第24話 ミノタウロス
2階層に降りると、一面の林になっていた。
林と言っても、木は比較的間隔を置いて生えていた。
どういう仕組みかは分からないが、外より少しくらい程度と思いの外明るい場所だった。
「カズト、どんな魔物がいるか見てもらえる?」
「わかったよ、アニエス。」
カズトは、クレヤボヤンスで周辺を見渡した。
(あれは、鬼じゃないか?日本では伝説の生き物だけれども、ここでは実在しているんだ。)
「ゴブリンと、鬼だな。後は凶暴そうな狼がいる。」
「鬼って、頭に角を生やしているやつ?」
「そう。すごく怖い顔をしている。」
「それは多分オーガね。爺様も鬼って言ってたけど、ここではオーガと呼ばれているわ。」
「そうなんだ。そのオーガは俺たちの倍くらいの背丈だな。ゴブリンと比べれば数は少ないけど、それでもあちこちに居るよ。」
「ボスは見えない?」
「ちょっと待ってね。」
そう言うとカズトは林の奥の方を見てみた。
(あ、あれだな。あれはアニメで見たことがあるな。確かミノタウロスだったか。)
「居たよ。林の一番奥に洞窟があって、その奥の方にいる。多分ミノタウロスじゃないかな?」
「牛の顔をしたやつ?」
「そそ、こいつはかなりでかい。で、2体居るみたい。」
「分かったわ。どうしようかな。魔物を全部倒してからボスの所に行くか、一気にボスの所まで行っちゃうか・・・大佐、魔物はどれくらいいるか分かる?」
大佐は、林の中の魔物の気配を探ってみた。
「ゴブリンと狼が100匹ずつと鬼が20体ぐらいだと思いますワン。」
「訓練にもなるし、先に林の中の魔物を倒しちゃいましょうか。」
「はいワン!」「退治にゃ!」「皆殺し-」「やりましょう。」
「じゃ、左から壁伝いに奥へ向かいましょ。カズト、全員のバリアをお願い。」
カズトのバリアの方がアニエス達より丈夫だったので、今回はカズトが全員にバリアを張ることになった。
「分かったよ。」
カズトはそう言うと全員にバリアを張った。
「じゃ、行くわね。大佐は、近くに魔物が居たら教えてね。今からはテレパシーを使って。」
そう言うと、アニエスは左の壁伝いに歩き始めた。
しばらく歩くと、大佐がテレパシーで.30メートルくらい先にゴブリンと狼が居ると伝えてきた。
【じゃ、仕掛けるわよ。】
そう言うと、アニエスがエアショットを一番近くに居るゴブリンに打ち込んだ。
エアショットは見事にゴブリンの頭を貫通し、ゴブリンは「ぎゃぁあ。」と言って倒れた。
すると、近くのゴブリンどもが騒ぎ出し、アニエス達を見つけたゴブリンと狼が、次々に襲いかかってきた。
ミヤがフリーズでゴブリンどもの動きを止めると、ノラとエマが突っ込んでいった。
【深追いはしないでね。】
アニエスはバラバラにならないように指示を出すと、エアショットでゴブリンを次々に倒していった。
ノラは木の間を縫うように走りながら魔物を斬り殺し、エマは、先ほど手に入れたグラムを振り回し、生えている木ごと魔物どもを斬り殺していった。
そしてそれからは、騒ぎを感じたゴブリンと狼が次々に襲いかかってきた。
アニエス達は、魔物どもを倒しながら、少しずつ進んだが、やがて2体のオーガが近づいてきた。
オーガはゴブリンどものように闇雲に突っ込まず、木の陰に隠れながら近づいてきた。
そこで大佐はエアショットをやめて、エアカッターを使い、1体を木ごと切り倒した。
そして、もう1匹はノラが横に回り込んで、右腕を切り落としたところを、後からついてきたエマがグラムを水平に振り抜き、真っ二つに切り裂いた。
その後もミヤがフリーズで魔物どもの動きを止めながら、アニエスと大佐は主に魔法を使い、ノラとエマは剣で魔物を倒していった。
しかし、次から次に襲いかかってくるので、みんなは段々疲れて動きが悪くなってきた。
