初でーとその3
不思議な雰囲気を出しながらもクレープを堪能した私達は映画館へと向かっていた。
しかし……。
「…………」
「…………(沈黙が辛い! お願い何か言って!)」
さっきのアレのせいで麗紗ちゃんはずっと照れて黙りこくってしまった。たまに私の方を恥ずかしそうにちらっと見てくる。むず痒い沈黙が辛い。本当に辛い。
ていうかこの子たかが間接くらいで気にしすぎじゃ……。
何か……いい話題ないかな……。
あっそうだ映画!
「ねえ麗紗ちゃん、“ホワイトリリィ”楽しみだね……」
「は、はい……」
私が話しかけると麗紗ちゃんは更に恥ずかしそうにふいっと私から目を逸らした。
……駄目だ! 私如きのコミュ力じゃ今のこの子は太刀打ちできない!
そう麗紗ちゃんをどうしたら元の調子に戻せるのか悩んでいると、彼女は突然はっとして私に言った。
「あっ……すみません私……取り乱してしまって……」
「別に……いいよそんな事。大丈夫、私はあの事全然気にしてないから!」
私が麗紗ちゃんが安心してくれるようにそう言うと、麗紗ちゃんは突然能面のような無表情になって……。
「えっ……先輩? 全然気にしてない……んですかそうですか。先輩って大胆なんですね。ふふふ……」
「な、何が大胆なの麗紗ちゃん……?」
私今何か麗紗ちゃんの地雷踏んだ? 何も踏んでないよね……?
頼むからその不気味な笑みをやめてくれ麗紗ちゃん……。
この子……本当に昔何かあったの……?
「まあ……私はそんな大胆な先輩も好きですよ? 私は受け入れますから……」
「受け入れるって何を麗紗ちゃん!? あっそれよりほら早く映画館行こう! 映画楽しみだな~私」
「あっ……! 確かにそうですね! 早く行きましょう!」
こ、怖かった……。
良かった機嫌直してくれて……。
いっつもヘラる時満面の笑みなのが麗紗ちゃんの本当に怖い所だ。しかも目がイッちゃってるから怖い事この上ない。
普段は可愛い顔をしているだけにギャップがね……。
そんなこんなでしばらく麗紗ちゃんと喋りながら歩いていると、ようやく映画館に辿り着いた。
道中麗紗ちゃんが十回くらいヘラったのでもの凄く長く感じたけど多分時間的にはごく短い時間だったんだろう。
疲れた……。
私帰ったら絶対推しのアニメ見る……!
「ここが映画館……早く入りましょう先輩!」
麗紗ちゃんが私の手を引っ張って映画館の中へと引きずっていく。
「ちょっと麗紗ちゃ~ん、気が早いって~」
気力が尽きかけている私は麗紗ちゃんに引きずられるまま映画館の中へと入った。
*
*
*
「あ~感動しましたね先輩! 私号泣しちゃいました」
「………うん」
涙をピンク色のハンカチで拭きながらそんな事を言う麗紗ちゃん。
私達は映画を見終わって適当に映画館の近くを歩いていた。麗紗ちゃんは映画……“ホワイトリリィ”の内容に涙で洪水が起きる位感動してた。
でも私は……映画の内容にびっくりしてそれどころじゃなかった。
“ホワイトリリィ”の内容はこうだ。
色々あって凄くお金に困った女主人公が、苦渋の決断で身代金を奪う為に金持ちのお嬢様を誘拐する。
でも実はそのお嬢様は女の子が好きで……それで最初は二人は引くんだけどだんだん一緒に暮らしてお互いの事を知っていく内に恋が芽生えていく、っていう内容だ。
……がっつり百合モノです。ありがとうございました。
なんで会って二回目の後輩とそんな甘々な映画見ないといけないんだよ!デートとかならこのチョイスは分かる。うん。
でも私達普通の先輩後輩の関係だったよね!?
もしかしてさっきから薄々思ってたけどこの子私の事好きなのかな……? 最近同性結婚率がとうとう三割超したってニュースがあったなそういえば……。
違ってたら麗紗ちゃんに失礼だけど、もし本当ならどうしよう。私の恋愛対象は男性だ。これはどうしようもない。
でも断ったら……怖いな。
どうすれば穏便に済ませられるんだろう……。
まあ、まだ決まった訳ではないし! そんな急に告白とかはしないでしょ!
と、私は呑気に考えていた。それが良くなかったんだろうか。麗紗ちゃんは足を止めて私にこう言った。
「先輩、あそこの公園でちょっと休憩しませんか?」
「ああ、そうだね」
麗紗ちゃんの指差す方向に見えるのは、人が居なさそうな小さな公園。
そこで休憩か……まさかここで告白……! いやそれはない、あんな映画を見ちゃった後だからそういう考えになるだけ! 私は大分緊張している心にそう言い聞かせる。
公園の中はベンチと滑り台があるだけで、子供も居なかった。私達はベンチに腰を下ろす。
すると麗紗ちゃんは私の顔を何か決意に満ちた目で見る。
あ……これは……。
恋愛経験の無い私でも分かった。麗紗ちゃんの顔が、リンゴのように赤く染まっている。
そして麗紗ちゃんは口を開いた。
「先輩……もう私……我慢できません……!」
「ど、どうしたの……」
「先輩」
麗紗ちゃんは、一瞬躊躇いつつも、何かに突き動かされたように私に言った。
「好きです」
分かっていたとしても、頭がその言葉を理解するのに少し時間が掛かった。
「……えっ……と」
「気持ち悪いですよね……私女なのに……」
「あ……いや……その……」
言葉が、出てこない。
私の17年間積み重ねてきた筈の語彙は今すべて吹き飛んでしまった。頭がフリーズしている私に麗紗ちゃんは更に想いをぶつけてくる。
「でも私もう我慢できないんです……先輩の事が好きすぎて私おかしくなっちゃいそうなんです……ふふっ……あはははははははははははははははは!」
「ひえっ……」
突然狂気を煮詰めたように笑う麗紗ちゃん。
さっきまで普通だったのに……!
やばいやばいやばい!
やっぱりこの子おかしい……。
「先輩、私達これからどう愛を育んでいきましょうか? やっぱり一緒に暮らすのが一番ですよね!」
「は!?」
「私の家にご招待しますね! 先輩♪」
麗紗ちゃんはそうわけの分からない事を言った。
その次の瞬間、急に私の体から力が抜けていき、意識がすーっと薄くなっていった。
い、一体何をされたんだ!? 何かの薬? 能力?
『あなた達、出番よ』
『『『かしこまりました』』』
何か麗紗ちゃんと人の声が聞こえた。途切れていく意識の中で、麗紗ちゃんがニタニタと薄く笑っているのが見えた。
私の意識はそこで暗転した。




