第26話 ドワーフ
途中魔法の練習をしながらドワーフの街を目指したカズト達は、火山を出て数日後にドワーフの街の入り口の前にいた。
ドワーフの街はスタインと言い、平原を進んだ先の大きな岩山の中にあった。
入り口には槍を持った門番が居て、カズト達は門番にここに来た理由を話し、街へ入った。
ドワーフの街は忙しそうに歩き回るドワーフと、買い物に来た人間達でとても賑わっていた。
道の両側には商店が建ち並び、美味しそうな匂いのする出店も沢山あった。
「とりあえず鍛冶屋へいこうか。」
カズトはそう言って、通りをどんどん進んでいった。
やがて、鍛冶屋の看板を見つけると、店の中へ入った。
店の中は意外に広く、色々な武器や防具が並べられていた。
カズトは、店の奥に座っているこの店の主人らしきドワーフに話しかけた。
「属性が付与できる武器を探しているんだけど、ここにありますか。」
「それは特注品だ。」
「じゃ、作ってもらえる?」
「無理だ。」
「え、なんで?」
(人間には作らないとかかな?)
「材料がないんだよ。その武器を作るには魔石が必要なんだが、魔石の鉱山に毒ムカデがうじゃうじゃ住み着きやがって、取りに行けないんだよ。」
(材料があれば作ってくれるんだな。それならなんとかなるかも知れないな。)
「魔石があれば、いくらでも作ってやれるんだがな。そう言うことだ。分かったら帰ってくれ。」
「じゃ、魔石を取ってくるから、鉱山の場所を教えてもらえる?」
「何言ってんだ!さっき毒ムカデがうじゃうじゃ居るって言っただろ。」
「あ、うん、でも、一応試してみようかなと思って。」
「酔狂なやつだな。はぁ~そうだな。門を出て西へまっすぐ行くと途中に右に曲がる道がある。その道を行けば鉱山に着くよ。でもなぁ、死んでも責任は持たないからな!」
「うん、大丈夫。じゃ魔石を採ってきたら武器を作って下さいね。」
「おお、採ってこれたら格安で作ってやるよ。」
「ところで、魔石って何か特徴はありますか?」
「白い石でな、うっすら光っているよ。」
「分かりました。では後ほど。」
カズトは店の外に出ると、みんなに言った。
「俺と大佐で魔石を採ってくるから、みんなは街の見物でもしていて。あーそれからアニエス、あの袋を貸してくれるか?」
「良いわよ。」
カズトは、アニエスから袋を借りると、大佐とテレポーテーションで街を出て、鉱山を目指した。
カズトと大佐が、西へ続く道を歩いて行くと、30分ほどで、鍛冶屋の言ったとおり、右に曲がる道があった。
カズトと大佐は、右へ曲がると、上り坂を30分ほど歩いて行った。
すると、小さな広場に出て、その先に鉱山の入り口があった。
「大佐、あそこだな。」
「そうみたいですワン。中に入りますかワン?」
「いや、入らなくても良いよ。」
大佐は不思議そうな顔で、カズトを見た。
「アポートで取り寄せるんだよ。」
「ああ、さすがカズト様!ワン!」
カズトはクレヤボヤンスで山の中を見た。
そして、魔石らしい石を次々にアポートで取り寄せていった。
「そういえば、どれくらいいるのか聞いてくるのを忘れたな。」
「戻って聞いてきましょうか?ワン」
「いや、良いよ。」
カズトはその後も魔石を取り寄せ、こぶし大の魔石を100個ほど手に入れた。
「これくらいあればなんとかなるだろう。足りなければまた取りに来れば良いしね。それじゃ、戻ろうか。」
「カズト様、毒ムカデはどうするのですかワン。」
「あれは後で、やっつけに来れば良いよ。」
「分かりましたワン。」