最も疲れていたのは大剣を振り回していたエマで、一息ついたところを、後からオーガに殴られて、壁まで吹き飛ばされてしまった。
バリアが張ってあったので、傷を負うことはなかったが、魔物を倒すペースはかなり落ちていた。
【カズトごめん。少し手伝って。】
【分かったよ。じゃ、ゴブリンと狼を始末するね。】
【お願い。】
カズトは、クレヤボヤンスで、ゴブリンと狼の位置を確認すると、サイコキネシスで次々に脳を握りつぶしていった。
そして、ものの数分でゴブリンと狼を殺してしまった。
【アニエス、後はオーガだけだよ。】
【有り難う。】
オーガは慎重で、遠目に見張りながら襲うチャンスを覗っていたので、大佐に場所を教えてもらいながら、確実にフリーズで動きを止めて1匹ずつ倒していった。
そして、全ての魔物を倒すと、2階層のボスが居る洞窟へと向かった。
洞窟の前に着くと、アニエスがカズトに「一緒に戦って。」と言った。
「アニエス、1体ずつやるのはどうだ?」
「どういうこと?」
「俺が1体はサイコキネシスで動けなくしておくから、その間にみんなで1体倒して、倒し終わったら、サイコキネシスを解くから、もう1体をやるのはどう?」
「うーん。」
アニエスは先ほどの戦闘で疲れから動きが悪くなったことで、かなり自信を無くしているようだった。
「ミノタウロスの強さも分からないから、危ないようなら手伝うから、もう一度頑張ってみなよ。」
「そうね。頑張ってみようかしら。」
アニエスがみんなにそれでいいかと聞いたら、特に異論も無かったので、1体ずつ倒していくことになった。
カズトは、全員にバリアを張って、先頭で洞窟に入った。
すると、ミノタウルスは直ぐに気がついて、カズト達へ近寄ってきた。
ミノタウロスは、人間の身体に牛の頭がついた魔物で、頭には大きな角が生えていた。
そして、右手には大きな剣をもち、左手には鎖の先に棘鉄球がついたモーニングスターを持っていた。
背丈は、10メートルは超えていで、1体は青いい肌をしていて、もう1体は黄色い肌だった。
カズトは、洞窟に入ると直ぐに青い肌のミノタウルスの動きをサイコキネシスで止めたて、壁に貼り付けた。
「青い方の動きは止めたから、黄色い方からやって。」
「分かったわ。みや、片足だけで良いからフリーズで動けないようして。大佐は私と一緒にエアスピアでミノタウロスの目を狙って!ノラとミヤは、とりあえずは矢を射かけて。」
アニエスはみんなに指示を出すと、大佐と共にエアスピアーで攻撃を始めた。
しかし、ミノタウロスは、右手の剣で目をガードして、アニエス達の攻撃を防いだ。
そして、左手に持ったモーニングスターを振り回しながら、ジワジワとアニエス達の方へ近づいて行き、あと少しで鉄球が届きそうなところで、やっとミヤのフリーズで左足の動きを止めることができた。
「ナイスよミヤ。じゃ、私はトルネードでミノタウロスの後ろに回るから、前後から攻撃しましょう。」
そして、アニエスがミノタウロスの後ろに回ると、大佐もトルネードで、ミノタウロスの頭の上まで上昇し、攻撃を再開した。
しかし、攻撃はミノタウロスに交わされ続けた。
しばらく一進一退の戦闘が続くと、エマが「私が足を切り落とす!」と言ってミノタウロスへ近づこうとした。
「まて、エマ。ミノタウロスが疲れてくるまで、耐えるんだ。」
カズトはそう言ってエマを留めた。
「こちらは攻撃するふりだけにして、ミノタウロスに攻撃をさせるんだ。そしてミノタウロスが疲れたところで一気に倒すんだ。」
カズトにそう言われると、エマやノラは、ギリギリモーニングスターの攻撃を受けないところまで近づいて、ミノタウロスを牽制した。
そして、30分ほどたったとき、ミノタウロスの動きが落ちてきたので、エマは、右足を切り落とそうとミノタウロスの後から回り込もうとした。
