第３６０話 新しい村民を迎えに行く(3)
「用意は良いのじゃ？」
「あぁ、頼む」
俺とリリスは馬車に乗り込んでいた。
ヴィーヴルに瞬間移動で、俺の前の家に運んでもらう為だ。
帰りにはゴブリン達が乗り込んでいることだろう。
「着いたのじゃ」
馬車の中から外を見回すと、そこら中が草が生えたままの、前の俺の家の前に着いていた。
俺も瞬間移動の目印は設定していったので方向と距離は分かる。
だが、此処まで瞬間移動で移動できるだけの魔力の糸を構築できない。
（まぁ、もう来ることも無いだろうから、放置で良いか）
「ヴィーヴル、ありがとう。
帰りも頼むよ」
「分かっておるのじゃ」
家の方へと歩き、家の扉を軽くノックする。
「ドゥ、ノアだ。
迎えに来たぞ」
『もういらっしゃったのですか？ まだまだ掛かると思っていました。
どうぞ、お入りください』
鍵を開けて、家の中へと入る。
土で作った箱の水は、よく見てみると分かる程度にしか減っていないし、ラディッシュも同様だ。
「水もラディッシュも殆ど減っていないようだけど、食べなかったのか？」
『いつ戻って来られるか分かりませんでしたので、皆で少しずつ食べようと決めておりました』
「それじゃ、もう来たから心配いらない。
好きなだけ食べて良いぞ」
『では、皆、あと１つずつ食べましょう。
残りは、ノア様に持って帰って貰いましょう』
「どうしてだ？ 全部食べても良いんだぞ？」
『残りは、村に残っている皆と一緒に食べたいと思います』
「そうか、分かったよ。
じゃあ、ドゥの指示通りにしてくれ。
残りは俺が持ち帰るから、後で、村に居る皆と食べてくれ」
そこに居たゴブリン達は、ラディッシュをそれぞれ１つずつ取り食べた。
「そう言えば、皆、名前は考えたか？」
『はい、アンナが考えてくれました』
「アンナ？」
『はい、私です。
よろしくお願いします』
確かあの時、俺に忠告してくれたゴブリンだ。
他のゴブリンとはちょっと違うなとは思っていたが……
「アンナ。
君は本当にゴブリンなのか？ 只のゴブリンとは思えないのだが……」
『正真正銘、何処から見てもゴブリンですよ』
「そうか……」
ゴブリンかも知れないが、俺より考えると言う能力には長けていると思う。
「それじゃあ、アンナ。
お願いがあるんだけど、良いかな？」
『私に出来る事でしたら、どうぞ』
「気が付いたら、何時でも直ぐに助言して欲しいんだ。
昨日の様に間違えた時や、間違えそうになった時には直ぐに教えてくれ」
『私はゴブリンですよ。
ゴブリンの言う事なんかを聞くのですか？』
「助言や忠告に、種族は関係ないだろ。
同じ事を言った時に、人間だと正しくて、ゴブリンだと正しくないなんて道理はないからな。
そこにあるのは、その言葉に俺が納得したかだけだよ。
昨日のアンナの言葉に、俺は納得した。
だから、忠告としてありがたく受け取ったのだし、これからも忠告や助言を貰えると期待しているんだ」
『分かりました。
私で良ければ、ご協力いたします』
「ありがとう。
これからは色々と連れ回すことが多くなるかもしれないけど、よろしく頼むよ」
そうして、アンナとアンナが考えた名前を付けられたゴブリンを馬車へと案内して、瞬間移動で村へと帰って来た。
ドゥ以外のゴブリン達は、再び馬車の中で茫然としていたのは言うまでもなかった。
