第22話 マンダール
サキュバスを退けたカズト達は、数日ベスツビに留まり、エルスター卿が税金を元に戻し、取り過ぎていた税金を領民に返すことを決めたのを見届けると、南に移動して海岸沿いのマンダールと言う街に到着した。
マンダールは綺麗な砂浜のある、漁業が盛んな小さな街だった。
まだ春だったが気候は温暖で、海水浴もできそうだった。
カズト達は街に入ると、とりあえずギルドへと向かった。
街の中ではその規模の割には冒険者が多く出歩いていて、カズト達が考えていたよりも街は賑わっていた。
人混みの中をのろのろと馬車を進め、カズト達はギルドに着いた。
ギルドの中は、街中と同様に多くの冒険者で溢れていた。
「なんかこの街は冒険者が多いな。何かあったのかな?」
「そうね。こんな小さな街に、こんなに沢山の冒険者が居るなんて不思議よね。」
アニエスも、少し驚いているようだった。
カズトは、人で混み合っている、掲示板へ歩いて行った。
そして、1枚の依頼の張り紙を見ると、みんなを手招きした。
「みんなこれを見て、この街に冒険者が多い理由が分かったよ。」
カズトはそう言うと、依頼の張り紙を指さした。
「あーそう言うことね。新しいダンジョンが見つかったんだ。」
アニエスがそう言うと、エマも張り紙をのぞき込んだ。
「本当だ。」
(うまい刺身でも食べてのんびりしようと思っていたけど、このパターンだと・・・・)
「カズト、ダンジョンと言えばお宝よね。冒険者の血が騒がない?」
「ノラ・・・・」
「ダンジョンニャ!」
「ダンジョンワン!」
(あ~嫌な流れになってきた・・・・)
「まぁ、今回はのんびりするためにここへ来たんだし、海水浴でも楽しんでからでもいいかなぁ。」
「そういえば、爺様と婆様にもダンジョンの話しは良く聞いたわねぇ。」
「アニエスさん・・・・」
カズトは思わずさん付けでアニエスを呼んでしまった。
「ダンジョンかぁ・・・」
カズトはそう言うと「ふぅー」とため息をついた。
「どうせカズトは戦闘には参加しないし、留守番でも良いのよ。」
「じゃ、アニエス、俺は留守番で・・・」
「あ、でも宝物探しするのにカズトは居た方が良いわね。」
(アニエス・・・・)
「仕方ないな・・・じゃ、明日ダンジョンを見に行こうか。」
「魔物が出たら私たちで始末するから、カズトはのんびりついてきてくれれば良いわよ。じゃ、受付でどんなダンジョンか聞いてくるわ。」
そう言うと、カズトを残して、みんなは受付へ行ってしまった。
(ダンジョンねぇ。魔物達が外に出てきて暴れているわけでもないんだから、わざわざ行かなくてもの良いと思うんだけどな。まぁ、仕方ないか。みんなランク上げもしたいだろうし。しかし、ダンジョンと言えば、階層になっていて、各階層ごとにボスが居るって感じなのかな。ボスを倒してドロップゲットとか・・・)
カズトは、日本で見たアニメのダンジョンを色々思い浮かべた。
しばらくすると、みんなが受付で情報を仕入れて戻ってきた。
「どんなダンジョンか分かった?」
カズトが尋ねると、アニエスが聞いてきたことを教えてくれた。
「ダンジョンはこの街の北西にある森の中にあるんだって。10日ほど前にその森でゴブリン退治をしていた冒険者が見つけたらしいんだけれど、ここには上位ランクの冒険者があまり居ないらしくて、2階層までたどり着いた冒険者は居ないと言っていたわ。」
「と言うことはダンジョンの中の情報はほとんど無いと言うこと?」
「そうね、1階層にはスケルトンが沢山居て、階層のボスは大きな蛇の魔物と言うことは分かっているらしいけれど、そこから先はまだ分からないと言っていたわ。」
「大蛇か。毒蛇かも知れないから、解毒薬を持って行った方が良いかもしれないな。」
「そうね、ダンジョンへ行く前に買っておきましょ。」
「さて、それじゃ、宿屋を探そうか。」
「あ、でも、これだけ冒険者が集まっていると、宿屋が開いているかしら。」
アニエスは心配そうな顔をして言った。
「とりあえず、ギルドの部屋が開いているか聞いてみようか。」
「エマが聞いてくるー。」
そう言うとエマは部屋が開いているか受付に確認に行った。
そして、直ぐに戻ってくると、「駄目だった~」と言って、両手でバツを作った。
「これだけ冒険者が居ると、宿屋も開いてないかも知れないね。そうだなぁ・・・海岸でキャンプするか。」
