月曜日の朝
読んで頂きありがとうございます!
ん……あれ……?
ここは何処なんだ?
私は目を覚ますと知らない部屋のベッドで寝ていた。なんかこの部屋違和感を感じるな……モヤモヤする。
いやそれよりも……何でここに居るんだ私?
確か……私麗紗ちゃんと一緒にクレープ食べて映画見に行って……。
それから公園に入って……。
……そうだ、何かされて気絶したんだ。
まさか……誘拐?
私がそう自分の今の状況を考えていると、ある事に気が付いた。
それは――この部屋の家具や本棚がほぼ全部私の部屋と同じものだという事。
ヒトリで買った机やベッド、本棚にタンス、推しのタペストリーやかなり貴重なグッズまである。
部屋が違うから最初は分からなかったけど、さっき感じた違和感は……!
何これ……絶対にやばい……!
麗紗ちゃんが私の部屋に来た事なんて無いはずなのに……!
どうして再現出来たんだ……!?
あまりにも薄気味悪い現実が、私に戦慄を覚えさせる。
はやくここから逃げないと……!
*
*
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『では次のニュースです。昨夜、鈍動物園から何と“ヒグマ”が脱走したという驚くべきニュースが入ってきました』
『職員によると、先日、“特色者”のカップル同士による喧嘩が勃発し、その影響でヒグマが収容されていた檻が破壊され驚いたヒグマが脱走したとの事です。警察は行方を追っていますが未だ見つかっておらず、捜索を続けています』
「週初めの朝っ腹からとんでもないニュースだな……」
私こと、弥栄琥珀は朝ごはんのパンを齧りながらそう毒付いた。
今日は月曜日。学生にとって一番気だるい日だ。
花の女子高生であるにも関わらず彼氏の居ない私もその例に漏れなかった。
もうちょっと彼氏とか好きな男子とかが居れば少しは学校に行きたい! ってなるかもしれないけれど残念な事に私には好きな人すら居ない。
推しは居るけど。そんな訳で今私は死ぬ程やる気が無い。一体どうやったらやる気スイッチが入るのだろう。
「“特色者”の喧嘩ねえ……昔はそんな事があったら大騒動だったのに、今はもう日常茶飯事になっちまったなあ……」
「オヤジ……朝もはよから昔語りやめてくんない?」
「自分の娘も“特色者”に生まれてきたしよ……」
「だからやめろって……あとその名前微妙にダサいから言うなよ……」
「そんな事言うなよ。せっかくお偉いさん方が付けてくれた名前だってのに……おっ、タイムリーな番組やってんなオイ」
親父が見ていたニュース番組から別の番組に変える。それは“特色者”についての解説番組だった。
綺麗な黒髪のロングのお姉さんがやたら丁寧に解説している。
声かわいいな。声優も出来そうだ。
『最初の“特色者”……異能力者が誕生して三十年、ついに特色者が社会に適応し始めました。これは特色者を分類する法律ができ、統制を図った事が大きいと考えられます。能力の型……身体強化型、具現発動型、放出発動型、医療型、農耕型、そのいずれにも該当しない特殊型の分類と、特色者のレベルの段階分けが成されているのはそういった理由で……』
「朝から公民の授業とか勘弁して!」
私はチャンネルを元のニュースに戻した。今度はどこぞの芸能人が不倫したとか桜月財閥の株がまた上がったとかいう私にとっては死ぬ程どうでもいいニュースになっていた。
親父が呆れたような顔で私に言う。
「おいおい……お父さんの生まれた時代は今みたいに特色者の人がその辺を歩いてる事はおろか燃料電池車が道路を走ってすらいなかったんだ。昔の時代の変化を学ぶ事は大切な事なんだぞ」
「ふ……私は過去を振り返らないの……ごちそうさま」
白亜紀の人間の相手もそこそこに私は自分の部屋に学校に行く準備をしに行った。
「はあ……疲れた……」
パジャマから制服に着替えながら私は溜息をついた。
世間に“特色者”だの異能力者だの言われて珍しがられている私だけれど私からすれば何も珍しい事じゃない。
それにしても特色者という名前は変な名前だと思う。お偉いさん方は中々素晴らしいネーミングセンスをお持ちだ。何でこんな名前になったんだろう。
「救いはストーム、あなただけよ全く……」
私はそう呟きながら部屋の壁に貼られているタペストリーに目を向ける。そのタペストリーには黒髪のダンディでイケメンなおじ様が描かれている。
このイケオジの名前はストームといって私の推しで、アニメ『ブラックキャンディーズ』に登場するキャラだ。
『ブラックキャンディーズ』は装甲というボディスーツで戦うとにかく熱いロボット大戦アニメで、作中でストームは装甲に身を包んで戦う主人公に助言をしたりサポートをしてくれたりするという立ち位置のキャラだ。
私はストームのイケメンっぷりと彼の名台詞に心を撃ち抜かれた。
例えば……。
『常識の枷を外せ! 己を開放しろ!』
とかね。いや~なんていい名言! どんな偉人の名言よりも参考になる!
