かたやぶり
「体が重いです……琥珀先輩のせいですよ……もう!」
「麗紗が悪いんだよ? あんなえっちな体触らされたら興奮するに決まってるじゃん」
お風呂に上がった私達はのんびりと歩きながら麗紗の部屋に戻ろうとしていた。
湯上りの麗紗かわいいなあ。
麗紗がかわいいのはいつもの事だけどかわいいなあ。
髪の毛がしっとりとしていて艶やかな趣を出している。
ふわっふわなバスローブも可愛さを引き立てていてすごくかわいいぃ!
最近の私はかわいいしか言ってないような気がする。
まあいつも超絶かわいい麗紗と一緒に居たら無理もないか!
などと思っていると、麗紗が瞳孔を開いて私の袖を掴んで言った。
「琥珀先輩……まさかそんな事はないとは思いますけど私の事を性的な目でしか見ていないなんて事はないですよね? ちゃんと私の事を見ていてくれていますよね? ちゃんと私の事を愛してくれていますよね? えっちだけが私達の全てじゃないですよね? 私は琥珀先輩の事を信じていますよ? でも、でもでもでもでも最近の琥珀先輩はえっちな事しかしないじゃないですか。これはどういう事なんですか教えてくださいよ琥珀先輩」
なるほど……そっか……麗紗はそこが心配だったんだね……。
でも大丈夫だよ麗紗……!
「麗紗……私はどうしたら一番麗紗に愛を伝えられるのか常日頃からいつも考えてるんだよ。それで辿り着いたのが麗紗とのえっちなの。麗紗と極限まで限界まで愛し合って一つになる事でしか麗紗に本当の愛を伝える事は出来ないって……私はそう思ったんだよ。だからね麗紗、私は麗紗をえっちな目だけでしか見ていないわけじゃないよ? 私は麗紗の見た目も性格も何もかも全部が好きなの。私の世界の全部が麗紗なんだよ!」
私は麗紗の事好きすぎて爆発しそうだから!
もう色々と爆発しちゃってるけど!
愛を言葉という型に押し込めたものを口に出すと、麗紗は少し後ずさってぼそぼそとこう言った。
「そ、そこまで言うんですか……こ、琥珀先輩の事を疑ってすみませんでした……」
「ちゅーしてくれたら許したげる」
「こ、ここでですか!? わ、分かりました……」
冗談半分で言ったらほんとにちゅーしてくれた。
麗紗はまじめだなあ。かわいいいいいい。
そんな風にいちゃついていたら、背後からコツコツと足音が聞こえてきた。
麗紗がぴょんと離れてしまう。ああ~。
もっとくっいていてほしいのに……。
「あらごめんなさい。邪魔しちゃったかしら」
「いやいや大丈夫だよ……全然……」
「そこまで残念そうな顔されるとすごく心が痛むわ……」
出てきたのは千歳だった。
本当に申し訳なさそうな顔をしている。
私ってそんなに顔に出るタイプだったっけ……。
麗紗が割と顔に出やすいタイプだから影響されたのかもしれない。
これでまた一緒な所が増えたね麗紗ぁ!
「あら……? 琥珀ちゃん、右目が赤くなってるけど大丈夫?」
「あっ……そういえばそうだった……」
千歳が私の右目を見て心配そうな顔をした。
すっかり忘れてたけど目の色が変わってるんだよね……。
「やっぱり赤くなってますよね……言いそびれちゃってましたけど……」
「うん……でもいつの間にか赤くなってたんだよ。ぶつけたって訳でもないし……痛みも全然ないんだよね」
何でこうなったのかがさっぱり分からない。
今の所実害は無いからいいんだけど……。
すると千歳がルーペを取り出して言う。
「ちょっと見てみてもいいかしら?」
「うん……いいよ……」
千歳が見たら何か分かるかもしれない。
私はルーペで目を覗かれながら出来るだけまばたきしないようにした。
そして千歳はしばらくして私の目からルーペを離した。
「大体分かったわ。まだ詳しくは調べてないから推測の域は出てないけど……」
「本当に!? すごいよ千歳!」
「合ってるかどうかは分からないわよ。確証はもてないわ」
私は千歳の解析力に驚いた。
なんでこんなにすぐに分かるんだろう。凄すぎる。
「それでもさすがよ千歳。で……琥珀先輩の目が赤くなった原因って何なの……?」
私の代わりに麗紗がおずおずと千歳にそう聞く。
すると千歳は意外な事実を口にした。
「琥珀ちゃんは目を怪我した訳でも病気になった訳でもない。その所見が見当たらないの。だからこれはおそらく……琥珀ちゃんの能力の型が変わったせいよ。放出型から特殊型に」
「えっ!?」
「そ、そんなことってあるの……!?」
私の“八重染琥珀”の型が変わった……!?
しかも特殊型に……!?
どういう事なの……!?
何が起こってるのか余計に分からなくなったぞ……。
混乱する私達を落ち着かせるかのように千歳がゆっくりと説明してくれる。
「元々、大幅な心境の変化で能力の型が変わって目の色とか髪の色も変わるっていう事例は本当に稀にだけどあったわ。具現発動型から放出型になったり、放出型から医療型になったり……。でも特殊型になるって事例は今まで見た事がないわ。琥珀ちゃん、何かここ最近で変わった事とか……」
そこまで説明してから、千歳はふと何かに気付いて口を止めた。
そして、申し訳なさそうな顔をしてこう続けた。
「……最近は琥珀ちゃんにとって心境の変化どころの話じゃ無かったわね……ごめんなさい……」
「あっ……いやいや大丈夫だよ! 全然気にしてないから!」
私は落ち込む千歳を慌ててそう言った。
あの激動の時間があったから私は麗紗と付き合えたわけで……。
ていうか能力の型が変わったのはもしかして麗紗と付き合い始めたから?
……これはすごく嬉しい事なのでは? 麗紗と同じ特殊型になれたんだし。
「ねえ千歳……これはきっと私と麗紗の愛の結晶なんだよ! 私と麗紗の愛が、私の能力を変えたんだよ! 麗紗と同じ特殊型に!」
「そ、そうね……そうかもしれないわ……」
「琥珀先輩……! 能力の型を変えるまで私の事を愛してくださってるなんて……きゃーっ!」
千歳もこの完全完璧な理論に納得してくれた。
麗紗は私の愛の大きさに飛び跳ねて喜んでくれている。
世界中が私達の仲を祝福してるみたいだ! あはははは!
「まあそれはそれとして……琥珀ちゃんが特殊型になったって事は“八重染琥珀”が変質したか新たに能力に覚醒したって事だから、今までの“八重染琥珀”とは違う何かしらの新しい能力が琥珀ちゃんに宿ってるはずよ。今度暇がある時にでも確かめてね」
「そんな重要そうな事を気軽に言わないでよ……」
千歳がソシャゲを勧めるようなノリですごく大事な事を言ってくる。
もうちょっと仰々しく言ってもよかった気がするのは私だけ?
それにしても新しい能力か……。
どんな能力なんだろう。
そう考え込んでいると、麗紗が手をぽんと叩いてこう言った。
「琥珀先輩の新しい能力……きっと私の考えてる事がいつでも分かる能力に間違いありません!」
「そんなの能力なんて使わなくても分かってるよ麗紗!」
「さすがです琥珀先輩! だーいすきっ!」
麗紗の考えてる事なんて私には手に取るように分かる。
なぜなら私はとんでもなく麗紗の事が大好きだから!
私達はお互いをぎゅっと抱きしめ合った。
「私は何を見せられてるのかしら……」
なんだか千歳が遠い目をしている気がするけど私は気にしない!




