第25話 火山と鍾乳洞
その夜、夕食を終えると、カズトはみんなを集めた。
「えーと、今後の事でちょっと提案があってね。それを聞いてほしい。」
カズトはちょっと真剣な顔で話し始めた。
「まず、ダンジョン攻略は一旦中断してはどうかと思う。今日の戦闘を見ていて思ったんだけど、はっきり言えば、今の実力で、これ以上強い魔物は倒せないと思うんだ。」
「それは私も感じているわ。」
アニエスが、少し悲しそうな目をしながら言った。
「それでね、とりあえずノラとエマに妖精と契約してもらった方が良いんじゃないかと思う。その上で魔力強化をして、更に今回手に入れた水と土の魔法を強化するアイテムを手に入れれば、更に下層に行っても戦えると思う。」
「確かにもっともなことね。私もダンジョンと聞いて少し舞い上がっていたし、実力不足も感じたわ。」
「みんなはどう?」
カズトは他のメンバーにも聞いてみた。
「そうね、私も、魔法が使えればって思ったわ。弓はまだ威力不足だし、剣だけでは、ミノタウロスみたいな相手では近寄ることもできなくて、かなり自信を失ったわ。」
「エマもノラとおんなじかな。」
「ミヤはもっと魔力が欲しいニャ。」
「私も魔力がもっと欲しいですワン!」
「じゃ、ダンジョン攻略は一旦中断で良いね。とりあえずノラとエマに妖精と契約してもらうことから始めようと思うんだけど、ボック、どこか良いところを知らないか?」
「存じております。」
ボックは、この世界の知識をほとんど知っているが、以前カズトにこう言っていた。
「カズトさん。私はこの世界の知識を沢山存じております。もちろん問われればお教え致しますが、自分で探し問題を解決した方が、達成したときの喜びも多いと存じますので、私から積極的にお教えすることは控えさせて頂きます。」
こんな理由で、ボックは聞かれない限りアドバイスはしなかった。
カズトも、その方が良いと思っていたので、急ぐときや、全く見当がつかない時以外はボックに聞くことをしなかったが、ノラとエマも早く魔法を覚えたいだろうと思い、今回はボックを頼ることにした。
「このグリング王国の北東に大きな火山がございます。その近くに鍾乳洞もございますので、そちらに行けば、火と土の精霊がおります。」
「それから、こないだのエルフの滝のように魔力量を増やすものは無いか?」
「そうでございますねぇ。エルフの滝と同じで、効果は一度きりですが、温泉によっては魔力を増やすものもあります。後はやはり、積極的に魔力を使うことでしょうか。魔力を使うと、少しではありますが魔力量が増加致します。」
「じゃ、今日拾った火や土の魔法を強化するようなものはどうなんだ?」
「ああいったものは、ダンジョンのドロップ品がほとんどで、人間が作り出すことはできません。ただ、エルフの弓と同様に、ドワーフ族の作る武器や防具には属性を付与して魔力を強化できるものはございます。この武器を使えば、たとえば風魔法ならエアブレイドなどの魔法が使えます。」
「ブレイドって何?」
アニエスが聞いた。
「刃です、この魔法を刀に使えば、圧縮された空気の刃で刀の長さを伸ばすことができます。ですので、数メートル先の魔物に切りつけることも可能になります。」
「そりゃすごいな。でも、ドワーフの武器じゃないと出来ないのか?」
「可能でございますが、属性を付与した武器ほどの威力はございません。」
「そうか・・・ところで、属性を付与した武器と言えばエルフの弓もそうだよな。、エルフの弓も特殊な使い方があるんじゃないのか?」
「はい、ございます。今度は水魔法でご説明いたしますと、アイスアローで氷の矢を作り、水属性を付与したエルフの弓でこの矢を放てば、かなり強力な攻撃となります。」
「そうか。普通の矢に魔力を込めて使っていたけれど、それじゃ駄目なんだな。」
(ルーカス様も教えてくれれば良いのに、自分で気がつけと言うことかな・・・)
「じゃ、ノラとエマには、急いで魔法が使えるようになってもらわないといけないな。」
「早く覚えたいです!」「エマもー!!」
「よし、それじゃ、明日ここを出て、火山へ向かうとするか。ん~他に確認することは何かある?」
「その火山までの距離はどのくらいかしら。」
アニエスがボックに尋ねた。
「ざっと300キロメートルくらいです。」
「そうすると、馬の休憩も必要だから、1日30-~40キロメートル進むとして、10日くらいはかかるわね。」
「自分たちで探していたらいつになるか分からなかったんだし、10日くらいならあっと言う間だよ。」
「そうね、ボックに感謝しなくっちゃ!」
「お役に立てれば幸いにございます。」
「あ、もう一つ。ドワーフはどこに住んでいるんだ?」
「火山から西へ50キロメートルほど行くと、大きな岩山をくりぬいたドワーフの街がございます。」