しかし、その時だった。ミノタウロスは大きな口を開けると、「うぉおおおお。」と叫んだ。
するとミノタウロスの身体から雷が出て、四方に雷撃は飛び散った。
(土魔法を使うのか。こりゃ面倒だな。)
アニエス達はなんとか雷撃は交わしたが、ミノタウロスには近づきにくくなった。
(俺が手を出せば簡単だけど、折角ここまでやったんだからなぁ。)
カズトはしばらく考えていたが、やがてみんなに指示を出した。
「アニエス、エマの大剣を出して、ミノタウロスの近くに突き刺して、ホーリーライトで目くらましをするんだ。そして、みんなで一気に攻撃して。」
「でも雷撃があるわ。」
「ミヤの剣が避雷針になって、そこに雷撃は集まると思うから大丈夫だよ。」
「避雷針?」
「俺を信じるんだ。」
「分かったわ。じゃ、みんな行くわよ!」
アニエスはエマの大剣を袋からだし、上空からミノタウロスの近くに突き刺した。
するとミノタウロスは再び「うぉおおおお」と叫んで雷撃を放った。
しかし、今度は雷撃は全てエマの大剣に吸い取られてしまった。
「アニエス今だ!」
カズトのかけ声で、アニエスはホーリーライトを唱えた。
ミノタウロスはあまりの眩しさに驚いて両手で目を覆った。
次の瞬間、エマがミノタウロスの隙を突いて後に回り込み、グリムで右足を切り落とした。
すると、右足の膝から下を失ったミノタウロスは、大きな音を立てて後に倒れた。
そこをすかさずアニエスと大佐がミノタウロスの目をつぶし、ノラは左腕を切り落とした。
そして、瀕死のミノタウロスの首をエマがグリムで切り落とした。
ミノタウロスとの長時間の戦いに、みんな「ふぅー。」と息を吐いた。
「ご苦労様。見事だったよ。」
カズトはそう言うと、みんなにヒールをかけてあげた。
そして一息つくと、アニエスがカズトに言った。
「カズト。あっちの青いのは任せるわ。さすがに疲れたわ・・・」
「はい、分かったよ。」
カズトは、手の平を広げた右手を上に伸ばすと、手を握りしめながら、一気に肘を引いた。
「あ~ギュってやつだ!」「ギュッ!」
エマがうれしそうにカズトのまねをした。
「大佐、バーンとやってくれ。」
「はいワン。」
大佐は、青いミノタウロスへ人差し指を向けると、「バーン!」と言ってエアショットを放った。
ドーン!
大きな音と共に地響きが起こり、青いミノタウロスは仰向けに倒れた。
そして、しばらくすると2匹ともスーッと消えていった。
「今回も何かドロップはあるかな。」
そう言うと、カズトはミノタウロスが消えたあたり探してみた。
そして、青い指輪と黄色い指輪を見つけた。
「この指輪は何だろう?アニエス分かる?」
「さぁ、何かしら・・・魔法を強化するものかも知れないわね。この青いのは水属性、黄色いのは土属性じゃないかしら。」
「じゃ、試してみるか。ミヤ、この青い指輪を着けて、アイスショットを撃ってみて。」
「はいニャ!」
ミヤは青い指輪をはめると、「ばーん!」と言った。
アイスショットを大きな音を立てて洞窟の壁に大きな穴を開けた。
明らかに指輪無しの状態より威力が増していた。
「すごいニャ!」
「ミヤかっこいい。」
ミヤとエマは二人で大喜びした。
「じゃ、この黄色い指輪は、ノラが使うと良いね。」
「でも、私はまだ土の妖精と契約していません。」
「どうせ契約するだろうし、持ってて。」
「はい、有り難う。」
「ねぁ、カズト、今日はすごく疲れたし、帰りましょうか。」
「そうだね。聖剣グリムに水と土の指輪も手に入ったし、なかなかの収穫だったね。じゃ、みんな掴まって!」
カズトはみんなが掴まると、テレポーテーションで、一気に海岸へ移動した。
「じゃ、ギルドに報告に行こうか。」
カズト達はギルドへ着くと2階層までの様子を報告し、預けてあった馬車で海岸へ向かった。
そして、その夜、カズトは一つの提案をした。