第339話 ベルゼバブ、一時帰郷へ
「ルシフェル様、行って参ります。
ノア様、ルシフェル様の事、くれぐれもお願いいたします」
「何も心配することは無いのだ。
せいぜい、羽を伸ばして来るが良いぞ」
「ルシフェルの事はちゃんと見張っておく。
ゆっくりして来ると良いさ」
ベルゼバブは顔を上げて身を翻し、魔王領の方向へと飛んで行った。
以前のゲーム大会で1位になった事により、叶えられた願いだ。
幹部会が開かれた次の日は装備の店を開く予定だったので、今日が帰郷する日となった。
泊まって来ても良いと言ったのだが、夜遅くなっても朝までには此方へと帰ってくると、頑として譲らなかった。
魔王領が荒れているらしいので、それほど長く滞在したくは無いのだろうか?
「我はこれから、例の件についての報告に目を通すつもりであるが、ノアも見るか?」
「あぁ、見させてもらうよ」
例の件とは、暗殺未遂の事だ。
2~3日前の出来事だと言うのに、中間報告らしいのだが、報告が上がって来たという事に驚いた。
あちらも本気で取り組んでいると言う、意思表示であろうか?
「今のところ、辺境伯が容疑者として挙がっているとの事だ」
「辺境伯か……ありえなくは無いな」
橋を壊したことによる報復と考えられなくも無いし、単純に王国を脅かす敵として刺客を放ったとも考えられる。
「今後も調査を続けるが、今は手掛かりをなるべく多く集める段階の様であるな」
「相手も、そう簡単に尻尾を出さないだろうからな。
まぁ、頑張って貰おう」
「そうであるな」
ルシフェルは俺に報告書を渡してくれた。
学が無い為に意味の分からない所もあったが、大まかにはルシフェルが言っていた通りであろう。
ルシフェルは返答を書いている。
此方で知り得た情報でも書いているのであろうか? 暫くして、外で待機しているハーピーを呼び出して書類を渡していた。
砦に居る門番に言付かって、報告を持ってきた者に渡すようにでもするのだろう。
そんな感じで、ルシフェルは自分の仕事を熟していた。
とは言え、この村はそれほど大きな村ではない。
ルシフェルの手が必要な事なんて高が知れている。
机の上に置かれていた書類は、直ぐに処理し終えていた。
「今日の仕事は終わりであるな」
「ご苦労様。
いつもはこの後、どうしているんだ?」
「魔法の研究をしたりだな。
魔法陣を使わずに魔法を行使するには、どの様にすれば良いのか? などだな」
「あぁ、魔族とドラゴンでは魔法の発動方法が違うんだったな」
「以前はこの様なことを考える暇も無かったのでな。
此処に来て生き返った感じであるな」
「それは良かった」
「ここで、酒を飲みながら出来れば最高なのだが?」
「それは駄目だ。
晩酌まで我慢するんだな」
「少し位、良いであろう?」
「ベルゼバブにきつく言われているからな。
そんなことしたら、俺が怒られる。
代わりに、これをやるよ」
ストレージの中からドライフルーツを取り出した。
「要らないのだ」
「それならば、代わりに妾が貰うのじゃ」
そう言って、ヴィーヴルは俺の手からドライフルーツを奪うかのように持って行った。




