第15話 旅立ちと出会い
カズトは、翌朝目覚めると庭に出て朝の訓練をしている忠行の元へ行った。
「忠行殿、昨日のことですが、私はアニエスにを出すことはしません。もし、そう言う気持ちになったら、ここに戻ってきてあなたの許しを請います。」
「そうか。君ならそう考えると思っていたよ。」
「え?では、何故・・・」
「そうだなぁ。アニエスは、3年間君に恋い焦がれてきたんだよ。そして、自分の目の前に立派な青年が現れた。自分ではまだ分かっていないようだが、アニエスは既に君に恋をしている。」
「そうなんですか?俺には良くわかりません。」
「ははは。それでいいさ。私が昨日行った本当の意味は、もしアニエスが君を好きなことに気がついたとき、ためらわないで君に受け入れて欲しい。そんな親心さ。もちろん、君もアニエスと同じ気持ちであればだけどね。まぁ、気楽に考えてくれ。」
「はぁ・・・」
カズトは元来女性に対して無頓着で、高校時代は勉強中心で過ごし、卒業後は引きこもり生活を始めてしまったので、女性を好きになると言うことが良くわかっていなかった。
「では、その時はまたご相談に来ます。」
「はははは。カズト君。君は良い子だ。是非私の息子になって欲しい。はははは。」
(まぁ、いいか。なるようにしかならないしな。)
結局カズトは良くわからないまま、首をかしげながら屋敷へと戻っていった。
屋敷に入ると、アニエスが眠たそうな顔でダイニングへやってきた。
「アニエス眠そうだね。」
「昨日遅くまでお母様と今日の準備をしていたので・・・」
「もう少し寝ておくかい?出発は午後からでも良いよ。」
「カズト!何言うのですか!眠たくなんかありません。朝食を食べたら予定どおり出発です。」
アニエスはカズト子言葉を聞いて眠気が吹っ飛んでしまったようだった。
「はいはい。じゃ、朝食にしようか。」
ミヤと大佐はいつもどおりメイド達と食事をしていたので、カズトは忠国達と6人で朝食を食べた。
そして、いよいよ出発。
カズトは、寂しそうにしているミヤと大佐に「もし、ここに残りたいなら、そうしても良いんだよ。」と声をかけた。
「カズト様、ミヤはカズト様の家族だから、いつも一緒だニャ。」
「私もです。ワン!」
カズトはうれしくなってニッコリ笑うと「そうだな。一緒に行こう。」と二人に言った。
そして、ミヤ、大佐、アニエスが馬車の乗り込み、カズトも馬車に乗ろうとしたとき、ソフィーが近づいてきて、カズトの耳元で言った。
「ひ孫を楽しみにしております。」
「あはははは・・・・」
カズトはもう、笑うしかなかった。
カズトは気を取り直して馬車に乗り込み、忠国の屋敷を後にした。
御者台にはカズトとアニエスが座り、ミヤと大佐は荷台の方に乗った。
その後カズト達は西門へ向かい、そのまま西へ向かって馬車を進めた。
「カズト、とりあえず何処に行くの?」
「うん、西へ行く。ちょっと行きたいところがあるんだ。」
「精霊を探しに行くんじゃないの?」
「ああ、途中に精霊が居そうなところがあったら、寄っていくつもりだよ。」
「で、何処に行きたいの?」
「それは着いてからのお楽しみだよ。」
「いじわるね。まぁいいわ。青い空、何処までも続く道。旅だわぁ。」
そう言うとアニエスは両手を空に向かって広げた。
「ところでアニエス。この先どれくらいで次の街に着くのかな。」
「そうねぇ、大きな街だとベスツビだけど、その前に小さな街があるわ。でも二日くらいはかかるから、どこかでキャンプしないといけないわね。」
「急ぐ旅でもないし、のんびり行こうか。」
「そうね。」
「じゃ、荷台でミヤと大佐と一緒に、魔力を増やす訓練でもしておいでよ。馬車は俺が運転しておくから。」
