第305話 新しい命の誕生
『セットが近々、子供を産むと思いますので、休ませても宜しいでしょうか?』と、とある日の朝食時にドゥに言われた。
「あぁ、ゆっくり休ませてやってくれ。
と言うか、出産が近いのに働いていたのか?」
『動ける内は働こうと、皆で話しておりました』
「無理して働かせる必要は無いんだぞ。
他の皆だって、作物に影響がなければ水浴びをしたって良いんだからな」
今のところ、暑くなったら水浴びで暑さを凌いでいるが、普段から少しでも暑さを凌ぐ為に麦わら帽子を渡すつもりだった。
そして、街で売っていた麦わら帽子を買って来たのだが、大人用のは大きすぎて、子供用のは上手く頭に被せられずと合わなかった。
原因は直ぐに分かった。
麦わら帽子は丸く作られているのだが、ゴブリン達の頭の形は楕円形になっているので、形が合わず入らなかった。
街でゴブリンの頭の形に合わせて麦わら帽子を作ってくれと言えるわけもなく、イルデに頼むことにした。
「それで、子供が生まれたら、暫くの間、母親は作業を休ませてやってくれ。
子供の面倒を見ながら作業をするなんて、母親が大変すぎるからな」
『承知しました』
「そうか、でもそうすると、此処で初めて生まれた子供という事になるんだな」
『そうですね』
「その子の為にも、この村があり続けるように頑張らないとな。
そうだ、その子の名前は決めたのか?」
『私達は、この村に来るまで名前を持つことがありませんでしたから、名前の事など考えていないと思います』
「じゃあ、子供が生まれそうになったら、名前を考える仕事に就いてもらおう。
働いてもらうのだから、畑の作業と同時にする必要は無いだろ? そして、子供が生まれたら、子供の面倒をみる作業をするんだ」
『子供達は皆、畑で作業をしていますよ?』
「歩けるようになるまでは、母親が面倒を見てやらないと駄目だろうから、それまでは母親の仕事として良いよ」
『承知しました』
そうして、セットは畑作業を休んで出産の準備に入った。
名前の付け方が分からないと言うので、どういう風に付ければ良いのか相談にも乗った。
そして、3日後の朝方に無事出産した。
その日は丁度、店を開ける日だったので、帰ってから報告を受けた。
母子ともに健康そうで、晩飯の時に俺の所まで来て顔を見せてくれた。
セットが考えた名前はリニクスだった。
この地で芽生えた、新しい命。
種族は違えど、元気に育って欲しい。
俺が頑張る事でこの命を守ることができるのならば、俺の頑張りなど安い物だろう。




