ひまわり
「か、かわいい……なんてかわいいの……よくやったわあなた達。こ、この子を全力で可愛がるわよぉ……あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
「ひぇっ……こ、来ないでぇ!」
優紀は手をわきわきとさせながら真乃ににじり寄る。
真乃は謎の恐怖に見舞われた。
「つーかーまーえーたーぁ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
そんな彼女の様子に構わず優紀は飛び付いた。
優紀はふわりと変態的な優しさで真乃を抱きしめ、五感をフルに働かせる。
「まずはめでこねこちゃんをたんのうするね! うーん、このあどけなくもおもむきのあるかわいらしいからだ……ほんもののこねこちゃんらしいすばらしいからだつきだね! さいこう! つぎははなだね! すんすんすんくんかくんかくんか……あはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! なんてかぐわしいかほり! このせかいのしあわせがあつまったみたいなにおいだね! このかほりでこうすいつくったらせかいがへいわになるよぜったい! で、つぎはみみだね! ちょっとまってしゅうちゅうするから……エへへへへ!!! てんしみたいなこえっていうかもうてんしこえてるね! かわいいとしかいえないこえだよろくおんしてつねにきいてたいよおねえちゃん! つぎはてでたんのうするよ! さわさわさわさわ……うひひ! やわらかくてほんとかわいらしいからだだね! おねえちゃんだんだんこうふんしてきたよ……ああだいじょうぶだよおねえちゃんこわくないからね~さあ、さいごはくちでこねこちゃんをあじわうね♪ ぺろぺろぺろぺろぺろれろれろれろれろろ……………………………………………………………………おいしすぎてなにもいえなくなっちゃったよこねこちゃん。ほんとうにおいしいものをたべるとむくちになるってよくいうよね! ああ……こねこちゃんはさいこうだぁ……ふぃふぃふぃ! さて、なにしてあそぼっか! おねえちゃんこねこちゃんとならなにをあそんでもいいよ! さあなにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? なにする? ――」
「―――」
「あれーー? こねこちゃんどうしたの? ねちゃったのかな?」
「ハ、はネださーン!!!」
「きっもちわる……うっぷ……」
優紀に狂った偏愛を注がれ、真乃は恐怖のあまり気絶した。
右近の叫びにも彼女は反応しない。
つみれは優紀の気持ち悪さに胃の中の物を吐き戻した。
「おねむのじかんならいっしょにねようねこねこちゃん!」
優紀は真乃をそっと地面に寝かせその側に寝転がった。
実に幸せそうな表情で。
なぜ優紀がよりにもよってこのような性格になってしまったのか?
それは、優紀が染色解放銃の適正が高かったからである。
一般人に比べると優紀はそれなりに変人の様相を見せていた。
小物を夥しい数集めている事や、同じ変人である琥珀と仲が良い事。
特色者にはなっていなくとも、素質はあったのだ。
その素質が奥深くに眠っていただけで。
その素質を、染色解放銃が優紀の深層から引きずり出した。
幼女愛者、という性格に狂わせて。
彼女の言う『こねこちゃん』とは、すなわち幼女の事である。
ちなみに彼女からすれば15歳以上の女性は熟女だ。
「ハ、はネださン! おキてくダさい! クわれマすヨ!」
「子猫ちゃんに触るなァ! 死ね!」
「ごァッ!!!」
右近が慌てて真乃に近付いて起こそうとするが、それを許すような優紀ではなかった。
優紀と双子達の無数の拳が、右近に叩き込まれる。
右近はその衝撃に力尽き、倒れた。
「私の右近に何すんのよ……! ミンチにして蛆虫のエサにしてあげるッ!」
「黙れ更年期!」
「きゃあああああああああああああああっ!!!」
つみれが倒れる右近を見て激昂し攻撃を仕掛けるも、数の暴力を前にあっさりと沈められてしまう。
「はぁっ……はぁっ……! 何なんだよこれ……! めんどくせえな……!」
そこに榎葉が駆けつける。
攫われた真乃を慌てて追いかけてきたのだ。
「おっ居た! おい大丈夫か真――」
「触るな近付くな見るなぁッ!」
「うわっ!? 何だよこれ! “魚雷”!!!」
迫り来る双子達に榎葉は咄嗟に赤い魚雷を乱射した。
双子達を爆炎が包み込み焼き焦がす。
「やったか!?」
榎葉は思わず声を上げる。
しかしそれは紛れもないフラグだった。
爆炎が止んでも双子達の数は全く変わっていない。
倒れてもまた増えるのみである。
「ちっ! めんどくせえ……っ!」
榎葉は舌打ちしながら魚雷で双子達を牽制しながら近くの建物の中に逃げる。
その建物の高層階に上がり、窓から双子達を窺う。
「多分一匹ずつやってもまた増えるだけだ……全部確実に仕留めるしかねえ……ここは久し振りに最大火力出すか……! “魚雷”!!!」
榎葉は全力で魚雷を発射した。
幾多もの魚雷が双子達に襲い掛かり、烈火を撒き散らした。
「よし! もう大丈夫だろ! 今助けるぞ真乃ーーっ!」
「また来たの? この子猫ちゃんは私のだって言ってるでしょ!!!」
「なっ……!」
建物から飛び降り、着地に成功した榎葉が見たのは。
数が全く減っていない双子達だった。
「……めんどくせ。死んだフリしとこ」
「ちょっと助けなさいよ榎葉! 助けに来てくれたんじゃないのぉ!?」
わざとらしく地面に倒れ込む榎葉に、爆音で目を覚ました真乃が突っ込みを入れる。
「うっ……!」
「それっぽく演技してんじゃないわよーー! 魚雷撃ちなさいよもっとーー!」
「あれが限界なんだよ~。ってかお前そんな喋ってて大丈夫か?」
「え?」
榎葉に言われてふと突っ込みを止めた真乃に、優紀が輝くような狂った笑顔でぺらぺらとまくし立てた。
「おはようこねこちゃん! ねがおすっごくかわいかったよ! しゃしんにとってへやじゅうにかざりたかっ――」
「ぎゃあああああああああああああああ!!! お願い誰か助けてぇ!」
「しょうがないわね……いいわよ」
「え?」
半泣きで助けを求める真乃の声に、応える者が居た。
真乃は涙を湛えながら返事がした方に振り返る。
そこに立っていたのは、呆れ顔の麗紗だった。




