第288話 不可侵成立
「ノアよ、本日、交渉が終了したのだ」
ルシフェルは、晩酌の肴を持ってきた俺に会うなり言ってきた。
「それは良かった。
ルシフェルにも、いろいろ苦労を掛けて済まなかったな」
「良いのだ。
それでだが、賠償としては金貨1万枚とした。
その他、酒や食料、インゴットなどの物資も譲り受ける事となった」
金貨は有っても困る物ではないが、村ではほぼ使い道がない。
それよりは、直ぐに必要となるものを貰っておいた方が良いと考えたのだろう。
「分かった。
それじゃ、その物資を置く場所を作らないといけないな」
「暫くは此処へ置いておけばよかろう。
此処へ運び込んでもらい、ストレージに入れておけば問題無いであろう」
「そうだな、じゃあ、ストレージになる袋を明日にでも持ってくるよ」
「我の役目も、賠償を受け取りまでであろうな。
その後は村へと戻るつもりであるが、問題はあるか?」
「いや、大丈夫だ。
あぁ、それまで頼むよ」
「うむ。
それとだな、この砦を境に互いの不可侵も決定した。
壁が作られたので、それならばと此処を境にしようと決まったのだ」
「それは、ヴィーヴルのお陰だな。
ありがとうな」
「良いのじゃ」
「あと、これは交渉とは関係ないのであるが、金貨を渡すので、偶にでよいから料理を食べさせて欲しいとの事だ」
「そんなにアイリスの料理を気に入ったのか」
「普段、食べない様なものであるからかも知れんがな。
更にアイリスの料理に合う様な酒を用意すると、気合が入っておったのだ」
「今後も会合みたいなことがある、という事か?」
「その様であろうな。
それがある内は、不可侵も守られるという事かも知れんがな」
「あまり頻繁に行われると、アイリスや料理をする者の負担が大きくなるだろうから、その辺は考えてくれよ」
「分かっておる」
「よし、じゃあ、賠償を受け取ったら、村民全員で終戦のパーティをやるか。
此処の所、何かと忙しかったから、丁度良い気晴らしになるだろ」
「果物を買い占める約束は、忘れておらんのじゃ?」
「きちんと覚えているから、大丈夫だ。
今度、街へ行った時に、買い占める話をしてこよう。
彼方側にも、色々と準備することがあるだろうしな」
「分かったのじゃ、楽しみなのじゃ」
「ノアよ、酒も買い忘れるでないぞ」
「酒は賠償で貰えるんだろ? それを使おう」
「そうなると、追加で酒の量を増やすか……」
ルシフェルが呟いているが、俺は敢えて聞こえないふりをした。
自分の飲み代を自分で稼ごうと言うのだから、放って置いても問題無いだろう。
それよりも、久しぶりのパーティだ。
夕食の時にでも、皆に告知しよう。
喜んでくれると良いのだが……