おっと、推しに見とれている場合じゃない。髪セットしないと。
私はそうはっと我に返り制服のボタンを留めた。洗面所に行ってヘアブラシを手に取って寝癖を直す。
私の髪の毛は能力の影響で家族内で唯一金髪だ。特色者は持っている能力の影響で大体髪がカラフルになる事が多い。
私のこの金髪はよくお年寄りとかにヤンキーだと勘違いされるので困っている。
まあ目付きが悪いのと行動が荒い所為でもあるんだけど。
「よし……セット完了っと」
身だしなみを整えた私は部屋からバッグを取って靴を履く。
「いってらっしゃい。熊に気を付けろよ」
「いや流石にそれは無いでしょ……行ってきます」
冗談を言う親父に見送られて私は家を出た。お母さんは今日パートで早く出ているので今は職場にいる。
いつもの光景を見ながらのんびりと私は歩く。
墓地があったり、遊具がない公園があったり、微妙に高いカフェがあったり。
おっ、ランドセルを背負った可愛いロr……女の子が百点満点の笑顔で走ってる。
子供の笑顔は汚れた私達の心を和ませてくれる気がする。
「のろわれろのろわれろー! くそきょうしどもがー! きゃははははは!」
……うん、お願いだから笑顔でそんな事言わないで。
今時は小学生すらも闇が深いのかぁ……。
そんな朝から虚しい気持ちになりながらも歩き続けていると血濡川が見えてきた。かなり物騒な名前だ。
何を食べたら川にこんな名前を付けようという発想に至るんだろう。
私の住む鈍市は結構田舎だ。
せいぜい大企業である桜月財閥の本社がある位で、特に目立った世界遺産とかも無い。
血濡川は結構広い川なので夏になると子供がよく魚を取りに来る。今はまだ五月だから居ないけど。
親父が生きる前よりも更に大昔だと河原で喧嘩する奴なんてのも居たらしい。
まあ今となっては伝説中の伝説。もしそんな奴が居るなら見てみたい。
ぼーっと歩き続けていると段々と高校が見えてきた。
前の曲がり角を曲がれば高校はもうすぐ側だ。太古の漫画には曲がり角で見知らぬ女の子とぶつかりその女の子が転校生で……何ていう展開があったらしい。
親父からそんな話を聞いたけどその時まで一ミリも知らなかった。
―――私がふとその事を思い出しながらも曲がり角を通ろうとすると何かにぶつかった。
「ん? 何かモサッとした物が……」
私がそのモサッとした感触がした物の方を見ると……。
茶色で毛深く大きな体。
太く頑丈さを感じさせられる手足。
鋭い爪と牙。
そう、あのヒグマだった。
「なんでこんな所に……あっ……」
私は朝のニュースで動物園から熊が逃げ出したというニュースを思い出した。
「ぎゃああああぁあああああ!!!」
勿論私は全力で逃げた。




