
耕一郎はとっさにトラクターで防壁を作り、爆発から身を守った。
「あなたスピードを落としてたわね? あんまり速度を出すと制御が難しくなるみたいね~」
「その程度の速さでソイアお姉様の目をごまかせるとでも思ったの?」
「ごほっ……! ふざけんじゃ、ないわよ……!」
真乃はせき込みながら拳をぐっと握り締める。
ソイアの能力、“スプラウトワークス”はあらゆるものを撃ち出せる大砲を具現化させる能力だ。
大砲は空気などの気体や液体のみならず、どんな不安定な物質も“弾”として撃ち出すことができる。
また、真乃に放った不可視の砲撃は空気の弾だ。
レベル10以上の具現化型に分類される。
「おいアンタ! うかつに突っ込むんじゃねえ! 相手は二人いんだぞ!? ここは嫌でも協力するしかねえよ!」
「黙ってなさい……! 私はアンタの力なんか借りなくたって勝てるんだから……! そこで指でも咥えて見ていなさい……私の強さを……! “knightjump”!!!」
真乃は耕一郎の呼び掛けを無視して、床に手のひらを向け床に夥しい数のバネを出現させた。
「さあ……遊びましょ?」
「こ、これは――」
「ピセッロ、気を付け――」
姉妹が動こうとした時にはもう遅かった。
水色のバネは、姉妹の体を天井へと跳躍させる。
「「きゃあああああああああああ!!!」」
「どわああああああああああああ!!!」
耕一郎も巻き込んで。
もちろん真乃の故意である。
「あはははははは! まだまだあるわよ! ほらほらほらほらぁ!」
「くっ……! うかつに攻撃できないわ……!」
「目が回るわ……! こんなに目が回ったのはソイアにコマにされた時以来だわ……!」
「おい完全に憂さ晴らしじゃねーかこのクソ女ぁ!」
三人はバネに翻弄され続けた。
真乃の奥の手が、人数の不利を覆したのだ。
「こうなりゃヤケだ……! “百姓一気”!」
耕一郎はイチかバチかでバネからの脱出を試みた。彼の体から、白いボンドのようなものが大量に溢れ出す。
「鳥もち……! 農業に邪魔な鳥とっつかまえるんだから農具に入るよな!」
大量の鳥もちが、真乃のバネを包み込む。
バネの力が大幅に弱まり、ただのオブジェと化した。
「よっしゃ! これで飛ばなくなったな! ……う、動けねえ……」
もちろんそれには代償もあったが。
耕一郎の体が、鳥もちに捕らえられる。
「きゃあああああああ!!! 何よこれ!?」
「く、くっつくわ……!」
姉妹の体もまた、鳥もちの餌食となった。
「アンタ何してんのよ!? 私のバネが台無しじゃない!!!」
「お前が俺を巻き込んだのが悪いだろーがボケェ!」
「はぁ!? アンタなんてずっと跳ね飛ばされてればよかったのよ!」
「ふざけんじゃねえぞ! 俺は――」
「“シャロットブリッツ”」
「“スプラウトワークス”」
「きゃあ!?」
「どわっ!?」
二人仲良く言い争っていると、姉妹が自らの能力を掛け合わせ凄まじい砲撃を放った。
ピセッロの水色の光弾を、ソイアの大砲で撃ち出す。弾は大砲を得て破壊の化身となる。
水色の光弾が鳥もちごと二人を吹き飛ばした。
「ぐぁ……っ! 何だ……!?」
「痛い……わね……っ!」
「的が固定されてると当てやすいわね。ありがとう。敵にモケモケを送るなんて地球の人達はおつむが足りてないのかしら?」
「ねえピセッロ……それ私にも言って?」
「お姉様はこんな時でも頭が悪いのね」
「ああん! 敵よりもひどい言い方! 私いっちゃう!」
姉妹は光弾で鳥もちを破壊して逃れる。
戦闘中でも仲睦まじいのは素晴らしいことだと……言えるだろう。
「めちゃくちゃだなお前ら……! あれをはがすなんてよ……」
「あんなの私とお姉様の愛の前ではゴミ同然よ。ね、お姉様?」
「ゴミ……いい響やああああああああん!!!」
「……お姉様は返事もろくにできないの?」
ピセッロはソイアの髪の毛をぐいっと引っ張る。
ソイアの嬌声が、高く響いた。
「ずいぶんと余裕そうじゃない……! 戦ってる最中でもプレイに勤しめるなんてね!」
その隙を狙って真乃が突撃する。
「余裕に決まってるじゃない。“シャロットブリッツ”」
「うっ!?」
しかし連射された水色の光弾に止められてしまった。
「火力を犠牲にして弾速と連射力だけに力を入れてみたの。お味はいかがかしら?」
「くっ……! もう一回……!」
真乃は諦めずに再び攻撃の体勢に入った。
「馬鹿の一つ覚えもいいところね。もう手を出し尽くしちゃったのかしら?」
「奥の手は取っておくものよ。私達みたいにね。行くわよ、ピセッロ」
「はい……ソイアお姉様」
そんな真乃を気にも留めず、姉妹はお互いの手を絡め取って恋人繋ぎをし、唇を重ねた。
「なっ……何してんのよアンタ達……!?」
「んんっ……」
「むっ……」
姉妹が愛情を唾液と共に口の中に流しあうと、姉妹の体が眩い光を放ち始めた。
「な、何よこれ……っ!」
「眩しすぎだろ……! どうなってんだ……!?」
二人はあまりの眩しさに目を瞑るほかなかった。
光が消え、視界が元に戻る。
「えっ……」
「融合した……!? 嘘だろ……!?」
『また一緒になれたわね! ピセッロ!』
『ふふふ……私達の愛を地球人に刻み付けてあげましょうね、お姉様!』
“混色”してひとつになった姉妹が、二人の前に姿を現した。




