第263話 第二次防衛戦(4)
「それで、何故、お前達だけで此処に来たんだ?」
今は、水から隊長だけを引き上げて尋問している。
最初、ヴィーヴルに引き上げて貰おうかと思ったのだが、断固として拒否された。
「あのような、下劣な者には触れたくも無いのじゃ」
仕方がないので、ルシフェルに頼んで引き上げて貰った。
重装備は解除させて、今は地面の上に大人しく座っている。
他の兵士は、嘘を吐いたり、反抗したりしないようにする為の人質だ。
勿論、他の兵士が喋ったりした場合も、問答無用でヴィーヴルが水魔法を発動する。
多分、喜んで発動するだろうな……あの、黒い笑顔を浮かべながら……
「我々は抜け駆けして、村を攻めようとしたんだ。
我々だけで攻め滅ぼせば、分け前が多いだろうからな」
戦利品の略奪は暗黙の了解がある。
皆で攻めて滅ぼすより、少ない人数で滅ぼせば分け前が増えるのは当たり前のことだ。
『所詮、村だろ』という事で、他の者たちに先んじて戦利品を漁ろうと目論んでいたそうだ。
周辺の探索を終えて来たファーティ、アインスからも、他に見つけられなかったとの報告だったので、間違いないと思われる。
(軍って、こういう事には厳しかったと思ったのだが……)
「大体分かった。
後は、お前達の処遇だが……」
「こうなっては、俺はどうなっても構わんから、あいつらは助けてやってくれないか?」
「助けるって、逃がしてやってくれって事か?」
「あぁ、虫のいい話かもしれないが……」
「お前さんは良いのか?」
「私は許されるはずが無いだろうしな。
それなら、全て私の責任としてくれた方が有難い」
「う~ん、お前もお前らも全員解放するつもりなんだけどな」
「本当か?」
「まぁ、俺はそのつもりなんだが……な……」
横には、未だに黒い笑顔を浮かべているヴィーヴルが立っている。
「最初のやり取りに、相当怒っているみたいなんだ」
「どうすれば、許して貰えるのだろうか?」
「俺には分からない……あそこまで、怒ったのを見たことが無かったからな」
意を決して、ヴィーヴルに声を掛ける。
「ヴィーヴル、こいつらを解放しようと思うのだけど、良いか?」
「ノアがそれで良いのならば、良いのじゃ」と、ヴィーヴルは微笑みながら答えた。
「ただし、次に会った時には問答無用で殺すのじゃ。
それが嫌ならば、この地には2度と近づかぬことなのじゃ」
と、近くに立っていた木が細切れにされていた。
微笑みは更に強く、黒さを増して……
「との事だ。
あんな風になりたく無かったら、軍を辞めて故郷に帰った方が良いかもしれないぞ」
忠告はしたからな。
後はどうなろうと知ったことではない。
何が逆鱗に触れたのか分からないが、お前らが悪い。
水を抜き、装備をその場で解除させると、兵士全員を解放した。
戸惑いながら此方を見ていると、「早く行かぬのならば、切り裂いてくれるのじゃ」とのヴィーヴルの言葉に、一目散に逃げかえった。
装備をストレージへと仕舞い込み、その場を後にした。
装備は、またドノバンに鋳潰して貰おう。
それにしても、あの時のヴィーヴルは本当に怖かった。
何が、あそこまでヴィーヴルを怒らせたのだろうか?




