第314話 出張料理店(8)
次の日、俺とヴィーヴルは砦までの道造りを始めた。
砦に作る出張料理店では、当初の予定だとアイリスとあと1人ぐらいが料理するだけだと考えていたので、2人ぐらいなら俺が瞬間移動で連れて行けば良いと考えていた。
ところが、給仕が必要だと気が付いたので村民から募ったところ、予想以上の人数に手伝ってもらえることとなった。
嬉しい誤算ではあるが、それらの人数を瞬間移動で移動させるには何往復もする必要がある。
それでは大変なので、アイリスとあと1人の料理人チームは俺が瞬間移動で運び、その他の者は作られた道を使って後から来てもらうこととなった。
料理人チームが瞬間移動で移動するのは、子供であるアイリスがいるからという理由もあるが、料理の仕込みをするために早く行く必要があるからだ。
給仕チームの移動には、鍛冶工房と家具工房が合同で馬車を作る予定だ。
その馬車を引くのには、現在、連絡係を務めてもらっているケンタウロスが立候補してくれた。
現状、連絡係としての仕事が無い状態だったので、こちらの仕事をすると言ってくれたのだ。
本当に、感謝しかない。
そんな訳で、砦までの道を作る必要ができたので、ヴィーヴルと道とする場所へとやってきた。
「ここより砦まで、真っすぐの道を作るのじゃ?」
「あぁ、木を伐り倒して根を掘り起こして、平らに土を均して……」
「前と同じように作れば良いのじゃ」
そう言って、ヴィーヴルは空へとその身体を浮かせた。
そうして、方向を確認するように前方を見ると、身体を浮かせたまま集中し始めた。
両手を前へ翳すと、目の前の地面が浮き上がり、生えていた木が両脇へとなぎ倒されていった。
その後、浮き上がった地面は、周りと比べて少し高い位まで低くなり、平らな道となっていた。
「これで仕舞なのじゃ」
地上へと降り立ったヴィーヴルは事も無げに言った。
相変わらずの使い手だと、感心するしかない。
「ありがとう。
俺がやっていたら数日掛かっていただろうな」
「良いのじゃ。
まぁ、褒美として果物をくれても良いのじゃ」
ご褒美ね……まぁ、渡すことは吝かではないのだけど、要求されると何か意地悪をしたくなるな。
「残念ながら果物はストレージの中に入っていないから、今回は無しだな」
「うぅむ、ただ働きさせられてしまったのじゃ。
疲れたから帰るのじゃ」
「分かったよ。
ドライフルーツならあるから、それで我慢してくれ」
ストレージからイチゴとリンゴのドライフルーツを取り出した。
「始めからそう言えば良いのじゃ」
ヴィーヴルは引っ手繰るかのように、ドライフルーツを俺の手から取り上げた。
「俺は、横に除けられた木の始末をしていくけど、ヴィーヴルはどうする?」
「妾はその辺の木陰で、これを食しておるのじゃ」
「分かった」
ヴィーヴルには道を作って貰ったのだから、これ以上、働いてもらうこともない。
木陰でゆっくりして欲しい。




