第11話 忠国の屋敷
第11話 忠国の屋敷
翌朝、カズトは朝食を終えると、ミヤと大佐の3人で小屋を綺麗に掃除した。
そしていよいよ出発の時間となった。
「3年間有り難う。47年後にまた帰っている。」
カズトはそう言うと、小屋に向かってお辞儀した。
「では先生。行きましょう。ミヤ、大佐、つかまって。」
「はいニャ。」「はいワン。」
ミヤと大佐は、返事をするとカズトの袖につかまった。
「では、カズト君。グレンサの街の正門!」
忠国はそう言うと、瞬間移動でグレンサまで移動した。
カズト達も泉に向かって一礼すると、瞬間移動でグレンサへ向かった。
グレンサの街は国の外れに位置し、東は隣国との国境であったが、国境には大きな川が流れており、直接隣国が攻めることはきわめて困難で比較的安全な地域だった。
南門を入ると、通りの両側には商店が並んでおり、しばらく進むと、大きな広場に出た。
この広場からは東西に道が延びており、この道を挟んで南側に庶民達が暮らしていた。
広場ににはギルドや大きな商館、教会などが有り、また公園にもなっていたので、街の人達の憩いの場になっていた。
東西の通りの北側には裕福な人々が暮らしていて、敷地も広く大きな家ばかりだった。
そして、公園を抜けて更に北へ行くと、そこにはこの地を治める貴族の城があった。
カズト達は、忠国に連れられて、公園を西に進み、途中から右にお折れて、北へと向かった。
そしてしばらく進んでいくと、忠国がおきな屋敷の前で止まった。
「カズト君、ミヤ、大佐。我が家へようこそ。」
「こ、ここが先生のお宅ですか・・・・」
カズトはあまりに大きな屋敷で、腰を抜かしそうになった。
ミヤと大佐は「大きい、大きい」とはしゃいでいたが、小さな1戸建てに住んでいたカズトにしてみれば、まるで貴族の屋敷のようで、しばらく言葉が出なかった。
大きな屋敷の前には広い庭が有り、真ん中には噴水があった。
「カズト君、さあ、中へ入ろう。」
カズトは、はっと我に返り、忠国の後からついていった。
玄関の前に着くと、忠国は大きな声で、「わしだ。帰ったぞ。」と言った。
少し待っていると、大きな玄関の扉が開き、なかから、若くて綺麗な女性が出てきた。
「忠国さんお帰りなさい。」
その女性は、そう言うと忠国を抱きしめた。
「おいおい、若い者達の前で恥ずかしいだろう。」
「あら、私はまだまだ若いつもりですよ。」
「ふむ。まぁよい。」
「それで、こちらが、転移された方々ですか?」
「そうだ。彼はカズト君と言う。そして、ミヤと大佐だ。カズト君、わしの家内だ。」
「え?先生、息子さんの奥様ではないのですか?」
「あらやだ、うれしいこと言ってくれますね。忠国の家内でございます。カズト様。」
「カズト君、昨日話したとおり、わしの家内はハーフエルフなんだ。エルフほどではないが、年を取るのが遅いのだよ。」
(若い頃にはお似合いの夫婦だったのだろうけど・・・)
「あーそう言うことでしたか。失礼いたしました。タダノカズトと申します。先生よりお招きを受けてお邪魔いたしました。宜しくお願いいたします。あ、それから、ミヤと大佐は私の家族です。」
「ミヤですニャ。」「大佐ですワン。」
「あらあら、かわいい猫ちゃんとワンちゃんですこと。私は、忠国の妻で、ソフィーと申します。宜しくお願いいたします。」
挨拶が終わると、カズト達は、応接室へ通された。
「ソフィーあやつらはおらんのか?」
「今朝方、大きなゴブリンの巣穴が見つかったとかで、3人で討伐に出かけました。それ程遠くはないので、夕方には戻ると思います。」
「そうか。」
忠国がそういったときだった。
「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました。」
カズト達が声のした方を見ると、かわいい犬人のメイドが、お茶を持って応接室へ入ってきた。
お茶を置いている間中大佐が見つめていたので、犬人のメイドは、顔を真っ赤にしながら、お茶を置くと慌てて出て行ってしまった。
「ほら、大佐。お前があんまり見つめるから、逃げちゃったじゃないか。」
「ごめんだワン・・・」
「初めて見る犬人の女の子だから、仕方ないな。次からは、横目でちらっと見るんだぞ。」
「はいワン。」
大佐があまりにも元気よく返事をしたので、皆で大笑いすると、大佐は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「先生。猫人はここには居ないのですかニャ?」
「猫人のメイドも居るぞ。廊下の向かいの部屋におるから、良かったらあちらで話してくるとよい。大佐も行っておいで。」
「はいニャ。」「はいワン。」
返事をすると、二人は急いで応接室を出て行った。
「カズト君。堅くならなくて良いから、ここを君の実家だと思って気楽に過ごしてくれ。」
忠国は堅くなっているカズトにそう声をかけた。
「はい、有り難うございます。」
「今日はごちそうを用意させるから、楽しみにしておいてくれ。ソフィーはわしの何倍も料理が上手だからな。」
「それは楽しみですね。」
「そうじゃった、昨日話した馬車を見せよう。騒がしいのもおらんから、乗り方も今のうちに教えておく。」
(さわがしいのって?)
