第8話 行方不明のミヤ
ゴブリン退治から帰ると直ぐにお風呂に入った。
ゴブリンを斬り殺したときに浴びた返り血がいつまでも取れないような気がして、何度も何度も身体を洗った。
カズトにとって生き物を殺すと言うことは初めての経験なので、その瞬間が心に焼き付いた。
もちろんゲームでは、何も思わずに敵を殺してきた。
しかし実際に殺すことになって、自分が命を奪っても良いのかと言う悩みを抱えてしまうことになった。
そんな思いを抱えながら、カズトは軽い食事を終えると自分の部屋に戻った。
部屋に入ると、カズトは部屋を真っ暗にしてクレヤボヤンスの練習を始めた。
今日の戦いから、夜目の重要性を感じたカズトは、なんとか夜目だけでも使えるようになりたいと、暗い部屋の中でひたすら目をこらした。
それから数時間、時に進展もないまま、眠気を感じたカズトはベッドに横になった。
そして、カズトが眠りにつきかけたとき、大佐から慌てた声のテレパシーが届いた。
【カズト様、ミヤがいないワン】
【どういうことだい、大佐。】
カズトが居間に行くと、大佐がおろおろと歩き回っていた。
走行していると、忠国も異変を感じてカズト達の所へやってきた。
「何事だい?」
忠国が大佐に尋ねると、大佐は説明を始めた。
「さっき、寝る前にトイレに行こうと部屋を出たのですが、ミヤの気配がないことに気がつきましたワン。外にいるのかと思い、外の気配も調べたのですが、泉の周りにもミヤの気配がないんですワン。」
「分かった。」
忠国はそう言うとサイコメトリーで残量思念を調べ始めた。
「ミヤは森へ入ったようだな。」
「え、なんでこんな夜中に・・・」
「今日の戦いで、ミヤの本能が目覚めてしまったのかも知れんな。この時間は、ゴブリン達が活発に動き回っている。直ぐに連れ戻さないと。大佐、一緒に来てくれるか。」
「はいワン。」
「先生、私も行きます。」
カズトはいてもたってもいられず、出かける準備を始めようとした。
「カズト君、今回は大佐と二人で行く。今夜は月もない。カズト君には危険すぎる。」
「でも、先生。ミヤは大切な私の家族なんです・・・」
「大丈夫。必ず無事に連れて帰るから。ここで待っていてくれ。」
「ですが・・・」
もしもの事があるとと考えると、カズトは涙が止まらなくなった。
「カズトさん。大丈夫でございますよ。忠国殿にお任せましましょう。」
「・・・・・」
「では、大佐、行くぞ!」
忠国はそう言うと、大佐を伴って森へ入っていった。
忠国は森へ入ると、サイコメトリーで、ミヤの残留思念を探った。
「大佐、こっちだ」
忠国はミヤの残留思念を探りながらどんどん森の奥へと入っていった。
そして忠国と大佐が森へ入って1時間ほどたったとき、忠国は突然立ち止まった。
「まずいな。」
「先生、どうなされたのですか?」
「ミヤはここで足を滑らせて、樹上から落ちたらしい。足をくじいて穏行で隠れていたが、痛みで声を出したところをゴブリンに見つかって捕まったようだ。多分えさにするために連れて帰ったんだろう。」
「急ぐぞ、大佐。大佐もミヤの匂いを探ってくれ。」
「はいワン。」
それから30分ほど忠国がサイコメトリーでミヤを追っていったところだった。
「先生、ミヤの匂いです。あちらからです。」
そう言うと大佐はミヤの匂いがする方向を指した。
「よし分かった。」
忠国が大佐の指さす方向を向いた瞬間、ミヤのテレパシーが聞こえてきた。
【カズトさまぁ~~、カズトさまぁ~、かずとさまぁ~、こわいよ~】
忠国は直ぐにをクレヤボヤンスで見てみると、ゴブリンの住む洞窟が見えた。
巣穴の入り口では10匹ほどのゴブリンが周辺を警戒しているようだった。
「よし、見えた。テレポーテーションで飛ぶぞ。ミヤはゴブリンの巣穴の中に捕らわれてれているようだ。巣穴の前のゴブリンどもは大佐に任せる。では行くぞ。大佐つかまれ。」
そして、大佐が忠国につかまった瞬間、忠国はテレポーテーションの能力を使い、ミヤが捕まっているゴブリンの巣穴の前に移動した。
巣穴の前に着くと、忠国は老人とは思えぬ速さで一気に巣穴に突入した。
【ミヤ助けに来たぞ。】
忠国は巣穴の奥に縄でぐるぐる巻きにされたミヤを見つけると、ミヤの周りのゴブリンどもを一瞬のうちに斬り殺すと、ミヤを抱えて、巣穴の外に出た。
そして、巣穴の外にいるゴブリン達をサイコキネシスで動けなくすると、ミヤを大佐に渡し、動けなくなったゴブリン達を斬り殺していき、全てを倒し終えると、パイロキネシスで、巣穴の中を焼き払った。
大佐は一瞬でゴブリどもを皆殺しにした忠国を見て、あまりの早さに言葉もなく呆然としていた。
「大佐、終わったぞ。帰ろう。」
我に返った大佐は、ミヤを抱えたまま大佐の袖をつかんだ。
こうしてミヤを救い出した忠国はテレポーテーションで小屋へと戻った。
一方のカズトは、なかなか忠国達が戻ってこないので、今にも森に入りそうだったが、ボックの説得でかろうじて小屋に留まっていた。
しかし、我慢の限界になり「もう我慢できん!俺も行く!」そう言って小屋を出たとき、忠国達がミヤを連れて帰ってきた。
ミヤはカズトの姿を見つけると、「カズトさまぁ~カズトさまぁ~、こわかったよぉ~こわかったよぉ~。」と言いながらカズトに抱きついた。
「ミヤ心配したんだぞ。無事でよかった。」
「カズトさまぁ~ごめんなさい。ごめんなさーい。」
「ミヤは、カズト様のお役に立とうと思って、ごめんなさ~い、もうしませ~ん。」
「よしよし。もう分かったから泣かなくて良いよ。俺のためにやってくれたんだね。でも、もうこんな事は絶対にしては駄目だぞ。」
ミヤはその後も泣き続けていたが、やがて泣き疲れて眠ってしまった。
「大佐、ミヤを部屋まで運んでくれるか。」
「はいワン。」
大佐は返事をすると、ミヤを部屋へと抱きかかえていった。
「先生。ご迷惑をおかけしました。」
「なに、ミヤもわしの家族だ、当然のことをしただけだ。もう気にするな。じゃ、わしは寝る。」
忠国はそう言うと部屋に戻っていった。
カズトは翌朝、大佐からミヤがゴブリンに捕まっていたことを聞いて、よく無事で生きていたと驚いた。
また忠国がミヤを助け出した後に一瞬でゴブリンどもを殺してしまったことを聞いて、もっと頑張って訓練をして、ミヤや大佐を守れるようになると心に誓った。そして、今回の事で、自分が守るべきものを守る為には、魔物の命を奪うことも致し方ないと考えるべきだと心に言い聞かせた。