「そうしましょ。」
アニエスが賛成すると、みんなも同意した。
カズト達が海岸に行くと、既に多くの冒険者達が海岸でテントを張っていた。
「考えることはみんな同じか。海岸も大賑わいだな。」
カズト達は良い場所がないか周りを見渡して、海岸の西の外れの芝生が生えているところでキャンプをすることに決めた。
カズト達は手早くテントを張ると、カズトは魚を捕りに海へ向かい、他のみんなは、解毒薬と水着を買いに行った。
カズトは大きなかごを持って砂浜を海岸線伝いに歩いて行き、岩場まで行くとクレヤボヤンスを使って海の中をみて、魚を次々にアポートで取り寄せていった。
かごに半分ほどの魚を捕ると、カズトはキャンプに戻って血抜きをして鱗を取ると、氷を入れた箱に魚を一旦しまった。
そして、エルフの里で見つけた山葵を鞄から取り出してすり下ろすと、おもむろに上着を脱ぎ捨て、海へ向かって走って行った。
カズトは水辺についてもそのまま歩き続け、腰が水に浸かるくらいまで進むと、沖へ向かって泳ぎ始めた。
100メートルくらい泳ぐと、カズトは仰向けになり、海の上を漂い始め、流れが沖へ向いていたためカズトはどんどん沖へと流されていった。
それから30分ほどたった頃だった。
【カズト様、どこに居るのですか?】
大佐からのテレパシーだった。
【泳いで沖に出てるよ。】
【アニエス様が呼んでます。】
【分かった、じゃ、戻るよ】
カズトはそう言うとテレポーテーションで、キャンプに戻った。
みんなは今買ってきたであろう水着に着替えていた。
「カズト、どう?」
同い年のアニエスとノラがカズトの前で水着を披露した。。
アニエスは赤い水着を着ていて、少しスレンダーだが均整の取れたスタイルだった。
一方のノラは黄色い水着で、バストが水着からこぼれそうなグラマラスなボディだった。
二人ともとても魅力的だったので、カズトは少し恥ずかしくなって目を背けた。
「カズト、もっと見て良いのよ。」
ノラがニコニコしながらカズトに近寄ってきた。。
「二人とも、とてもきれいだよ。」
更に恥ずかしくなったカズトは、そう言うのがやっとだった。
二人が色っぽすぎて、カズトが目のやり場に困っていると、今度はミヤとエマが水着を見せに来た。
エマは14歳で背丈はそこそこあったが、まだお子様体型だった。
ミヤも見た目はエマと同じくらいでお子様体型なので、カズトは「二人ともかわいいよ。」と言って、ほっとした気持ちになった。
その後は、全員で海岸へ行き、それぞれ好きなことをして過ごした。
カズトは大佐と沖の方へ泳いでいき、アニエスとノラは水際で遊んでいた。
エマとミヤは、砂でお城図作りを始め、カズトと大佐が戻るころには、立派な砂のお城を完成させていた。
「俺は刺身の用意をするから、できるまで遊んでいて良いよ。」
そう言ってカズトがキャンプへ戻ろうとすると、大佐も手伝うと言ってついてきたので、刺身の準備を二人で始めた。
30分ほどで刺身の作り終えると、カズトはアニエス達を照れパーシーで呼んだ。
既に太陽は西に沈みかけていて、空には星が見え始めていた。
鯛やヒラメなど刺身の他、色んな雨海の幸を堪能して、みんなお腹がいっぱいになると、アニエス達は明日の作戦会議を始めた。
カズトはそれには加わらず、星を見て過ごしていたが、やがて眠ってしまった。
そして翌朝、カズトが目を覚ますと、既に全員起きていて、出かける準備をしていた。
(余程楽しみなんだな・・・)
カズトも軽く朝食を食べると、急いで準備をした。
準備を終えると、馬車をギルドに預けた。
そして、そこからは徒歩で街の外に出て、テレポーテーションで一気にダンジョンのある森の手前まで移動した。
「カズト、今日は私が仕切るから、カズトはのんびり着いてきてね。」
アニエスにそう言われたカズトは、「はいはい。」と答えて、おとなしくついていくことにした。
「大佐、魔物の気配はどう?
アニエスが大佐に聞いた。
「魔物は寝ている見たいです。」
「じゃ、みんな、行くわよ!」
アニエスの合図と共にカズト達は森の中へ入っていった。
森の中に入ると、最初は狭い道があったが、段々獣道のようになっていった。
みんなはアニエスを先頭にして、ギルドでもらった地図を頼りにどんどん森の奥へと進み、ダンジョンの入り口を目指した。