第271話 新たな防衛拠点(2)
ルシフェルを先頭に、端の階段の所までやって来た。
階段の上には、階段に沿った形で屋根が掛けられていた。
その階段を上り、屋上に着いた。
「このぐらいの高さがあれば、遠くまで見渡せるな」
「うむ、王国が再び攻めて来ようとも、いち早く察知できるであろう」
「そう考えると、今回、王国から攻められたことで、俺達には得になる事しかなかったな……」
攻めてきた兵を撃退して、鋳潰す為の装備を得たこと。
2度の奇襲により、敵の兵糧を奪えたこと。
新たな防衛拠点を構築するための、場所を確保できたこと。
今後の交渉次第だが、賠償金を受け取れること。
王国から態々やって来て、贈り物を置いて帰ったとしか思えない内容の数々。
「王国も、こんなことになるとは思っていなかっただろうな……」
「敵の戦力を正確に見定めず、己の欲望に従った結果であるから、同情する余地など無いであろう」
「同情はしないよ。
此方は攻められたから防衛しただけだし、云わば被害者だからな」
「向こうから勝手に仕掛けてきただけなのじゃ。
上手く行けば、城を壊されんだけでも有り難いと思って欲しいのじゃ」
ヴィーヴルがご立腹なのは、『おあずけ』状態だからだろう。
城を壊す代わりに露店を買い占めると約束したが、それは賠償金が入ったらと言ってある。
村にある財産で買い占めることは十分可能だし、その位の事で今後の生活が立ち行かなくなるなんてことも無い。
しかし、あくまでお詫びとして受け取った中から出したという、体裁を整えた方が良いだろうと踏んだからだ。
ヴィーヴルの機嫌は、『おあずけ』が解除されるまで続くかも知れない。
仕方が無いことだと思って諦めよう。
「このままだと、足を滑らせて落ちるかもしれないから、柵を作っておくか」
「ここは、柵より壁を腰位の高さで作る方が良かろう。
その高さであれば、見晴らしに影響は無いし、屈めば守りにも使えるであろう」
ルシフェルは土魔法で腰位の高さの壁を屋上全体に作成した。
「雨が降ったら、屋上に水が溜まることになるぞ」
「大丈夫なのだ。
横から排水されるようになっておる」
横を見ると、壁の下の方に所々、穴が開いていた。
(あの短時間で、そこまで考えて壁を作ったのか……)
俺は、ヴィーヴルとルシフェルには一生敵わない様な気がしていた。
一通りの施設の説明が終わった所で、入り口4箇所のドアを作るために採寸を行った。
「中のドアは頑丈に作る必要はないじゃろう。
家具職人に頼んだ方が、良い物を作るじゃろうから、家具職人を呼んでくるのじゃ」
「分かった。
じゃあ、今、呼びに行ってくるよ」
ヴィーヴルは? と探してみるが、見当たらない。
皆で一緒に降りて来た筈だが、目を離した隙に何処かへ行ったのか?
子供じゃないのだから、心配しなくても良いだろう。
俺は瞬間移動を繰り返し、村の工房街へ行き、家具職人を連れて帰って来た。




