雇いすぎ
「はあっ!? どうしてそんな事になってるの!?」
『知らないわよ! 私も何がなんだか分からないわ!』
二人は頭が爆発した。
脳がその混沌とした内容の情報を受け付けなかった。
「ど、どどどどどうしたら……」
『とりあえず、弥栄が桜月麗紗に何かされたのは確実だわ! そうじゃなきゃこんなのありえないわ! 助けに行かなきゃ……!』
「でも助け出せるの……? 相手はあの桜月麗紗だよ……?」
『方法ならあるわ。私に任せて』
「黒萌さん一人じゃ危ないよ。私も行く」
『えっ……でも……』
「無茶しないでよ。黒萌さんにもし何かあったら……私……いや、何でもない。とにかく、私も行くよ。少しは、役に立てると思うし」
「わ、分かったわ……」
優紀は半ば無理矢理みるりを頷かせる。
もう彼女の中ではとうに銃を使う覚悟は整っていた。
「それじゃあ、行こうか」
*
*
*
「新人の羽田真乃でーす。よろしくお願いしまーす」
「吉良榎葉。よろしく」
「霜降つみれよ。よろしくね」
「根津右近って言いまーす! よろしくぅ!」
「我が名は晴衣核……! 貴様に俺の力を使う器があるかな?」
「みんなよろしくね」
「どうしてこうなった……」
私は新しく雇われた使用人達の顔ぶれを見て思わずそう呟いてしまった。
本当に何で……? まあ確かにこいつら麗紗側についてたけどさ……。
遡ること2時間前。
この前みたいに私と麗紗と真乃の三人で話していたらふと真乃がこんな事を言った。
「そう言えば私今就職先見つけないといけないのよね。麗紗のあの計画は無くなっちゃったし」
「そっか……財閥辞めてるから……」
「あんな人を食い物にする事しか考えてないドス黒い会社にいつまでも居られないわよ」
「ごめんなさい……私の親を騙ってる奴のせいで……」
「いやいやいや! 麗紗は何も悪くないわ!」
麗紗が真乃の言葉にひどく落ち込んだ。
言葉は選べ真乃。殺すぞ。
謝ってるからまだ許すけど。
それにしても麗紗の親への憎悪凄いな……。
何があったんだろう。
場合によっては殺さなきゃいけなくなる。
そんな事を思っていたら、麗紗が。
「ありがとう真乃……そう言ってくれるだけでも嬉しいわ……就職先なら私も探してあげ……あっそうだわ!」
ある事を閃いた。
なぜだか嫌な予感しかしなかった。
「真乃、ここの使用人になる気はないかしら!? お給料なら弾むわよ!」
「えっ!? 本当!? いいの!?」
「もちろんよ!」
「嘘でしょ……」
それは真乃を使用人として雇う事だった。
麗紗の経済力なら雇えるだろうけど、そもそもこいつ使用人の仕事できるの?
と、疑問を持たずにはいられなかったけど、麗紗がおばかだったのと、真乃がやる気マンマンだったせいであっさり採用された。
そしてついでに真乃の同僚と部下たちも一緒に雇われた。
まあ、使用人は私と麗紗の時間を邪魔するものじゃないからいいんだけどさ……。
それはそれとしてちょっとおばかな麗紗もかわいいよぉ!
回想おわり。
「あ、新しい使用人の方を!? 大丈夫なのですか!?」
「大丈夫よ凍牙、全員私の知り合いだから。今まであなた達あんまりお休み取れてなかったからこれで取れるようになるわよ。良かったわね」
「お気遣い感謝致します」
「ありがとう、麗紗」
「いいってことよ」
「……なるほど」
麗紗はそこを考えてたのか。
人手を増やして三人の負担がちょっとでも軽くなるように……。
おばかとか言ってごめん麗紗。
まあ真乃達の働き口を作りたかったのが一番なんだろうけどね。
でも、約一名不満げな顔をしている人がいた。
「なんであいつがここにいるんだよ……」
耕一郎が、真乃を見て固まっている。
そういえばこの二人は謎の因縁があるんだった……。
麗紗そこ忘れてないよね? 大丈夫?
「あんたここの使用人だったわね。ふふ……ちょうどいいわ。積年の恨み、ここで晴らさせてもらうわ!」
「おい榎葉! なんでてめえがここに居んだ!」
「えっ」
耕一郎は真乃の決め台詞を素通りして、榎葉こと吉良さんに突っかかった。
え……?
その人にも何かあるの……?
いくらなんでも因縁多すぎるでしょ耕一郎……。
頭が痛くなってきた……。
「うるせーな。人の勝手だろ? めんどくせえこというなよ。それともお前、まだ私の事引きずってんのか?」
「別にそれはねーけどよ……お前が職場に居たら微妙に調子狂うだろうが!」
「気にしなきゃいいだろ。私は別にてめえと同じ職場だろうが何だろうがどうでもいいんだよ」
「ああそうかよ!」
引きずる……? 調子が狂う……?
耕一郎は昔吉良さんにフラれたのか……?
でも……ちょっと違う気がする。
なにかもっと別の関係……まさか元カノ?
いやいやいやいや! あの耕一郎にそんな色恋沙汰なんてあるわけないか!
二人から同じようなニオイと雰囲気はするけどそんなわけ……。
「おい麗紗! なんでよりにもよって俺の元カノ雇っちまうんだよ! こいつと付き合ってた過去なんて下水道に流してきたのによ!」
「おい待……」
「は?」
耕一郎が、決定的な一言を発した。
膨大な殺気が、耕一郎に向けられる。
 