「そうね、魔力を増やして、魔法の威力を上げたいし。じゃ、カズトお願い。」
「ボック、みんなの訓練の様子を見ていてくれるかい。」
「はい。お安いご用でございます。」
アグネスは、ボックを抱えて、荷台に移った。
「はい、皆様。では、魔力増強の訓練を始めます。これは効果は少ないのですが、馬車の中でもできますので、お暇のあるときは自らやるように心がけて下さいませ。まず、右手に魔力を集めて頂きます。。次に集まった魔力を身体の中を通り手左手に移動して頂きます。魔力は時間をかけて、ゆっくりと移動させて下さいませ。」
「これだけなの?」
アニエスは、少し拍子抜けしたようにボックに尋ねた。
「はい。馬車の中でできるのはこれくらいでございます。」
しかし、これがやってみると結構難しく、3人は「うーん、うーん。」とうなるような声を出しながら訓練を続けた。
3人が訓練をしている間、カズトは馬車を進めていき、しばらくすると上り坂になり、やがて小高い丘の上に着いた。
「ねぇ、みんな。ここで昼食にしようか。」
カズトは荷台でうなっている3人に声をかけた。
「じゃ、あの大きな木のしたあたりどうかしら。」
アニエスが指ささす方を見ると、大きな木が枝を広げていた。
(あれって、コマーシャルで見たことあるような木だな。モンキーポッドっていったかな。)
「うん。いいね。」
馬車を進めて木の下に来ると、冒険者らしい2人の女性が休んでいた。
「こんにちは。」
カズトが声をかけると、彼女たちもカズト達が近づいてきていることに気がついていたようで、「こんにちは。」と挨拶を返してきた。
「お邪魔しますね。」
そう言うと、カズトは木の下に馬車を止めて食事の支度を始めた。
(何だろ、あの二人荷物も無さそうだけど・・・)
「やっぱり、ここは良いわねぇ。景色も良いし最高だわ。」
「アニエスはここに来たことがあるんだね。」
「ええ、何度かここは通ったことがあるわ。」
「昼食は俺が用意するから、アニエス達は休んでいていいよ。」
カズトが食事の準備を始めると、アニエスとミヤと大佐は、何故か剣の訓練を始めた。
(あらまぁ、ゆっくり景色でも楽しめば良いのに。)
カズトはそう思いながら、手早くサンドイッチを作った。
そして、4人でサンドイッチを食べようとしたとき、カズトは先ほどの二人の視線を感じた。
(お腹がすいているのかな?)
「お二人さん。良かったら一緒にどう?」
「あ、いや・・・・」
「ねぇさま、頂きましょうよ。もうお腹が減って歩けないよ。」
「そんなみっともないことできないじゃないのよ。」
「遠慮しなくても良いんだワン。」
二人は小声で話していたが、大佐にはしっかり聞こえていたようで、二人に声をかけた。
「そ、そうですか・・・それでは遠慮無く・・」
ねぇさまと呼ばれた方がそう言うと、もう一人がサンドイッチを両手につかみ、がつがつと食べ始めた。
「あ、エマ!」
しかし、もう一人もお腹がすいていたらしく、「それでは。」と言うと、サンドイッチを握りしめてがつがつ食べ始めた。
「あ、私はノラ、で、こっちが妹のエマです。」
「エマです。」
口の中にサンドイッチをいっぱいほおばりながら、思い出したように二人はそう名乗ると、再びサンドイッチをむさぼり食った。
「あははは。お腹がすいていたんだな。遠慮無く食べて。俺はカズト、こちらはアニエスとミヤと大佐。じゃ、俺はもう少しサンドイッチを作ってくるよ。」
そう言うとカズトは山盛りのサンドイッチを作って二人の前に置いた。
姉のノラは、金髪のショートヘアーで、腰にはショートソードを着けていた。
藍色のジーンズのようなものをはいていて、白いブラウスと、その上に革のベストを着ていた。
