第254話 とりあえずの完成
「これで、予定していた数は作ったぞ」
新しい食堂の向かい側に整地された所を、工房街として少しずつ作って行っていたものが完成した。
一応、入り口と窓となるような穴は開けてあるが、ただそれだけだ。
飾りっ気も何にもない、ただの大きな土壁の箱がそこにはある。
新しく作られた工房街で、煙突より煙が上がっている建物がある。
ドノバンの新しい工房だ。
ドノバンの新しい工房には、炉を3つ作ることとなった。
鉄を鋳潰す炉、鉄を叩いて鍛える炉を2つだ。
先の王国からの攻防戦で得られた装備を鋳潰してもらう時に、今まで使用していた炉が使えず鋳潰しの為の専用炉を作った。
これからも鋳潰すことがあるだろうからという事で、今回は最初から用意することとなったのだ。
勿論、設計したのはドノバンである。
ガレスは横からその設計書を覗き込んでいた。
今まで叩くことばかりを優先していて、炉の設計などはしたことが無かったそうだ。
「一番使いやすい炉は、自分にしか分からんものじゃ。
炉は使うもので、炉に使われている内はまだまだじゃよ」
その内ガレスも独り立ちして、自分だけの炉が欲しくなる時が来ると言う事だろうか? その時は、お祝いも兼ねて作ってやりたいと思う。
ドノバンの工房の向かいには家具職人の工房が建っている。
こちらの工房も、絶賛稼働中だ。
村中の殆どの家具は、この工房で作られたものだ。
この工房のお陰で、入り口の扉や窓なども見栄えが良く機能的になった。
以前から窓や扉も有るにはあったが、小枝を並べて垂らしたものか、ドノバンの作ったものだった。
ドノバンの作った物は良く言えば武骨、悪く言えば飾りっ気がまるでなかった。
俺などは別に気にもしないが、イルデや他の女性陣からの評判がすこぶる悪かった。
今、この工房街で既に稼働しているのは2つだけだが、他にも工房となる土壁の建物は建てられている。
それらは、裁縫の工房、革工房、チーズ工房、食品加工工房などになる予定だ。
そして今、最後の建物を作り終わった訳だ。
「ここはかなり大きいが何の工房なのじゃ?」
「残念ながら、此処は工房ではないんだ。
子供達が遊ぶ場所だよ」
「子供達が遊ぶ場所とは、どういうことなのじゃ?」
「難民の中に小さい子供が結構いたからな。
母親には、小さい子供の世話なんかしている暇がない。
自分も働きに出ないといけないからな」
「父親が働いて居れば、母親は働きに出なくても良いのじゃ?」
「父親の稼ぎだけで暮らせるのならな。
普通は両親ともに朝から晩まで働いているよ」
「この村だと、父親だけでも働いて居れば良いのじゃ」
「そうなんだけど、今まで働いて来たからな。
急に止めろと言っても止められないみたいだ」
「習慣というのは、恐ろしいものなのじゃ」
「それなら、世話する人を付けて、一か所に集めて預かれば良いんじゃないかと思ったんだ」
「その割には、この建物は大きすぎるのじゃ」
「雨の日や、仕事が休みの日の子供達の遊び場所も兼ねているからだよ。
言わば、子供達の集会場だな」
「大人の集会場は作らんのじゃ?」
「食堂が集会場で良いだろ? 何時もあそこで晩酌をしているんだから」
大人が集まれる場所は1か所もあれば十分だろ?




