第31話 手伝いを集めよう(4)
「あと、集落で気になったことがあるんだが良いか?」
『何だ? 言ってみろ』
「俺が此処に来るまでに、集落を守る壁とかは見当たらなかったのだが、守りは大丈夫なのか?」
『俺たちに人間が作るようなものを作れない』
「集落の周りに、穴を掘るだけでも違うんだけどな」
『それで?』
「もう少し、集落を守った方が良いんじゃないかと思ったんだ」
『お前なら守れるというのか?』
「集落の周りに土壁を作るぐらいならできるな」
『では、それを作ってくれ』
「作ったとして、お前たちは俺に何をくれるんだ?」
『お前の畑の仕事を手伝ってやる』
「それについては、出来たものを分けてやると言ったろ。
出来たものではなく、土壁が良いと言うならいいが……」
『出来たものも貰う。
土壁も欲しい。
両方貰うにはどうしたらいい?』
「だから、土壁に見合うものを俺にくれればいいよ」
土壁ぐらいとも思うが、報酬なしで仕事は引き受けない方が良い。
一度、そういうことをしたら、この次はこれ、その次はこれと報酬なしでの仕事がどんどんとエスカレートしていくかも知れないからだ。
そして、この前は報酬なしでも受けたのに、今回は受けてくれなかったと逆恨みを買うかも知れない。
明確に報酬があるから仕事を引き受ける方が、仕事を依頼する側にも仕事を受ける側にも割り切れると思う。
『用意できるものはない』
「ならば、土壁の話はなしだ。
何か見合うようなものが用意できたら言ってくれ。
いつでも作ってやるよ」
『あの、ちょっといいですか?』
別の女ゴブリンから声が掛けられた。
「何だ?」
『あなたの家は此処から近いのでしょうか?』
「そうだな、2000メトルぐらいだから、そう遠くはないかな?」
『2000メトルと言うのは分かりませんが、遠くはないのですね?』
「あ、すまない」
『いえ、良いんです。
それで、私たちは毎日、そこへ行けるのでしょうか?』
「それは、通えるようなところなのかということか?」
『それもありますが、途中で熊や狼に襲われることはないのでしょうか?』
「う~ん、俺が此処まで来る時には、そういうのは居なかったようだけど、この辺には結構いるのか?」
『3日ほど前ですが、ここは熊に襲われたんです』
さっき、土壁を欲しがったのはそういう事だったのか。
そういう理由ならば作ってやっても良いのだが、無報酬で作るのは今後に影響すると思うのでできない。
「それじゃあと言って、俺が毎日送り迎えすることもできないしなぁ」
『そうだと思います。
そこで、あなたの住んでいるところへ、一緒に住むことはできないのでしょうか?』
「こっちへ来ると言うのか? それだと、こっちの集落から抜けて、こっちに来ると言う事になると思うんだが?」
『私の夫が、熊の襲撃で殺されてしまったんです。
今度熊が来た時に、私も殺されてしまうかもしれません。
この集落から逃げたいんです』