第255話 最初の離脱者(1)
『ノア様、お話があるのですが、よろしいでしょうか?』
朝食が終わって、村を見て回わるために席を立とうとした時に、アンに声を掛けられた。
両脇にはドゥとトロワが立っていた。
「あぁ、良いよ」
そう言って、座り直そうとしたのだが……
『出来ましたら、ノア様の家でお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?』
「あぁ、良いよ。
じゃあ、行くか」
「妾も行って良いのじゃ?」
ヴィーヴルがアンに聞いた。
『はい、ヴィーヴル様にもご同席、お願いいたします』
「じゃあ、行こうか」
『我儘ではありますが、瞬間移動にて行ってみたいのですが、お願いできますでしょうか?』
「あぁ、構わないけど……4人同時には連れていけないぞ?」
『度々の我儘で申し訳ないのですが、私とノア様だけで行きたいのです』
「分かった。
じゃあヴィーヴル、済まないけど、ドゥとトロワを連れて来て貰えるかな?」
「分かったのじゃ」
「じゃあアン、行こうか」
アンの手を取り、瞬間移動で家の前まで移動した。
瞬間移動の直前に小声でアンが何か言っていたが、良く聞き取れなかった。
「着いたぞ、さぁ入ってくれ」
『ありがとうございます』
アンを連れて、家の中へと入る。
自分で言うのも何だが、相変わらず殺風景な部屋だ。
ドアとか窓は来た当初より見栄えが良くなっているものの、中には家具職人に作って貰ったベッドが置かれているだけだ。
暖炉はあるものの、今では使われなくなっている。
食事の為に肉を焼くことが、無くなってしまったのだから……
『久し振りに、入れて頂きました』
「そう言えば、そうだな」
特に用事が無ければ、来る必要もないのだから仕方がない。
ヴィーヴルは特に用事が無くても毎日のように来るが、あれは特別だと思うから他と比較しない方が良いだろう。
そのヴィーヴルがまだ来ないようだが、何かあったのか? 瞬間移動で来ると思うから、もう来てもおかしくないはずなのだが?
「ヴィーヴル達がまだ来ないけど、話を始めても良いか?」
『はい、実はドゥとトロワにはヴィーヴル様の足止めをお願いしたのです』
「ヴィーヴルには聞かれたくない話だったのか? なら、同席を断った方が良かったんじゃないのか?」
『いいえ、後からはヴィーヴル様にも同席していただきたかったのです』
「分かったよ。
それで、話というのは何だ?」
アンは、俯いた。
そして、意を決したように、俺を見据えて話し出した。
『お暇を頂きに参りました』
突然の申し出に、俺は言葉が出なくなる。
アンは俺を真っすぐに見つめたままだ。
「此処から出ていくと言うのか……気に入らないことがあるのなら、改めるから考え直して貰えないだろうか?」
『いいえ、此処での暮らしには満足しております』
「じゃあ、何故なんだ? 良かったら、訳を話して貰えないか?」




