琥珀VS識英凍牙その1
方法はたった3つしかない。
その1:あいつを足止めして厨房にあるフライパンとかを盗み八重染琥珀で氷ごと扉を壊す。
その2:窓から逃げる。
その3:諦めて麗紗ちゃんとラブラブ新婚生活を送る。
3は絶対に無いとして、2も他の使用人に感づかれる可能性があるので1とさしてリスクは変わらない。だからここは最初に1を実行してみようと思う。
私は厨房に入り、置いてある空の鍋を手に取って八重染琥珀を込める。
するとコックが私に気付き、振り返って笑顔を浮かべながら言う。
「どうかなさいましたか? ランチタイムはまだですよ」
「昼飯作ってる所悪いね、倒させてもらうよ」
私は空の鍋をコックに向けて飛ばした。
金属製の鍋が光り輝きながらコックに襲い掛かる。
なんかシュールな光景だな。だがコックは指一つ動かさずに氷の壁を出現させて鍋を防いだ。
「いきなり不意打ちとはやってくれますね……まあいいでしょう。そこまで言うのでしたらこの私めがお相手致しましょう」
「ふんっ、えらっそうに……」
私はコックの強キャラ感にムカつきながらも壁に掛けてあるフライパンを手に取って八重染琥珀を注ぎ、コックに振り下ろした。コックはそれをまた氷を出し防ぐ。
「あんたを料理してやる!」
「未熟とはいえコックの私にその台詞を言いますか!」
私の台詞にそうツッコミを入れるコック。
その瞬間、フライパンがグニャリと曲り氷がパリン! と砕け散った。
力は互角か……。これなら何とか足止め出来るかな?
「面白い能力ですね……次は私の番です! “フリーズバレット”!」
コックが私に向けて銃弾のような速度で氷の弾を放ってきた。
私は氷の弾を八重染琥珀で足を加速させ避ける。今回もあらかじめ触っておいた。これは鉄則。
それにしてもやっぱりコックは強い。
何でこいつはコックなんかをやっているのだろう。
ボディーガードとかをやっていた方が良さそうなのに。私はそう思いながらかなり大きい鍋に八重染琥珀を発動させてコックに投げ飛ばした。
「そいっ!」
「あまり私の道具を乱暴に扱われては困りますね。“フリーズバレット”!」
コックは何食わぬ顔で鍋の一撃を氷で受け止める。
そしてコックは氷弾を連射した。
私はそれを高く跳び上がって躱し、宙返りをして着地する。
「はあっ!」
そして八重染琥珀を肩に注ぎ、コックとの距離を詰め殴り掛かった。
「ちっ!」
コックは今の攻撃が効かなかった事に舌打ちしながら氷の壁を放つ。
私の拳が氷を貫く。
しかし威力が足りず拳は壁の途中で止まってしまった。これでも駄目か……!
私は氷の堅さに舌を巻きつつも氷から手を抜こうとする。
抜けない。手が氷で固定されてしまっている。
私の力で抜けないなんて……。
「驚かれましたか? 私の能力……“フリーズバレット”は氷を放ちそれを自分の手足のように操る事が出来る能力です」
「それがどうしたの?」
「なっ………!」
まあ、手が抜けないからといってどうという事は無いんだけどね!
私は氷の塊に八重染琥珀を使い自分と氷もろともコックにタックルを食らわせた。
「ぐあっ! この能力……利便性が高すぎる!」
コックは私を覆っていた氷を解除した。でももう遅い!
「これでも食らえ!」
「ごふっ!」
私はその勢いのままコックを壁に叩きつけた。私自身はコックを上手くクッションにして衝撃を和らげる。今の攻撃で痛手を負いフラフラと倒れるコック。
よし、今の内に……!
私は厨房に入りフライパンを取ってからリビングを出ようとした。
だがその時、不思議な事が起こった!
何もない筈の通路で私は見えない壁のようなものにぶつかったのだ。
透明な壁!? 何これどうなってんの!?
私は今ぶつかった場所を手で探った。
すると冷たい感触が手に伝わってくる。その壁はよく目を凝らすと光を反射していた。
まさか……これ氷!?
私が驚愕していると、コックはさっきのダウンから回復し誇らしげに言った。
「ようやく気付かれましたか……それは私の能力で作った氷です。先程言いましたよね? 大事なことなのでもう一度言いますよ? 私のフリーズバレットは氷を放ちそれを自分の手足のように操る事が出来る能力です」
「何だよそれ……!」
そんなのあり!?
つまりあいつの能力は氷を空気とかを完全に取り除いた状態で出す事が出来る程の精密性を持っているって事!?
私はコックの言葉にまた更に度肝を抜かれたのだった。




