第81話 畑の番人
「ん? 虫か?」
今日も畑の雑草抜きをしながら、芽の様子を見ていると、虫がついている芽を発見した。
(駆除しておかないと、後で大変なことになるかも知れないからな……)
虫をつまんでいると、
『それをどうなさるのですか?』
ドゥから声が掛かった。
「あぁ、これは芽を食べてしまうから、何処かに捨ててこようと思ったんだ」
『では、必要ないのですね?』
「あぁ、要らないものだな」
『では、私に頂けますか?』
「良いけど、どうするんだ?」
『食べてもいいですよね?』
「食べるのか?」
『はい、ゴブリンにとっては食べ物ですよ』
あ、そうか。
ドゥ達はゴブリンだった。
普通に会話をしているし、寝食を共にしているから、ゴブリンだった事をすっかり忘れていた。
「食べていいよ。
虫に作物の葉っぱとかを食べられると上手く育たなくなるから、どんどん食べてくれ」
『分かりました。
皆にもそう、伝えておきますね』
ドゥは他の皆へ伝えに行った。
『ほんとにいいの?』とか『やった~』とか声が聞こえるが、こちらとしても大助かりだ。
「ヴィーヴルも食べるか?」
最近は、ヴィーヴルも積極的に、畑の作業を手伝ってくれる。
どう言った心境の変化があったのかは知らないが、人手が増える分には大歓迎だ。
ヴィーヴルが狩りをしなくても、ストレージの中にはまだまだ鹿やイノシシの肉があるから問題ない。
少なくなっても、ファーティが狩りの練習で狩った獲物を、くれると言ってくれている。
「妾は食さぬのじゃ」
(ドラゴンってトカゲとかと一緒じゃないのか? トカゲって虫を食べなかったっけ?)
本人が食べないと言うのだから、追及する必要は無いだろう。
俺とヴィーヴルは、雑草抜きの作業を続けた。
向こうでは『いた~』とか『ちょうだ~い』とかの声が聞こえている。
ドゥ達にとってはおやつのような感じなのだろうか?
益虫と呼ばれる、害虫を食べてくれる虫もいるのだが、アン達が益虫みたいな感じになるだろうから、種類に関係なく食べていっても問題ないだろう。
きちんと教えれば雑草も抜いてくれるし、虫も駆除してくれる。
ゴブリンって、農作業向きの種族なんじゃないか?
今後は放っておいても、きちんと作物を育ててくれるかもしれない。
それでも、俺は、アンやドゥ達と一緒に畑を耕したり、ファーティ達と狩りに行くだろう。
のんびり生きるのと、怠けるのとは違う事のはずだ。
「こっちの方が、虫が多いはずだぞ。
虫が付きやすいものだから」
そう言って、キャベツの畝を指さす。
『じゃあ、みんなであっちいこ~』
トロワの掛け声で、キャトルとサンクがキャベツの畝へと移動してきた。
「虫を食べるのに夢中になって、雑草を抜くのを忘れるんじゃないぞ」
『『『は~い』』』
益虫でも、雑草抜きまではしてくれないだろう。