「じゃ、精霊との契約卯が終わったら、そこに行って武器を手に入れるとしよう。」
こうして当面の目的を定めたカズト達は、翌朝火山へ向けて旅立った。
そして、10日後、カズト達は火山の麓までやってきた。
「なぁ、ボック、火の精霊はやっぱり火口の中に居るのか?」
「火口の周辺と言った方が宜しいでしょうか。」
「じゃ、先生も火口の近くまで行って火の精霊と契約をしたのか?」
「忠国殿は、火山の中腹まで行くと、パイロキネシスで大きな火の玉をお作りになって、火の妖精がその火の玉に誘われて近づいてきたところを契約されました。」
「へぇ、そんなことをやったんだ。じゃ、俺もその方法にするかな。でも、ここからでも火口は見えるし、なんでそんなことやったんだ?」
「この火口には火龍が住んでおります。性質はおとなしいので、こちらから近づかなければ、襲ってくることはございません。それで、忠国殿は敢えて火口を避けて、中腹で契約なされました。」
「火龍か。見てみたいけど、襲われたら殺さないといけなくなりそうだから、そっとしておいた方が良さそうだな。」
カズトとエマはその場でカズトがパイロキネシスと水魔法を組み合わせたシャワーで身を清めると、火山の中腹へテレポーテーションで移動した。
中腹に着くと、カズトはパイロキネシスで大きな火の玉を作り、30分ほど待った。
「エマ、そろそろ精霊が来ているかも知れないからやってみようか。」
カズトは、エマに契約の呪文を唱えるように言った。
『この地に住まう精霊よ、我と契約しその力を我に与えんことを願う。』
すると、エマの身体が一瞬赤く光った。
「うまくいったみたいだね。じゃ、俺も」
カズトも契約の呪文を唱え、無事に火の精霊との契約を終えた。
カズトとエマが馬車に戻ると、既に日が落ちかけていて、今からでは鍾乳洞に着くのが夜になってしまうとボックに言われたので、今日はここでキャンプをして、鍾乳洞へは明日向かうことにした。
キャンプすることが決まると、ミヤはボックとミヤに頼んで魔法の使い方を教わりはじめた。
そして夜、ノラは皆が寝た後も明日が楽しみで眠れないらしく、ボックに頼んで明け方近くまで土魔法のことを教わった。
翌朝、ノラは結局一睡もできなかったようだが、元気はつらつで、みんなと一緒に鍾乳洞を目指した。
鍾乳洞の近くに来ると、そこからは岩場だったので、シャワーで身を清め、ノラと二人で鍾乳洞の入り口へ向かった。
そして数分後に、カズトとエマは鍾乳洞の入り口に着いた。
鍾乳洞の入り口思っていたよりも大きく、中ならは小さな小川が流れ出していた。
「ボック、どのあたりまで入れば良いんだ?」
「丁度あの細く日が射しているあたりで宜しいかと存じます。」
カズトが鍾乳洞の中を見ると、100メートルほど先に、日が射しているところがあった。
「じゃ、行こうか。」
ノラがカズトに掴まると、ノラが緊張してぶるぶると震えているのが伝わってきた。
「ノラ、呪文のを唱えて。」
カズトはテレポーテーションで目的地へ移動すると、ノラに言った。
そしてノラは震えながら呪文唱えた。
『この地に住まうセレヨよ、我とケヤクしその力を我に与えんことを願う。』
(あ、かんだ・・・)
カズトは思わず吹き出しそうになったが、ぐっとこらえて、ノラに言った。
「のら、落ち着いて。ゆっくり言えば良いからね。」
ノラは深呼吸をすると、もう一度呪文を唱えた。
『この地に住まう精霊よ、我と契約しその力を我に与えんことを願う。』
すると、ノラの身体が黄色く光り、無事に精霊と契約できた。
「ふぅー。やったぁ!」
契約が終わると、緊張がほぐれたようで、いつものノラに戻っていた。
「カズト、できたわ。よかったぁ~」
ノラはそう言うとボロボロと涙を流した。
「良くやったね。さぁ、みんなの所に戻ろう。」
「はい。」
カズトのテレポーテーションで馬車の戻ると、ノラは改めてみんなにお礼を言った。
「カズト、アニエス、ミヤ、大佐、そしてボック。みんなに仲間に入れてもらって、精霊との契約もできました。本当に有りがとございました。これからはもっと役に立てるように頑張るので、エマ共々宜しくお願いします。」
ノラとエマは深々と頭を下げた。
「何言ってるのよ。仲間じゃない。こちらこそ宜しく頼むわ。」
「仲間ニャ」
ミヤはそう言うとうれしそうにエマに飛びついた。
「これで、ノラとエマの精霊との契約も終わったし、今日はここでキャンプだな。明日ドワーフの街へ向かうことにしようか。」
「さんせーい!」
「エマは相変わらず元気が良いな。 じゃ、キャンプの準備は俺がやるから、みんなは魔法の練習をしておいで。」
カズトがそう言うと、みんなは喜んで近くの丘の上に行き、魔法の練習を始めた。