第315話 蝗害(こうがい)?
「あなたの村は平気だったの?」
何時ものあの露店で女店主から突然聞かれた?
「何のことだ?」
「隣の帝国の村なんだけど、蝗害の被害にあったらしいのよ。
こっちには来なかったみたいなんだけどね。
そう言えば、あなたの村って何処なの?」
村の名前を明かしてもいいものか? 暫し思案したが、痛くもない腹を探られる必要はないだろう。
「その、蝗害って何なんだ?」
質問で返して、話の矛先を変えておこう。
「バッタが大量発生して、あらゆるものを食い尽くしていくのよ。
それこそ、服や酷い時は家なんかも食べられちゃうみたい」
「バッタって、あの飛びまわる小さいバッタか?」
「そうよ、そのバッタよ」
「あんなモノが家なんかを食べるのか?」
「そうよ、1匹や2匹ならそんなことは無いけど、それこそ、空が暗くなるくらいのバッタが一度に来るらしいのよ。
ってことは、あなたの村も大丈夫だったのね」
「あぁ、そうだな」
「今日はあなたが来る予定だったからこっちに来たけど、明日から暫くの間は国境近くの村へ行く予定なのよ。
食料を片っ端から集めているらしいからね。
あなたの村にも要請はなかったの?」
「そうなのか。
俺の村には要請は来ていなかったけど、遠いし、此処に仕入れに来ているくらいだから、要請があったとしてもそれに答えられるか疑問だしな。
端から要請の対象外だったんじゃないか?」
「そうかも知れないわね」
「ノアよ、余計なお喋りは止めて、早く果物を渡すのじゃ」
「おう、そうだな。
今回は幾らだ?」
「あら、ごめんなさいね。
えっと、銀貨5枚と銅貨3枚になるわ」
「はいよ」
ストレージ化してある袋の中から、銀貨6枚を取り出して渡した。
お釣りの、銅貨7枚を受け取る。
「ありがとうな。
少し聞きたいんだけど、それって、俺が突然持って行っても大丈夫なものか?」
「そうね……事が事だけに受け付けてもらえると思うけど、何か持っていくようなものがあるの?」
「あぁ、ラディッシュなら持っていけるかもと思ってな。
じゃあな」
「まいど~、次もよろしくね~」
俺とヴィーヴルは露店を後にした。
そして、ヴィーヴルに今買ったばかりの果物の袋から、ナシを取り出して渡した。
「ノアよ、先ほどの話に首を突っ込むつもりなのじゃ?」
「さっきの話って、何のことだ?」
「バッタがどうのうと話しておったのじゃ」
「あぁ、あの話か。
もし本当なら、食うにも困っているだろうからな。
ラディッシュぐらいしか出せないだろうけど、助けられるなら少しでも助けてやりたい」
その後、俺とヴィーヴルはドライフルーツの店の扉を開けた。




