第53話 ドワーフとの話し合い(3)
「いいのよ、この人も久しぶりにミスリルやオリハルコンが打てるから、喜んでいると思うの」
「あぁ、何年振りかのう」
「こっちにきて初めてだから、30年ぐらいは経つんじゃない?」
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
「あぁ、ミスリルを打つのは久々じゃが、鉄はずっと打っておったからの」
「この人の作るものは身内である私の目から見ても、それなりに信用してもいいと思うわよ」
そう言いながら、イルデは家から出て行った。
「それなりとはなんじゃ、それなりとは!」
イルデの背中に向けて、ドノバンが声を発する。
「街にいると、何かと他の工房が五月蝿いので、こんな街外れの処に工房を構えたのじゃがな。
お陰で、街に偶に入ってくるような素材を扱うことができなくなったのじゃが、仕方のないことだと思って諦めておる。
じゃが、お陰でお主と出会い、こんな大きさのミスリルや、更にはオリハルコンを打てるのじゃから、良かったのかも知れんのう」
「俺も、何とか目処が立ったようで、ほっとしたよ」
「なぁ、どうしても、拾った場所は教えてもらえんのか?」
「あぁ、今、俺が人里離れて暮らすことになった原因でもあるし、そこに人が押し寄せるようになるのは何としても避けないといけないんだよ」
「ふむ、残念じゃな。
この大きさのがあると言うことは、まだまだありそうなものなんじゃがな」
あそこには、まだまだ沢山(それこそ山のように)あるのだが、それをここで言うのは色々と不味いかもしれない。
この後の話の様子を見て、考えよう。
「あ、ノアさん、ちょっとこれを見てもらえるかしら?」
イルデが、両手剣や片手剣、短剣などを抱えて持っていた。
「これらは、この人が打った剣なの。
素材は鉄しかないけど、この人の腕は分かってもらえると思うの」
両手剣を手に取り、構えてみる。
構えただけでも、いい仕事がされていることが分かる。
両手剣を返して、次は片手剣を手に取る。
軽く振っただけでも、こちらもいい仕事がされている。
「ほう、お主は剣士だったのか?」
「あぁ、冒険者をやっていた時は剣士だったんだ。
良く分かったな?」
「剣の構え方、振り方を見れば分かるもんじゃ。
ところでお主、何故、剣を持っとらんのじゃ?」
「あるところに忘れてきてな。
まぁ、冒険者も辞めたし、忘れてくる時点で剣士失格だしな。
最近は魔法ばかり使っていたから、剣が必要なくなってきていたんだ」
以前、ゴブリン村に行った時に、ゴブリン達の警戒を解くために剣を草むらの方へ放り投げた。
そしてアンやドゥ達をを迎い入れることができたのだが、嬉しさのあまりか放り投げた剣の回収を忘れてきた。
あの後は、畑づくりが忙しくて取りに戻る暇もなかったので、もう剣のことは諦めることにした。
剣が無くても冒険者を辞めた身の上としては、何の支障もないし、今のところヴィーヴルが狩ってきてくれている。
ヴィーヴルが狩りを辞めても、魔法で狩りはできるし、ファーティと組んだって良い。
今の俺にとって、剣が不要なものとなっていた。