胸もアニエスよりもかなり成長していて、切れ長の目が印象的な美人だった。
妹のエマは、こちらもショートヘアーだったが、銀髪で、背中に大きな剣を背負っていた。
白いミニスカートに薄い黄色のTシャツを着て、大きな瞳のかわいい女の子だった。
二人はその後もむさぼるようにサンドイッチを食べていたが、やがてお腹がふくれると、カズト達の前で正座して、深々と頭を下げた。
「このたびは食料を恵んで頂き誠に有り難うございました。」「有り難うございました。
「別にかまわないよ。困ったときはお互い様だからね。ところで、なんでこんなところでお腹をすかせていたんだ?」
「はぁ、それが・・・」
ノラは、これまでの事を話し始めた。。
「実は私たちは、ここから北にある小さな街の冒険者をやっていたのですが、シルバーランクになったのをきっかけに、旅に出ることにしたんです。で、とりあえず南にある海へ行こうと言う話になって、準備を整えて南に向けて旅立ちました。1日目は小さな村の宿屋に泊まり、、翌朝その宿屋を出て半日ほど歩いたところで、その先が林になっていましたが、道が続いていたので気にもしないで、お昼ご飯を食べた後に林林の中に入ったのです。ところが途中で運悪く日が暮れてしまい、それでも夜道をどんどん進んでいったのですが、休憩しているところをゴブリンに襲われてしまいました。最初の数匹は倒したのですが、次から次からわいてきて、気がつくと荷物も盗られてしまい、仕方なく走って逃げることにして、翌朝やっと林を抜けることができました。その後も二人で歩き続けて、日が沈む頃この木にたどり着いたので、木の上に登ってその夜は過ごしました。そして明け方に目が覚めたのですが、空腹で動けなくなっていたところに皆さんが現れました。」
「それは災難だったな。」「かわいそうだニャ。」
(それにしても女の子二人で旅とは、度胸があるな。)
「で、これからどうするの?」
「はい、とりあえずどこかの街で旅に必要なものを買いそろえようと思っています。」
「じゃ、グレンサの街に行くと良いよ。今から出れば日のある内に着けると思う。食料も少し分けてあげるよ。」
カズトがそう言うと、エマが、モジモジしている、ノラの脇腹をつついた。
「ねぇさま、ほら。」
「あ、あのう・・・皆さんはこれからどちらへ行かれるのですか?」
「俺たちはとりあえず西を目指している。ちょっと行きたいところがあってね。その後はまぁ、あちこちまわろうかと思っているけど特に目的地は決めてないかな。」
「あのぉ・・・・」
ノラが口ごもっていると、エマが大きな声で言った。
「どうか私たちを仲間にいれて下さい!」
そう言うと、二人はまた地面に頭をこすりつけた。
「え?」
「実は、二人で旅をするのはやっぱり怖いから、誰かいい人が居たら仲間に入れてもらいたいなって、二人で話していたんです。どうぞお仲間に入れて下さい。」
カズトは、どうして良いか分からず、アニエスの方を見た。
アニエスはしばらく考えていたが、ノラとエマの手を取るとニッコリ笑って言った。
「爺様は困っている人が居れば助けなさいと言ってたし、私もそうしたいと思うから、一緒に行きましょう。」
「アニエス様有り難うございます。」
ノラとエマはそう言うと、「よかったぁ~」と言いながら抱き合って泣き出した。
「さぁ、泣かないで。改めて、俺はカズト、呼び捨てで良いよ。俺も呼び捨てにさせてもらうから。」
「そうね、私もアニエスと呼んでちょうだい。」
「ミヤだニャ。」「大佐だわん。」
ミヤと大佐も仲間が増えて喜んでいるようだった。
「じゃ、西へ向かって出発だ。みんな行くぞ!」
こうしてカズトは2人の仲間を加えて、6人で旅を続けることになった。