第13話 グレンサのギルド
翌朝、カズトが目覚めてダイニングへ行くと、アニエスは既に朝食を済ませて、出かける準備も終わっていた。
アニエスは、シルクのシャツに、革製のショートパンツをはいて、腰には日本刀を刺していた。
アニエスの顔立ちは祖母のソフィーとよく似ていて、色白でエメラルドグリーンの綺麗な瞳をしてた。
長く伸びた黒髪は後でくくってポニーテールでにしていて、スレンダーな美人だった。
(そのうちソフィーさんのようになるんだろうけど、まだ成長途中だな。)
「アニエス。おはよう。」
アニエスは一人の姿を見ると、「カズト、早く朝食を済ませてギルドへ行きましょう。」とカズトを急かした。
「あ、そうだね。今日はよろしくね。」
ミヤと大佐は既に食事を済ませていたので、カズトは急いで朝食を済ませると、出かける準備をした。
カズトは応接室にいた忠国とソフィー、ノーラに挨拶をすると、アニエス、ミヤ、大佐と共に屋敷を出た。
そして屋敷出ると、忠行が庭で訓練をしていた。
「忠行殿、行って参ります。」
「ああ、行ってらっしゃい。アニエス、頼んだぞ。」
「はい、お父様。」
こうして、4人はグレンサのギルドへ向かって歩いて行った。
カズトはこの道すがら、気になっていることをアニエスに尋ねた。
「アニエス、俺と旅に出て何かやりたいことはあるのか?」
カズトはます、アニエスの目的を聞いてみることにした。
「そうねぇ。世界中の色々な景色を見てみたい。そして、普通の人では行けないような所にも行ってみたいわ。」
「俺と一緒なら普通の人が行けないような所へいけると思ったの?」
「爺様からいろんな旅の話しを聞いたの。爺様と旅をしたいと思ったわ。そんな時に爺様が弟子を育てるために3年間家を離れるって聞いたのよ。その時決めたの。私の旅の道連れはその人しかいないって。」
「と言うことは、3年前に俺は予約済みだったと言うことか。まぁ、俺も特に何かやりたいわけでもないし、世界中ををまわるのも楽しいそうだな。」
「でしょ。きっと楽しい旅になるわ。もう、直ぐにでも出発したいぐらいよ。」
「ははは。アニエスはあわてんぼうさんだな。」
「3年間ずっとこの日を楽しみにしていたのよ。」
「そうだったね。ごめんごめん。」
「ところで、冒険者ってやっぱり、ギルドから依頼を受けてそれをクリアして報酬を受け取るの。」
「そうね。依頼が無くても魔物を倒して報告すれば報奨金が貰えるわね。」
「じゃ、耳を切り取るとかして持って行くの?」
「そんなことしなくても大丈夫よ。仕組みは良くわからないけど、ギルドにある水晶に手をかざすと全部分かるみたいなの。」
「へぇそうなんだ。」
(まぁ、超能力や魔法がある世界だから、それくらいのことは分かるんだろうな・・・)
「後は、沢山魔物を倒したり、ギルドの依頼をクリアすると、ランクポイントが増えていって、それに併せて冒険者のランクが上がるのよ。」
「アニエスはどんなランクなの?」
「私はシルバーよ。下から3番目ね。ランクは、アイロン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、ブラックの7ランクあるわ。」
「じゃ、先生はやっぱりブラックなのかな?」
「そうよ。爺様はブラック。そして、婆様はダイヤで、お父様はプラチナ、そしてお母様はゴールドよ。爺様はブラックより上のランクがないからブラックになっているけど、もっと上のランクがあれば、そのランクになっていると思うわ。」
(俺はまだゴブリン退治しかやってないから、ブロンズくらいかな?まぁ、ランクなんてどうでも良いけど。)
こんな話をしていると、4人はギルドについた。
ギルドは4階建の洋館で、この街の建物の中でもかなり大きなものだった。
1階は大きなホールになっていて、中央にはテーブルと椅子が沢山置いてあり、大きな食堂のようだった。
玄関を入って右の奥にカウンターが有り棚にはグラスやお酒が並んでいて、、その奥は厨房になっていた。
そして、その反対は同じくカンターになっていて、ギルドの受付になっていた。
正面の壁には依頼の紙が張り出されていて、カズトがギルドに入ったときは、数人の冒険者が張り紙を見ていた。
カズトは、多くの視線を感じたので、周りの冒険者の心の中を少しのぞいてみた。
(アニエスだ。相変わらずかわいいなぁ。)
(アニエス、俺と付き合ってくれないかなぁ・・・)
(アニエスと一緒に来た連中は誰だ?俺のアニエスに手を出したら承知しねぇからな!)
大部分はアニエスに対する思いで、残りはカズトに対する嫉妬の感情だった。
「カズト、何しているの。行きましょう。」
「ああ、アニエス、ごめん。」
(こいつアニエスを呼び捨てにしやがって・・・)
(こいつは殺す!)
