第364話 念願の武器を手に入れた
翌日、装備の店を開けに行った。
装備の店までに行う瞬間移動の回数が、1回だけではあるが減った。
(少しずつではあるが、距離が伸びたのは素直に嬉しいな)
このまま使っていけば、1回の瞬間移動で店まで行けるようになるだろう。
いつになるかは、まだまだ分からないが……
いつも通りに開店準備をして、いつも通りに開店すると、これまたいつも通りに新人冒険者が一番乗りを果たす。
いつもと違ったのは、その冒険者が短剣へと一目散に向かい、1本の短剣を持って此方へとやって来た。
「これください」
元気な声で、その短剣を机の上に置く。
装飾が殆どない、ドノバンの此方へ来た初期あたりのものだ。
「お、ついに買えるようになったのか?」
「今回、偶々、大金が手に入りまして、これまでの蓄えと合わせて買えました」
新人冒険者は、金貨20枚を机の上へと置いた。
「頑張ったな。
よし、ちょっと待ってろよ」
俺は机の下から砥石を取り出す。
これは、前々から用意して置いておいたものだ。
装備の価値はドノバンが決めている。
これに対して、安くしたりするのはドノバンに対する冒涜でしかないだろう。
だから、それ以外の部分でおまけをしてやる。
この砥石は、以前にヴィーヴルの居た洞窟の中で見つけたものだから、何の問題もないはずだ。
そのままでは使いにくいと思ったので、持ち運びやすいような形に整えてある。
「これをやるから、自分で整備もしてみるんだ。
本格的な整備は本職に任せるしかないが、簡単な整備は自分で出来る様にならないといけないからな」
「ありがとうございます。
今日はこの後、これの使い心地を試してみたいと思います」
「頑張れよ」
短剣と砥石を持って、帰って行った。
(実際に使ったら驚くだろうな……)
いつも武器を見ていたけど、実際に使ったことは無いと思う。
実際に使うと想像以上の切れ味に、俺も驚かされた。
その後は領主の騎士とか、手練れの冒険者たちが装備を買って行った。
偶に「俺には何かくれないのか?」と言われた。
「あれは、駆け出しへの祝いみたいなものだよ。
お前も、砥石ならやっても良いが、欲しいか?」
「砥石しかくれないのかよ」
「あれも必要なものだからな。
でも、あり過ぎても邪魔にしかならないだろ?」
「それは、そうだな」
「それに、例え砥石とは言え、ただで配り過ぎると街の店にも迷惑が掛かるからな。
あくまで、お祝いだよ」




