第272話 新たな防衛拠点(3)
「家具職人を連れて来たぞ」
ルシフェルに伝えると、家具職人を連れて他の所へと行ってしまった。
中に付けるドアの採寸に行ったのだろう。
俺一人がこの場に残されて、やる事が無くなってしまった。
ドノバンと家具職人は採寸が終わったら連れて帰る必要があるだろうが、今はその作業中だ。
見に行っても邪魔になるだけだろうから、行かない方が良いと思われる。
(そう言えば、ヴィーヴルは何処に行ったんだ?)
ヴィーヴルを探して、建物の中を歩き回ったが見当たらなかった。
(この中には居なさそうだな。
外にも居なかったし、本当に何処に行ったんだ?)
それでも、一応……と思い、外を探してみるが、やはり見当たらない。
「どうかなさいましたか?」
ベルゼバブが、まだ窓として体を成していない壁の穴から声をかけてきた。
「いや、ヴィーヴルが見当たらなくてな。
ベルゼバブは見かけなかったか?」
「私はこちらで荷物の整理をしておりましたので、気が付きませんでした。
ヴィーヴル様ならば大丈夫じゃないですか?」
「いや、何かやらかしていないかと思ってな」
「そう言う事にしておきましょう」
「どう言う意味だ?」
「さて、何のことでしょう? 私はこちらの作業が忙しいので、失礼させて頂きます」
含みがある言い方だったな。
まぁ良い、今はヴィーヴルを探すのが先だ。
とは言え、これ以上、どこを探せば良いのか分からないのが正直なところだ。
何もやることが無くなったので、空き地となっている場所に何か作ろうかと考えていると、ヴィーヴルが空を飛んでやってきた。
「ヴィーヴル、何処に行っていたんだ? 探していたんだぞ」
「それは済まなかったのじゃ。
ちょっと、壁を作りに行っていたのじゃ」
「壁を? 何処にだ?」
「森に沿って作ったのじゃ。
これで、簡単には森に入れんのじゃ。
見てみるのじゃ」
そう言って、ヴィーヴルは俺の手を取り空へと舞い上がった。
前の建物から羽が生えたかのように、両側に壁が広がっていた。
その羽は、見えるか見えないか、ぎりぎりの範囲まで広がっている。
「今のところ、警戒すべきはこちら側だけなのじゃ。
取り敢えずではあるが、あの辺まで立てておけば良いのじゃ」
「そうだな。
俺が気が付かないといけないのに、ありがとうな」
「気が付いた者がやれば良いだけなのじゃ」
俺だけだと、気が付かないことや出来ないことも沢山ある。
だけど、ここにいるのは俺だけじゃない、ヴィーヴルやルシフェル、ベルゼバブやドノバンもいる。
俺では足りない部分は、皆に助けて貰いながらやっていこう。