カズトは、慌ててテレパシーを使うのを辞めた。
(あははは。アニエスは人気者なんだな。)
そしてカズトが左のカウンターへ向かおうとしたときだった。
「そっちじゃないわ。2階に行くわよ。」
(あれ、登録はここじゃないのか。)
「なぁ、アニエス、そこのカウンターで登録するんじゃないの?」
「ここは騒がしいから、ギルド長の部屋でやるわ。」
そう言うとアニエスは階段で2階に上り、最初の部屋のドアをノックした。
「おじさま!おじさま!アニエスです。」
(おじさま?)
すると、部屋の扉が開き、中から体格の良い男が出てきた。
「アニエス、どうした。」
「おじさま、おはようございます。今日はこの3人の冒険者登録をお願いに来ました。」
「わざわざここへ連れて来るって事は、あれか。」
「はい、爺様のお弟子さんです。」
「わかったよ。じゃ、中にはいんな。」
「カズト、ミヤ、大佐、中に入って。」
カズト達が部屋に入ると、アニエスがギルド長を紹介してくれた。
「こちらはここのギルド長の、アレクサンデール伯父様です。母の兄上様です。」
「タダノカズトです。宜しくお願いいたします。それから、この二人はミヤと大佐です。」
「カズト君か、異国の名前はやはり変わっているな。じゃ、登録の道具を持ってくるからそこのソファーに座ってちと待っていてくれ。」
そう言うとアレクサンデールは部屋を出て行った。
部屋の中にはギルド長用の大きな机があり、その前にソファーが置いてあるだけで、閑散とした部屋だった。
そして数分後、ドタドタと大きな足音が聞こえると、アレクサンデールが水晶などを持って戻ってきた。
そして、テーブルに水晶を置くと、カズトに尋ねた。
「カズト君は魔物退治はやったことはあるのかね。」
「はい、ゴブリン退治は修行の一環でやりました。」
「そうか、では、この水晶に手をかざしてくれ。」
カズトは言われるままに水晶の上に手をかざすと、水晶が金色に光り出し、横に置いてあった鉄のプレートと、ギルドカードが金色に変わり、ギルドカードにカズトの名前が書かれていた。
(あ、なんだこれ、異世界っぽい。面白いじゃないか!)
「カズト君は、ゴールドランクだな。まぁ、これくらいは行くだろうな。このプレートは首から提げておいてくれ。で、このギルドカードは、身分証明書兼通行手形のようなものだから、なくさないように。では、ミヤと大佐もやってごらん。」
「はいニャ。」「はいワン。」
結果、ミヤと大佐はシルバーランクだった。
「こりゃ驚いたな。相当ゴブリンを退治したんだな。」
「ええ、まぁ。あははは。」
カズト達は、泉の周りのゴブリンをほとんど退治していたので、かなりの数のゴブリンを退治していた。
その時カズトはふとアニエスを見た。
ミヤと大佐がシルバーランクだったのが意外なようで、驚いてきょとんとしていた。
「ところでカズト君、報奨金があるが、どうすれば良いかな。今ここで渡しても良いし、ギルドに預けておけば、何処のギルドでも受け取れる。」
(報奨金か。)
「アニエス、どうしよう。」
「当座の必要な分だけもらって、後は預けておけば良いんじゃない。」
アニエスに言われたとおり、カズトは報奨金の一部だけ受け取り、残りはギルドに預けた。
その後、カズト達はギルド長としばらく雑談をして過ごした。
そして、アレクサンデールにお礼を言って1階のホールに戻った。
1階に降りるとアニエスが受付に用事があると言って、受付の方に歩いていった。
すると一人の大柄な冒険者がカズトの方に向かって歩いてきた。
「おい、おめぇ、我等のアニエスさんを呼び捨てにするとは良い度胸じゃないか。」
(あーどこにでも居るんだよなぁ・・・どうしようかなぁ。コン亜ところで騒ぎを起こすのは嫌だけど。)
そして冒険者がカズトの胸ぐらをつかもうとしたときだった。
カズトが先ほどもらった金のプレートがきらりと光りった。
それを見ると男は少したじろぎ、「あ、いや、勘違いでした。すいやせん兄貴。」と言って、後ろに下がっていった。
(ブロンズだったのか。なんだ、プレートも役に立つんだな。)
「カズト、何かあったのか?」
「いや、何でも無いよ。帰ろうか。」
そして、カズト達が帰ろうとしたときだった。
一人の男がギルドに飛び込んできたかと思うと、受付で「トロールが来てる。」と大声で言った。
「トロールは昼間は寝ているでしょう。」
受付嬢がそう言うと、男は「いや、手負いのトロールだ!ばかでかい剣を振り回しながらこの街へ向かっている。」とそこまで言って、座り込んでしまった。
その時。
「私が討伐に向かう!」
アニエスは大声で言った。
「アニエスさん、手負いのトロールはシルバーでは危険です。」
受付嬢がアニエスを止めようとした。
「大丈夫。ここにゴールドもいます。」
アニエスはそう言うと、カズトを指さした。
(あーそうなるのか。しゃーない。行くか。)
「アニエス行くぞ!ミヤ、大佐。お仕事の時間だぞ!」
「はいニャ。」「はいワン。」
こうして、4人は、手負いのトロールを退治すべく、西門へと向かった。