第281話 交渉難航中
「ルシフェル、調子はどうだ?」
「ノアか、体調は何ともないのだが、交渉の方は芳しくないかの」
ルシフェルでも梃子摺っているようだ。
王国の中枢上部には今回の結果を認めない勢力がいるそうだ。
ただ、現場の人間はもう此方とはやり合いたくないとの空気が流れていて、戦いには至らない感じだ。
何もできずに追い返され、しかも死者が出ていないのだから、明らかに実力差がある。
力の差を数で埋めようにも、森がそれを許してくれない。
戦いにすらならない状況なのだから、現場としてはやっていられないという事だろう。
「また、門を破壊することになるやもしれぬ」
そう伝えてはあるのだが、上層部は一向に心変わりしないそうだ。
「ヴィーヴルが城を壊すと言っておったが、その様なことになるやもしれぬ。
上層部が認めないのは、己の身に危機が及ぶことが無いからであろうしな。
城の一部でも破壊すれば、目が覚めるであろう」
「壊していいのじゃ?」
「まだだから、落ち着いてくれ」
「次の交渉の場で、彼方には伝えるつもりである」
「分かった。
何時行くのかもその時に決めておいてくれ。
こっちは何時でも構わないからな」
「分かったのだ。
なお、今回は橋を壊さぬ予定である」
「構わないが、どうしてだ?」
「橋を壊したとて、中枢には影響がなかろう。
軍を此方へと来られなくする効果はあろうが、然程の影響は無いようであるしな。
城の破壊を行うだけでも効果があろう」
「そうだな、俺もその方が良いと思う」
「それでだな、交渉の者より、昼食をともにしたい旨の申し出があったのだが、受けても良いか考えておったのだ」
「何でまた、昼食を食べたいって言ってきたんだ?」
「以前、捕虜として捕まえた者がおったであろう。
その者より、料理が美味しかったという事を聞いたらしいのだ」
「交渉の序でにという事か……アイリスの返事次第ではあるのだけど、今はまだ、大人の世界に巻き込みたくはないな」
「断っておくか?」
「此方としては、別に振舞わないといけないということはないからな。
だけど、振舞っておいても損は無いしな……例えば、交渉の後に一席設けるとかはどうだろう?」
「その席に、アイリスの料理を提供するのだな」
「あぁ、此方からは料理を提供し、彼方からは酒を提供してもらう。
こうすれば、あくまで対等な立場だ。
酒の肴は晩酌でアイリスも作り慣れているだろうし、俺が運んで来れば問題無いだろう」
「良し、その方向で話を進めよう」
「人数と日取りが決まったら、教えてくれ。
アイリスに話を通しておくから」
「分かったのだ」
「その時は俺も出て良いか? 一応、相手の顔も見ておきたいからな」
「勿論である」
話し合いの最中に酒盛りをするのは問題があるかも知れないが、話し合いが終わった後なら大丈夫だろう。
相手は貴族らしいので、所詮、庶民の発想だと思われるかもしれないが、俺は根っからの庶民だ。
貴族相手の接し方なんて知らないのだから、俺の思った通りにやるしかない。
それで、失礼だ、不敬だと言われたとしても仕方がない。




