第312話 出張料理店(6)
「そう言う訳で、給仕のことをすっかり忘れていた。
誰か、やってくれるものは居ないか?」
夕食の席で、皆が集まってきた所で聞いてみた。
「私も、アイリスとのメニュー開発に掛かりっきりで、そちらのことは考えていなかったわ。
ごめんなさいね」
イルデに謝られてしまった。
「いや、俺の落ち度だから気にしないでくれ。
今日、確認をしていて気が付いたんだ。
幸いにして、まだ何時から開店するとは伝えていないから、給仕として仕事の流れを掴むまで練習出来る時間はある」
「人間の村に行って、給仕を雇うことは出来ないの?」
「一番近い村は、前に橋を壊しているからな。
今行っても、すんなり受け入れられるとは思えないんだよな。
料理店だって、その村の人は受け入れられないだろう」
「じゃあ、お客さんは何処から来るのかしら? その村相手じゃないの?」
「最初の内は、それこそ王都からになると思うぞ。
交渉時に居た人たち、その人からの口伝えや噂からだろうな」
「そうなのね。
そうなると、やっぱり村民から給仕をしてくれる人を募集するしかないってことなのね」
「あぁ、そういうことだ」
「給仕だけで良いの? お店を閉めた後に掃除する人だって必要だし、お皿を洗う人だって必要だと思うわよ」
「それは、俺がやっても良いかなと思っている。
どうせ、俺も店には行かないといけないから、皿洗い位は手伝おうと思ってな」
「ノアさんが、そこでも働くのは働きすぎだと思うけど……」
「何もしていない方が辛いからな。
皿洗いくらいはさせてくれ」
「それなら、皿洗いを2人でやれば良いじゃろう。
1人より2人でやった方が楽になるじゃろうからな」と、ドノバン。
「それじゃあ、皿洗いに1人と……給仕は何人必要なの?」
「それなのだが、少しでも人数を少なく、楽にできるように考えた方法があるのだけど、聞いてくれるか?」
「良いわよ」
許可が出たので、昼間に考えた方法を伝えた。
話し終わると同時に、ルシフェルから「良く考えられておるが、実際に開いてみないと分からん感じではあるな」と言われた。
「少しでも簡単にと考えたんだよ。
即席の給仕にはどこの席の注文か、その料理は幾らなのかとてもじゃないが覚えきれないだろうからな」
「そうなると、メニューを少し考え直した方が良いかしら?」とはイルデ。
「そんな必要あるのか?」
「大皿料理だけじゃなく、個人向けの料理も考えていたのよ。
そういう感じにするのなら、大皿料理ばかりにした方が良いと思うのよ」
「別に個人向けの料理も並べても良いだろ? たくさん並べておけば良いだけだから」
少し考えて、イルデは首肯してくれた。
「それより今は、さっき言った役目を担ってくれる人を探さないとね」
ここにきて、話が振り出しに戻っていた。




