第14話 手負いのトロール
カズトは、西門へ向かいながら、忠国から教えられたトロールの対処法を思い出していた。
(回復がやたら早い魔物だったよな。確か先生は、サイコキネシスで頭をつぶせば良いって言ってたと思うが。それにしても何で手負いなんだ?)
「アリエス、トロールって、むちゃくちゃ回復力が高い魔物だったよね。なのになんで手負いなんだ?」
「ん~そうね。トロールは体の傷なんかはすぐに回復するし、腕や足を切りとっても、すぐに生えてくるのだけど、頭だけは回復が遅いのよ。」
「じゃ、誰かが頭に傷を付けて、怒り狂って街に向かっていると言うことかな。」
「そんなところだだと思うわ。」
「以前、先生に頭を握りつぶせって言われたんだけど、さくっとやってしまって良いかな。」
「あ、カズト、私の戦闘を見てほしいから、最初は私にやらせてもらって良い?トロールは頭を握りつぶさなくても、切り落とせば倒せるわ。」
「わかった。じゃ、アニエスにまかせるよ。」
(良い機会だし、アニエスの戦闘を見ておこうかな。やばくなったら助ければ良いし。)
カズト達が西門につくと、トロールは西門のすぐ近くまで来ていた。
身長は人間の3倍はありそうなくらいの大きさで、よく見ると、目に1本の矢が刺さっていた。
(あの矢が原因だな。)
トロールは大きな剣を振り回しながら徐々にカズト達の方へ近づいてきていた。
「じゃ、カズト行ってくるわね。」
「了解。ミヤ、大佐はそのまま待機して。じゃ、アニエス任せたよ。」
アニエスは、小さな竜巻を魔法で作ると、それに乗って上空へと舞い上がっていった。
(風魔法が使えるのか。)
アニエスは20メートルほど上空まで行くと、トロールの後ろに回り込んで、エアカッターをトロールの首めがけて放った。
その時、トロールは防衛本能が働いたのか、左手で首を防御した。
アニエスが放ったエアカッターはトロールの指を数本切り落としたが、首に達することは出来なかった。
(残念、ガードされたか。)
そして切断されたトロールの指は直ぐに生えてきた。
続いてアニエスは、トロールの左に回り込む、エアカッターで左手を切り落とすと、直ぐに後ろに回り込んで再びトロールの首をめがけてエアカッターを放った。
しかし、今度は、右手に持っている剣で防がれてしまった。
(こりゃ、両腕を同時に切り落とさないと無理っぽいな。)
アニエスもカズトと同じ考えらしく、今度は大きめのエアカッターを後ろからトロールに放った。
しかし、エアカッターは背中に突き刺さるだけど、胴を切り裂くほどの威力はなかった。
(アニエスのエアカッターでの威力では、ちょっと苦しそうだな。2個同時にも出せないみたいだし。)
その後もアニエスは色々な角度からエアカッターを放ったが、ことごとくトロールに防がれてしまった。
「カズト、ごめん。一人じゃ無理みたい。」
「わかった。じゃ、ミヤと大佐に両腕を落とさせるから、トロールの首を切り落として。」
「わかったわ。お願い。」
「ミヤはアイスカッターでトロールの右腕を、大佐はエアカッターで左腕を切り落としてくれ。」
「はいニャ。」「はいワン。」
ミヤと大佐はトロールに近づくと、タイミングを合わせてトロールの両腕を切り落とした。
その瞬間、アニエスは刀を振りかざし、トロールの首をめがけて振り下ろした。
するとトロールの首は見事に切り落とされ、ドサッと言う音と共に地面に落ちた。
そしてアイエスはトロールの正面に立つと、「バーン!」と言ってエアショットをトロールに向けて放った。
「ドーン」
エアショットがトロールに当たると、トロールの体は、大きな音を立てて後ろに倒れた。
そして、アニエスはカズトを見ると、「えへっ」と言って、にっこり笑った。
(うっ。かわいいじゃないか・・・)
「アニエス、ミヤ、大佐、ご苦労様。」
「カズト、どうだった?」
「良い動きだったよ。」
カズトは、後はパワーだね問いかけて、言うのをやめた。
「もう少し魔力があればあれくらい一人で倒せたのに、ちょっと悔しい。」
「旅の間に魔力を増やす訓練だね。じゃ、3人でギルドに報告しておいで。俺は一足先に屋敷に戻っているから。」
(自分にたりないとこれはちゃんと理解しているんだな。)
「それじゃ、ミヤ、大佐、行きましょ。」
「はいニャ。」「はいワン。」
カズトは3人がギルドに向かうと、一人で先に屋敷へと帰っていった。
カズトが屋敷に戻って応接室に行くと、忠国がソファーに座ってくつろいでいた。