カズトと大佐は、テレポーテーションで鍛冶屋の近くの脇道へ移動すると、テレパシーでみんなを呼んだ。
「早かったわね。」
「ああ、アポートで取り寄せただけだからね。」
「じゃ、毒ムカデは?」
「アニエス達のために残しておいたよ。」
「あはは、有り難う。」
「じゃ、店の中に入ろう。」
カズト達は再び鍛冶屋に入った。
「親父さん、魔石を採ってきたよ。」
「何だって?」
カズトは、今採ってきた魔石を、袋から取り出して鍛冶屋に見せた。
「あ、何だこれは。こんなに沢山どうやって採ってきたんだ。」
「ああ、ちょっと掘ったら出来きてね。運が良かったんだろうね。」
「全部で12本欲しいんだけど、これで足りるかな。」
「足りるなんてもんじゃねぇよ。1000本だって作れるぜ。」
「そりゃ良かった。」
「ところでものは相談なんだが、あんたらの言う武器はただで作ってやるから、この魔石を売ってはもらえないか?言い値で良いからよ。」
「12本作ってくれるなら、残りは親父さんにあげるよ。」
「え、良いのかい?後で駄目だって行ってももらっちゃうぜ。」
「あはは。そんなこと言わないよ。」
「よしわかった、特上の武器を作ってやるよ。で、どんなのが良いんだい?」
「俺は、これと同じ大きさのものが1本と、この半分の長さのものが欲しい。大佐も同じで良かったよね。」
「はいワン。」
「じゃ、2本ずつ作ってもらおうかな。」
「ミヤは、少し短めが良いか。ミヤの刀を貸して。」
「はいニャ。」
「親父さん、これと、その半分の刀をお願い。アニエスはどうする?」
「私は、この刀と同じ大きさのものと、そうねぇ、刃渡り20センチくらいのナイフで良いわ。」
「ノラはどうする?」
「私はこれと同じ大きさの剣を2本お願いします。」
「最後にエマ。」
「エマは、ナイフを2本!長さはお任せ!」
「わかったぜ。」
「それで、どれくらいかかる?」
「そうだなぁ、特上品となると、1日2本が限度だな。12本なら6日あれば出来ると思う。」
(思ったより早いんだな。やっぱり、特殊なスキルを持っているんだろうな。)
「分かった。じゃ、6日後にまた来る。」
「任しときな!」
カズト達は武器の注文を終えると、魔石を鍛冶屋に渡して店を出た。
「さて、これからどうしようか?」
「ここにもギルドがあったから、何か依頼が無いか見てみましょうよ。」
アニエスがそう言うと、みんな目をきらきらと輝かせた。
(魔法を使ってみたいんだな。)
「そうだな。じゃ、俺と大佐は宿を探すから、アニエス達は依頼を見て来てくれ。」
アニエス達が勇んでギルドへ行くと、カズトと大佐は宿を探し始めた。
そして、カズトが宿を見つけて、部屋を借りていると、アニエスからテレパシーが届いた。
【カズト、トロールに家畜が襲われている村があるって。】
【トロールなら夜かな?】
【多分そう。】
【じゃ、今夜にでも行く?】
【うん、でも、カズトはゆっくりしていて良いわよ。直ぐ近くみたいだから。】
(それはありがたい。)
【今のアニエス達なら、トロールは余裕だね。あ、宿は決めたからね。】
【もう少し依頼を見たらそちらへ行くわ。】
【美味しそうな店を見つけてあるから、戻ったら夕食にしよう。】
【はい。】
その後30分ほどで、アニエス達が戻ってきたので、皆で夕食を食べに出かけた。
カズトが見つけたお店は、シチューが名物のお店で、とても良い匂いがしていた。
カズトはお任せセットを頼んでみた。
出てきた料理は、ビーフシチューとパンとサラダだった。
(まぁ、普通だな。)
しかし、シチューの蓋を取ると、印象は一変した。
