第274話 勇者の道場
「村長、私達、必要なのかな?」
突然、アルルから自己否定で聞かれた。
「突然どうしたんだ? 誰かに必要ないとでも言われたのか?」
「違うよ、そんなこと言う人は此処にいないから。
そうじゃなくて、新しく門を作ったでしょ?」
ルシフェルが、王国との交渉を進める為に作った物の事を指しているのだろう。
「あぁ、それがどうかしたか?」
「どうかしたか? じゃないわよ。
あそこがあれば、私が今居る門は必要ないでしょ?」
「あそこは、王国側からの侵入は防いでくれるけど、それだけだからな」
「でも、今、対立しているのって王国だけだよね? 此方側に門番が居る意味があるのかなって思うんだ」
「それで、あんなことを言い出したのか。
魔王領からの難民が来るかもしれないから、門番は必要なのだが……」
難民ならば夜に来ることは無いだろうし、夜に来られても此方へと入れることはできない。
夜の門番は、門より中へ入れさせない事が前提だ。
「そうだな、夜に門番が必要なのは、此処より向こう側だな。
とりあえずだが、門番は新しい壁の所に移って貰おう。
向こうはすぐにでも住めるようになっているから」
「食事はどうするの? 此方まで食べに来られないわよ」
「食事はあちらで作って貰うことになるが……確か、今、門番をやっているオーガの内、2人は家庭持ちだったよな?」
「うん、そうだよ」
「それじゃ、その家族ごと移住してもらって、食事は自分たちで作って貰おう。
食材は俺が運んだり、ストレージに備蓄しておけばいい」
「分かったわ。
じゃあ、今日の交代の時に話しておくわ」
「よろしく頼む……と言いたいところだが、1つ確認したい事がある」
「何かな?」
「アルルもあっちに行くのか?」
「そのつもりだけど、何か問題があるかな?」
「弟子となった子供達はどうする? 子供達も一緒にと言うのは難しいぞ」
「すっかり忘れていたよ。
どうしよう?」
「アルルはこっちに残って、子供達の面倒を見る方が良いと思う」
「そうなると、門番が足りなくなるよ」
「当面はルシフェルとベルゼバブが居るから、夜だけで良いよ。
そして、アルルは今後、正式に子供達の師匠となって欲しい」
「師匠?」
「あぁ、冒険者としての師匠だ。
冒険者になりたいのなら、子供の時からきちんと教えた方が良いと思うんだ」
「私より、村長の方が良いと思うけど……」
「魔法が無かったら、もうアルルには勝てないよ。
武器の扱いなら、俺よりアルルに教わる方が良い」
「冒険者としての心得とか、そう言うのは村長の方が知っているでしょ?」
「長く冒険者をやっていただけで、心得とかそう言うのはアルルも俺も変わらないだろ。
まぁ、手伝いが必要な時は、呼んでくれれば手伝うよ」
「分かったよ、やってみるよ」
「良し、あとは道場の場所だが……今の門の所で良いか?」
「良いけど、どうしてそこなの?」
「ルシフェルの作った門を見て思いついたんだ。
建物の間を通るような門にすれば、師匠としての仕事をしながら門番の仕事もできるとな。
だから、今の門の上に道場を作れば良いと思うんだ」
門まで瞬間移動で移動して、門の上に道場となる建物を作った。
出来上がりは、門に土で出来た箱が乗ったような感じで、取り敢えず作った感じがしたが、その通りではあるのでそこは諦めて貰おう。
このままでは上の箱に入ることが出来ないので、下にある小部屋の入り口とは反対側に階段を作った。
ルシフェルが作った建物を参考にしているので、村から見て外側の横には窓を設けなかったが、村側の横と床の一部には穴が開けられている。
横の穴は窓なのだが、稽古中などで暑くなった時に開けることを考えて大きめに作った。
床に開けられた穴は、誰かが来た時はこの穴を通じて対応する為の穴で、通常時は板で覆い落ちないようにしている。
良く考えて作ったつもりだったのだが、数日後、アルルに怒られてしまった。
雨の日の土階段は滑りやすく、途中で落ちた子が居たとの事だった。
次の日に、慌てて階段の囲いを作りに行ったのは言うまでもない。




