かえらせろ
「この世から消えろ! 化物めぇ!」
「地獄で串刺しになれぇ! 桜月麗紗ァ!」
「何なのよ……! こいつら……っ!」
麗紗は糸で特色者たちの攻撃を防ぎながら、自分に向けられる殺意に困惑する。
「やたらと統率が取れてるわね……あいつが仕込んだ特色者に違いないわ。はあっ!」
麗紗は自分を中心に夥しい数の糸を放ち、特色者たちを薙ぎ払う。
塵も積もれば山となるが麗紗にとって山を壊すことなど朝飯前だった。
「「「「「ぐあああああああ!!!」」」」」
「おのれ桜月麗紗ァ! よくも同志をッ!」
「この悪魔め! どこまで罪を重ねれば気が済むんだ!」
「罪……? 私と琥珀先輩の時間を奪ったあなた達を殺す事になんの罪があるの?」
罵倒を浴びせられても今の麗紗には痛くも痒くもない。
彼女にとってこの世界の法とは琥珀だけだ。
決めるのは琥珀。裁くのは琥珀、許すのも琥珀。
琥珀以外が何を言おうと戯言でしかない。
「ふざけるな……! 罪を認めないだと……!」
「ならば私達が……お前に天誅を下す!」
「えっ……?」
特色者たちは、銃を取り出して、その撃鉄を引き。
『『『『『安定解除』』』』』
「グぃぃぃぃぃぃ!? ぁおおおぉぉあああぉオアぁあァあァぁ!?!」
「ええおえおおおっ?えおえおおおえ???っっっおおえおええお??」
「びいいいいい、びいい、びびびびびびいいいいいぴいやああああああ!」
赤黒い火花が迸る霧に包まれて、歪な悲鳴を上げる。
「な、なによ……これ……」
麗紗は内臓を投げつけられたような気色の悪さに、思考を止める。
特色者たちは、誠司からこう指示されていた。
『どうしても桜月麗紗に敵わない場合には、銃を二回撃ちなさい』
それが、自分と命を捨てる行為であることは伏せられて。
「れぶ、れぶれれれれぶぶれえれぶぶえぶぶえ」
「ふぃ!ふぃぃいぃいいぃいぃいぃいいいいいぃ!」
「ば.どどど.ばどばどばど.ばどどどど」
霧の中から、おぞましい化物が現れる。
不快害虫を繋ぎ合わせてさらに醜くしたような化け物が。
「ひっ……!」
麗紗は思わず後ずさった。
にじり、と化物たちが詰め寄る。
「いっ……いやあああああああああ! 来ないで!」
麗紗は糸を化物たちに放つ。
しかし化物たちが能力だった何かを出し相殺してしまった。
「嘘……強くなってる……!? 出し惜しみはしてられないわね……! “恋染珀織”」
麗紗は自身の体を桃色の糸で球状に包み込み、桜色の巫女服を紡いだ。
「はあっ!」
能力だった何かを振り切り、化物たちに蹴りを打ち込んでいく麗紗。
神速かつ星のように重い蹴りに、化物たちの体が爆散する。
どちゃどちゃと、溶けた内臓らしきものが床に広がった。
「はあっ……はあっ……」
麗紗は息を切らしながら、“恋染珀織”を解除する。
「これで全部……よね……」
きょろきょろと周りを見回して、死体しかないことを確認する。
麗紗はその光景に軽く吐き気を覚えつつも糸を出し、壁に穴を空けた。
「ここから出て、はやく琥珀先輩のところに行かなきゃ……!」
麗紗はその穴から外へ出ようとした。
しかし、麗紗の体は見えない壁のようなものに阻まれた。
「えっ……何なのよ……これ……!」
もう一度麗紗はその穴を通ろうとしたが、また見えない壁にぶつかってしまう。
「なんで……? 私は琥珀先輩のところに帰らないといけないのに! かえらせろかえらせろかえらせろかえらせろかえらせろかえらせろ!」
麗紗は見えない壁をがんがんと殴るが、その壁は全く壊れそうにない。
「どうなってるの……!? ふざけないでよ! 私は琥珀先輩に会いたいのに! 私はこんなに寂しいのに! 誰なの!? こんなことしたのは……! 私に何がしたいの!? 私が何をしたって――」
「耳障りな声ね。口を縫ってくれないかしら」
「はぁ?」
怒り狂う麗紗の背後に、冷ややかな声が浴びせられる。
突然声を掛けられた麗紗は、所作を荒げつつも振り向いた。
そこに立っていたのは。
「お前は……!」
「だから、無駄な口を開かないでくれる? あなたの声を聞いていたら耳が腐りそうなの」
桜色の長い髪の毛をなびかせ、ブランド物の洋服に身を包み。
整いながらも生気のない、麗紗と似た面影を感じさせる顔立ちをしている。
麗紗の実の母親、桜月藍羅だった。
 




