第82話 ドノバンの家を再訪しよう
畑の方は、あれから成長が著しく良く、想像していたより早くに間引きを行った。
ヴィーヴルには「何故、全部育てんのじゃ? 可哀想なのじゃ」と言われたが、そうしないと大きく育たないと言って納得してもらえた。
間引いた物をサラダとして食卓に出した時には、「捨ててしまう訳じゃないのなら、早く言うのじゃ」とも言われた。
ヴィーヴル、安心してくれ。
此処では、何一つとして無駄に出来るものなど無いのだよ。
そうこうして、前にドノバンの家へ行ってから10日が過ぎた。
今日は、ドノバンの家に行く予定の日だ。
ドノバンから頼まれた事への、返事もしなければいけない。
返事の内容は、ヴィーヴルと話して決まっている。
此処に、農業に続く産業として工業が出来るかもしれない。
たった1軒だけだが……
それでも、ミスリルやオリハルコンで作ったものを売れば、収入源としては途轍もないものになる。
この場所が分からないようにしないといけないから、売りに行くときには瞬間移動を使わなければいけないのが、欠点だろうか。
その瞬間移動も、俺はまだマスターしていない。
短い距離ならばできるようになったのだが、長い距離を魔力の紐で結ぶ前に魔力が発散してしまう。
ヴィーヴルには、「漏斗の先をもっと細い感じにすれば、より早く魔力を込められるのではないか?」と言われ、試してみたのだが、あまり上手く行かなかった。
細くしてしまうと、魔力が出口付近で固まってしまった感じになり、出ていくのが却って遅くなってしまった。
「多分じゃが、今までその太さで練習していたので、出しやすくなっているのじゃ。
当分はこのまま練習を続けて、魔力操作に慣れたほうが良いのじゃ。
細く出すのは、魔力操作に慣れた後にやった方が良さそうなのじゃ」
との、ヴィーヴルからの言葉に従い、今まで通りに練習を続けていた。
今回は、ファーティ、アインスと一緒にドノバンの家へと向かう。
俺が一人で行ってくると、ファーティが護衛を名乗り出てくれた。
大丈夫だと伝えても、どうしても護衛させろと聞かないので、付いてきてもらうことにした。
アインスは、護衛の練習の為とのことだった。
もう既に、次はツヴァイと決めてあるらしいから、ファーティの教育計画通りに進めているのだろう。
護衛の練習は、独り立ちするのには必要ないんじゃないか? とも思ったが、ファーティにはファーティの考えがあるだろうから、俺が口を挟んでいいものではない。
家から歩き、程なくして川へと着いた。
「前は、此処から上流へ歩いて、渡れるところを探したんだよな」
『はい、その通りです』
「今回も同じように行くけど、ちょっと待っていてくれ」
『承知』
「セット」
俺は目印を打ち込んだ。
これで、帰ってくる時に、また上流まで行かなくても良いだろう。
ここの川幅位ならば、瞬間移動でも行ける距離だと思う。
「これで良しっと。
さぁ、ファーティ、アインス、行こうか」
『? 承知』
ファーティは首を傾げていたが、帰りに分かるから楽しみにしていて欲しい。
上流へと移動し、川を渡って、ドノバンの家へと向かう。
途中で小休止を挟んだのも、前と同じような場所だ。
今回は寄り道することなく、ドノバンの家へと着いた。
家の玄関先まで進み、ドアをノックする。
「こんにちは。
ノアだ、開けてくれないか?」
「よく来たな、ノアよ。
待っておったのじゃ、入るがよい」
「遠慮なく上がらせてもらうよ。
あ、こいつはアインスで、ファーティの子供だ」
「あ、こいぬさんだ! つれてきてくれたの? わたしは、アイリスだよ。
よろしくね、あいんす」
『ワン』(よろしく)




