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麗紗ちゃんは最狂メンヘラ  作者: 吉野かぼす
第四章 プレゼントですよ先輩!
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あなたに疲れたの

 麗紗と戦ったあの日から三日後。

 私は千歳に麗紗の屋敷に呼ばれていた。


「あ~気が重い……」

「わざわざごめんね琥珀ちゃん……でもこうしないと……」


「分かってる。けじめは付けるよ」

「ありがとう……!」


「いいよ別に……私の人権に関わる事だし……」

「……そうね」


 申し訳なさそうな千歳に、私はそう言葉を掛ける。

 実際千歳達はあんまり悪くないし……。


 管理不届きと言えるかもしれないけど逆にあいつを管理出来る奴とかいる? 


 悪いのは日本征服とかばかげた事を考えた麗紗だ。

 そんな奴に少しでも優しくした私が馬鹿だった。


 だからこれは、私自身の責任でもある。


「……やっぱり琥珀ちゃんは、麗紗の事を許すつもりは

無いのね?」


「当たり前でしょ」


 おずおずとそう聞いてくる千歳に、私はきっぱりと答える。


 あの時は一ミリも話を聞いてくれなかったし、酌量の余地は無い。


 一番許せないのは私を偽物扱いした事。


 倒されて屋敷に運ばれて治療された後も勘違いしていたし本当に頭が腐ってる。


 あれで麗紗は私の事を好きだったんじゃなくて、麗紗の中の理想の私の事が好きだったって事が分かったんだ。


 私は麗紗の狂った行動にどん引いてはいたけど、あそこまで人に好かれた事は無かったからちょっと嬉しいとも思ってた。


 だから麗紗を受け入れられたんだと思う。

 でも実際は本物の愛じゃなかった。


 それが私の中でどうしても許せなかった。

 怒りを通り越して麗紗への興味が失せた。


「まあそうよね。これ以上あなたが麗紗と一緒に居たら麗紗にとっても良くない気がするし。でも……距離を置くなら出来るだけ穏便にね? 今回私達が麗紗に勝てたのは漢野ちゃんの覚醒っていう計算外の奇跡が起きたからよ。次も勝てるとは限らないわ。それだけは覚えておいて」


 千歳は深刻な表情でそう忠告する。


「もちろん気を付けるよ」


 麗紗の強さ、恐ろしさは私が一番よく知っている。


 漢野が居なかったら、漢野が覚醒しなかったら絶対に勝てなかっただろう。


 一度勝ったからって油断するつもりはない。


「ここに麗紗が居るわ」

「分かった」


 そして私は麗紗の部屋の前に案内された。

 私は深呼吸をしてから扉を叩く。


「入っていい?」

「ど、どうぞ……」


 中から畏縮した麗紗の声が聞こえてきた。

 私が扉を開けて中に入ると、そこには凍牙と耕一郎、さらに漢野も居た。


 いざ麗紗が暴走した時の為の抑え役だろう。


 当の麗紗は物凄く暗い表情をしている。

 お通夜みたいな雰囲気だ。


 反省はしているらしい。

 私がそんな麗紗の前に立つと、麗紗は必死に謝ってきた。


「……あ、あの……琥珀先輩……本当にごめんなさい……! 私……私……」


 麗紗はむせび泣いて言葉を詰まらせる。

 罪悪感に耐えられなくなったんだろう。


 なんでやる前に気付いてくれなかったのかな。


「……悪いけど、いくら謝られても私はもうあなたの行動に付いて行けない」


「……えっ」


「ちょっと距離を置かせて。私、あなたに疲れたの」


 私は、ささくれ立つ心を出来るだけ覆い隠しながら

麗紗に自分の気持ちを伝えた。


 棘が隠せてないかもしれないけど。

 今の私にはこれが精一杯。


「きょりを、お、く……?」


 麗紗は一瞬言葉の意味を理解出来ずに呆然とした。

 そして――吐いた。


「おぇっ……!」


 胃の中の物全部を。

 汚れの無い床に生臭い液体が広がっていく。


「……どうか琥珀先輩それだけはやめて下さい私はあなたが居ないと何も無いんです何も出来ないんです何もかもが色褪せるんです綺麗な景色が灰色になるんです極上の料理の味が消えるんです音楽がノイズに変わるんです花の香りが血の香りに塗り潰されるんです温かい日差しを冷たく感じるんです琥珀先輩は私が居なくてもいいかもしれませんが私は琥珀先輩が居ないと……居ないと……」


 麗紗は私に縋りつくようにそう懇願した。

 ……そんな事言われても。


 どうせあなたは、私じゃなくてもいいんでしょ。 


「私があなたの傍に居ないから何? それ私に関係ある? 私はあなたの傍に居ると精神が削れるの。私の事を愛してるフリして自分の事しか考えてないあなたと一緒に居るとね」


「そ、そんな……私はあなたの事を」


「呆れるのも馬鹿らしくなるような嘘つかないでくれる? もう一回言うよ? あなたは私を愛してるんじゃない。あなたの心を優しく癒してくれる幻の私を愛していたんだよ。あなたの恋は妄想の塊に過ぎなかったんだよ」


「……ぁ」

「ちょっと琥珀ちゃん!?」


 言葉の棘をもう隠せない。

 だって、無性に気分が悪い。


 麗紗のエゴに無理矢理付き合わされて、色んな物を失って。


 これ以上耐えられない。


「私はあなたの妄想ごっこに付き合うような偽善者じゃないの。そろそろ現実見てくれる? もう二度と私に会わないで」


 私はそう吐き捨てて臭い部屋から出て行った。

 あいつの顔は見なかった。


 見る意味がない。








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