第304話 働くのを辞めた者(3)
「それで、ノアが好きになった娘とは、どんな娘だったのじゃ?」
ダンと一緒に革工房へ謝罪して、牧場へと行き水汲みの仕事をするように伝えて別れた後、畑を見に行くために歩いている途中でヴィーヴルに聞かれた。
瞬間移動で行こうと言ったのだが、何故か歩きたいとの事だったので、横に並んで歩いている途中だった。
「聞いていたのか?」
「聞こえてしまったのじゃ。
妾達は人間よりずっと耳が良いのじゃ。
聞こえてしまったものは、仕方が無いのじゃ」
「耳を塞いでいてくれても、良かったと思うのだけどな……まぁ、良いか」
「悪かったのじゃ。
それで、どんな娘だったのじゃ?」
「どんなも何も、普通の村の女の子だよ。
幼馴染みってやつだな」
「それで、どんな所が好きだったのじゃ?」
「そうだな……今思えば、本当に好きだったのかも怪しいかもな。
その時は、俺が守るんだという思いと、好きだという思いが混ざりあっていたのかも知れない。
本当に好きだったのなら、守れるだけの力を手に入れたのなら、冒険者を諦めてでも、その娘の所に向かっていただろうしな」
「そうなのじゃ?」
「あぁ、だから、今まで本当に人を好きになったことが無いのかも知れないな。
冒険者になった後は、無事に帰れるとは限らないから、家庭を持つという考えが無くなったのも本当だしな。
って、この辺も聞いていたんだろ?」
「そうじゃな」
「その為なのか、皆同じく守らないといけないという意識があるのかも知れない。
俺の家族や子供が居たら、どうしてもその子を優先するだろう」
「妾も、ノアに守られている感じなのじゃ?」
「ヴィーヴルは、守っていると言うのは違うな。
ルシフェルもそうだけど、守っているという感じじゃない。
どちらかと言うと、同じパーティの一員のような感じかも知れない」
「パーティの一員なのじゃ?」
「あぁ、村を守っていくというクエストを受けたパーティだな。
ルシフェルは補佐として、更にその補佐としてベルゼバブが居る感じかな」
「妾はどういう立ち位置なのじゃ?」
「ヴィーヴルは、背中を預けている感じかな? 影の支配者だから、丁度良いだろ?」と、少し揶揄うように言った。
本当の所は違うのだが、面と向かって言うのは恥ずかしいので伏せておく。
ヴィーヴルの加護により長くなってしまった寿命だが、共に生きる相手がヴィーヴルであったことは幸いだったと思う。




