第287話 会合の料理
いつも通りに村を見回り、手が空いたら畑の仕事を手伝って、今日の交渉後の会合までの時間を過ごす。
食堂の台所では、アイリスが会合のための料理を作っている。
「いつも通りで良いんだぞ」
「うん、だいじょうぶだよ。
それに、わたしにはきぞくさまがたべているりょうりをしらないから」
アイリスは楽しそうに調理している。
気負った様子は全く見られない。
「時間は大丈夫なのかしら?」
イルデが俺に聞いてきた。
「まだ余裕があると思うけど、多少、遅くなっても、ルシフェルが上手いことやってくれるだろうから、大丈夫だよ。
その位、ルシフェルにとっては造作もないだろうしな」
その間にも、アイリスは料理を続ける。
鼻歌交じりに作っているのだが、その鼻歌の曲は聞いたことがない。
適当な曲なのかもしれないが、アイリスが全く緊張せずに料理していることだけは確かだ。
「ヴィーヴル、悪いけど、俺は畑に行ってくるな」
見ているだけでは手持ち無沙汰なので、畑へ行って少しでも手伝うことにした。
何かしていないと、どうも落ち着かない。
「分かったのじゃ。
料理が出来上がったら呼びに行くのじゃ」
暫くの間、ドゥに聞いて何をすれば良いか聞いて、作業を行った。
「ノアよ、出来上がったそうじゃ」
「ヴィーヴル、ありがとう。
今、そっちに行くよ」
ドゥの下へと行き、作業の途中となってしまった事を謝り、食堂へと向かった。
「のあさん、これをもっていってね」
そこに置いてあったのは、肉を焼いたもの、魚を焼いたもの、サラダ、薄い焼き菓子が置いてあった。
(焼き菓子? 酒の肴に?)
俺が首を捻っていた。
「これ? これは、ちいさくきったものをのせてたべるの。
きぞくさまはふだん、おおきなおさらでたべないってきいたから、つくってみたの」
その辺のことはイルデからでも聞いたのだろう。
その事を誰に聞くでもない、解決させるということだけでも、料理に対する優れた感性があると思う。
「ありがとう。
じゃあ、持って行くな」
アイリスの頭を撫でた後、料理をストレージへと詰めた。
「今日は妾が行使するのじゃ」
「ありがとうな」
ヴィーヴルの瞬間移動で交渉中であろう門へと向かった。
ベルゼバブを通して、ルシフェルに到着したことを知らせてもらい、別室に料理とカップを用意する。
用意が終わると同時に、ルシフェルと交渉相手がやってきた。
護衛の騎士たちは部屋の外で待機しているようだ。
交渉相手の中に、いつぞや捕虜として捕まえた司令官の顔があった。
それ程までに、アイリスの料理が食べたかったのだろうか?
会合の方と言うか、アイリスの料理はやはり好評だった。
あちらが持ち込んできた、赤ワインと白ワインをどの料理と合わせた方がより美味しいかと、真剣に話し込んでいた。
そのことを確認する意味でも、あの薄い焼き菓子は邪魔せず香ばしさを引き立て美味いと言う評価を受けた。