「はい。」
「では、私はお昼の用意をしておきますね。」
「ふむ。では、カズト君、行こうか。」
忠国に連れられて馬車が置いてある小屋へ行くと、幌がついた4輪で結構大きなものだった。
(これなら3人で中に寝ることもできるな。)
馬を連れて来るから少し待っててくれ。
そう言うと忠国は厩舎へ行って2頭の白馬を連れてきた。
カズトは馬を間近で見るのは初めてだったので、その大きさに少し驚いた。
(おいおい、近くで見るとばかでかいな・・・)
「結構大きなものなのですね。」
「そうだな。この2頭は、比較的立派な体格をしておる。」
忠国は最初に、馬を馬車につなぐ方法をカズトに教えた。
何度か練習して、カズトができるようになると、馬車に乗り込み、庭を走って練習を始めた。
カズトは、初めのうちは少しぎこちなかったが、お昼前にはなんとか馬車を操ることができるようになった。
その後もカズトは夢中になって練習していたが、ソフィーがお昼の用意ができたと呼びに来た。
ミヤと大佐はメイド達と食べるというので、カズトは忠国とソフィーの3人で昼食を摂った。
「うぁー、これは美味しい。先生の料理も美味しかったのですが、これはもう別格の美味しさです。」
「どうだ、旨いだろう。この味は人間にはだせん。エルフ特有の味なんだ。カズト君もこの味を味わいたかったら、いつでもここに寄ってくれ。」
「はい。それにしても美味しい。」
「食事が終わったら、今度は3人で街の外まで馬車で行ってみないか?ソフィーは馬の扱いも上手だから。」
「はい。宜しくお願いします。あ、でも、ミヤと大佐はどうしましょう。」
「あの二人はメイドと楽しくやっているから、ボックに見ておいてもらおう。ボック頼めるか?」
「はい、忠国殿。」
こうして、ボックを大佐に預けると、カズト達は馬車に乗って出かけていった。
馬車で街を出ると、農家が転々と有り、牛や馬があちこちで放し飼いにされていた。
カズトはソフィーに教わりながら、馬車で農道を走り回った。
時には道を外れたり、でこぼこ道の走り方なども教わった。
そして、日暮れが近づいてきた頃に、忠国の屋敷へと戻った。
屋敷に戻るとカズトは馬車を小屋に入れ、馬を厩舎に連れて行ってえさを食べさせた。
その時だった。
「爺様、戻られたのか!爺様!」
大きな声と共に、一人の若い娘が厩舎へやってきて、カズトと共に馬の世話をしている忠国に飛びついた。
「おお、アニエス。久しぶりだな。大きくなったな。」
「爺様、約束は覚えておられますか。」
「もちろん覚えているぞ。ほれ、そこに居るのが転移者のカズト君だ。カズト君、これが昨日話したわしの孫だよ。」
「おおお、カズト殿、お初にお目にかかります。私は爺様の孫で、アニエスと申します。私のことはアニエスとお呼び下さい。敬語も敬称も不要でございます」
(え、女の子?おとこじゃないんかい!)
「あ、カズトです。初めまして。では私のこともカズトと呼んで下さい。」
男だと思っていた忠国の孫は、何と若い娘だった。