カズトはテレパシーでトロール退治をすることは報告してあったので、結果を報告した。
「そうか、で、アニエスはどうだった?正直なところを教えてくれ。」
「そうですね、動きはかなり良いですね。風魔法もかなり正確で、剣の腕前もかなりのものだと思いました。ただ、魔力不足で、魔法の威力がもう一つでした。あとは、エアカッターをカーブさせたり、同時に2枚出したり等戦法を覚えれば、トロールくらいは一人で倒せるようになると思います。」
「では、その訓練はカズト君に任せる。アニエスをしっかりしごいてやってくれ。」
「わかりました。」
その後、カズトと忠国は戦法について話していたが、突然忠行が応接室へ入ってきた。
「カズト君、戻っていたのか。」
「はい。」
「ところでカズト君。君はアニエスをどう思うかね?」
「え、そうですね、かわいくて、素直で良いお嬢さんだと思います。」
「そうかそうか。」
そう言うと、忠行はカズトの耳元で小声でいった。
「責任をとってくれるならアニエスに手を出しても良いからね。」
「え、ええええええ。なんてことを言うんですか!」
「あはははは。結構結構!」
忠国はそう言うと笑いながら応接室を出て行った。
「ん、カズト君。忠行はなんと言ったんだね。」
「はぁ、えー、責任をとるならアニエスに手を出しても良いと・・・」
カズトがそう言ったときだった。
「私の手がなんですって?」
いきなりアニエスが応接室へ入ってきた。
「ああ、アニエスの手さばきがなかなか良かったという話をしていたんだよ。カズト君がアニエスの戦闘を褒めていたぞ。」
忠国がとっさに誤魔化してくれたので、カズトはほっとした。
「なぁ、カズト君、さっきの件はわしも同意だ。はははは。」
忠国がそう言うと、カズトは顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。
「さっきの件って?」
アニエスは訳も分からずきょとんとしていた。
「ところでアニエス。トロールが街へ来た原因は分かったの?」
「ギルドで聞いてきたわ。あの時ギルドに飛び込んできた新米冒険者が、森の中で眠っているトロールを見つけて、弓で射ったんだって。それがたまたまトロールの目に刺さって大暴れを始めたらしいわ。それで、手に負えなくなって街に逃げてきたんだけど、臭いを追ってトロールが追いかけてきたと言うことらしいわ。」
「なんとも迷惑な話だね。」
「まぁ、私は良い練習になったから、次からは気をつけるように言って、帰ってたの。」
「あははは。まぁ、アニエスには良い練習だったね。」
アニエスの報告を聞いてから昼食までの間、カズトはアニエスと共に、魔物との戦闘について、忠国から色々教えてもらった。
そして昼食後は、出発の準備のために街へ買い物に出かけることになった。
二人は馬車でかけると、カズトはアニエスに言われるままに店を回り、アニエスに言われるままに買い物をした。
(これは助かるな。何を持って行けば良いのか全く分からないし。)
こうして買い物を終えたカズトとアニエスは、屋敷に戻り夕食を済ませると、アニエスはまだ準備があるらしく、両親と共に自分の部屋へ向かった。そして、カズトは応接室で、忠国とソフィアの3人忠国達の旅の話を聞いた。
そして、カズトがそろそろ部屋に行って寝ようとしたときだった。
「カズト様、これを持って行っていただけますか。」
そう言ってソフィーが差し出したのは、きれいなエメラルドの宝石だった。
「エメラルドですか?」
「これは、エルフの光と言う石です。この石から出る光の方向へ行けば、エルフの里に着きます。そして、この石を持っていれば、エルフの里に入ることが出来ます。」
「そんな大切な物を受け取れません。」
「実は、この石を使ってアニエスをエルフの里へ連れて行ってほしいのです。私が里を出て以来、この石は光らなかったのですが、アニエスが旅に出ることが決まって以来、光を放ち始めました。多分私の母がアニエスを呼んでいるのだと思います。」
「そういうことでしたら、お預かりします。これで最初の行き先が決まりました。」
「カズト様、宜しくお願いいたします。」
「分かりました。必ずエルフの森へ行ってきまいります。」
「その言葉を聞いて安心しました。」
(当面の目的地もこれで決まったな。)
その後カズトは部屋に戻り、明日からの旅のことを考えながら眠りについた。