シチューの中には、肉の塊がいくつも入っていて、とてもボリュームのあるものだった。
カズトはとりあえず肉を食べようと、ホークを肉の塊に突き刺して、口へ運んだ。
すると、肉は口の中でトロリととろけ、スープの味が口の中いっぱいに広がった。
(あ、旨い・・・・これはソフィーさんの料理と互角だ。エルフと言いドワーフと言い、料理はむちゃくちゃ旨いな・・・)
カズトは、気になって、アニエス達を見てみた。
アニエスも、驚いたように食べていたし、ノラ、エマ、ミヤ、大佐は、休む間もなく食べていた。
この後、みんなスープをおかわりして、お腹がふくれると、宿へ戻った。
カズトは、風呂に入ってベッドに横ななったが、アニエス達はトロール退治の準備をすると、出かけていった。
アニエス達が出かけてから3時間ほどすると、みんなが戻ってきた。
「アニエス、どうだった?」
「村まで30分歩いて、そこで2時間待機したわ。そうしたら、トロールが5体来たから、ミヤに武器を持っている手フリーズで固めてもらって、一人1体ずつ魔法の矢で頭を打ち抜いて、30分歩いて戻ってきたわ。」
「あ、そうだったんだ。」
(3時間で戦闘は1分くらいか・・・・どおりで物足りなさそうな顔をしている。)
「なんか魔物を退治した気がしないわ。」
「エルフの弓が役に立ったね。」
「そうね、あの使い方を教えてくれたボックに感謝ね。」
「お役に立てたようで、宜しゅうございました。」
「じゃ、明日は毒ムカデ退治にでも行ってお出でよ。」
「そうするわ。鍛冶屋さんも困っていたみたいだしね。」
「かなり沢山居るみたいだったから、気をつけてね。」
翌日アニエス達は朝から毒ムカデ退治に出かけ、夕方にくたくたになって戻ってきた。
「まいったわ。一匹ずつは大したことないんだけれど、とにかく数が多いし、鉱山は迷路みたいに入り組んでいるし。でも全部退治してきたわ。」
「それはお疲れ様だったね。」
その後もアニエス達はあちこちで魔物退治をし、カズトはドワーフの美味しい料理を色々食べて、味の秘密を研究した。
そして、鍛冶屋と約束した6日目の夜、カズト達は鍛冶屋へ行った。
「お、来たか。さっき最後の1本を作り終わったところだ。そこに置いてあるから見てくれ。」
カズト達は早速自分の武器を手に取るとじっくり見た。
カズトの刀の鞘と柄は防具に合わせて鮮やかな赤になっていた。
鞘から抜いてみると、刀身が店の明かりできらきらと輝いて見えた。
カズトは早速刀と脇差しを腰に差した。
(あーこれだよ。これがやりたかったんだ。)
カズトは昔から2本差しにあこがれていて、やっと念願が叶い、うれしさに思わず顔が崩れた。
一方、大佐とミヤの鞘も防具に合わせた色になっていた。
はじめはあまり好きではなかった黒も今ではミヤのお気に入りの色になっていて、とても喜んでした。
二人は刀を腰に差し、小太刀は背中に背負った。
アニエスの鞘は鮮やかなエメラルドグリーンで、アニエスは、思わず刀を抱きしめていた。
そして、剣とナイフは、白い鞘に金で見事な装飾がしてあり、刀身には、それぞれ持ち主の名前が彫り込んであった。
アニエスは、左に刀、右の太ももにナイフを着けた。
ノラは、左右に剣を下げて、エマはナイフを左右の腰に着けた。
「親父さん、有り難う。最高だよ。」
「なぁに、魔石を沢山もらったからな。これくらいお安いご用だ。」
「また武器を作るときは、ここに来るよ。」
「いつでも来てくれ。歓迎するよ。」
こうして、武器を手に入れたカズト達は、宿屋に戻って武器に属性を付与すると、その日は宿屋でゆっくり休んだ。