第251話 再び使者がやってくる(2)
「今回の条件を言ってみるが良い」
使者から告げられた条件は以下の通りだった。
・勇者はこのまま村に在籍してもよいが、整い次第、魔王討伐へと赴くこと。
・村の財産はそのまま留め置く。
・村の明け渡しは必要ないが、王直轄領とし、税を納めること。
・これらのことが認められない場合には、使者と話し合い解決すること。
「そなた達の王らは、こんなことが本当に通ると思っておるのか?」
ルシフェルは、大きく目を見開いて使者へと言葉を投げつけた。
「だから、認められない場合には私と話し合えと言っているではないか」
「それが、そもそも間違っておることに気が付かぬのか? それは、こちらと対等もしくはそちらが上の場合に通じる言葉であるぞ。
その条件だけでも、こちらとしては飲む必要がないのだぞ」
「このまま帰るのでは、此処へと来た意味がない。
少しずつでも歩み寄るのが交渉だろう?」
「こちらとしては交渉する余地がないのであるが、話し合いとやらをしてみるかの。
とは言え、こちらからの条件はただ1つのみである」
「その条件とは?」
「不可侵・不干渉の約束のみである」
使者は押し黙った。
対するルシフェルは微笑みを浮かべている。
俺としては何も言うことはない、完璧な交渉だと思う。
受け入れられなくても問題はない。
攻めて来たら追い払うだけだし、それだけのことは十分可能だ。
その後は、先ほど話していた通り、今度は城が壊されるかもしれない。
メンツを考えれば、門1つの破壊など比べるまでもない。
そして、ここにはそれらを行えるだけの戦力があるだろうということは、前回示されている。
だからと言って、そんな約束を認めてしまえば、王国に利がない。
戦わないことが利ではあるのだが、目の前にぶら下がっている直接的な利益には手を出せなくなる。
流石に、使者の一存では決定できないだろう。
「持ち帰り検討し、返答するということで良いだろうか?」
「あぁ、構わんぞ。
ただし、今より返答前までに兵を差し向けた場合には、拒否とみなし兵を撃退したのちに報復攻撃を行うので、気を付けるがよかろう」
「分かった。
では、私はこれで失礼する」
使者はそそくさと席を立ち、森の方へと帰っていった。
「ルシフェル、あいつは何で慌てて帰ったんだ?」
「大方、兵を忍び込ませようとしていたのであろう。
交渉を長引かせて、こちらの気を引いているうちにな」
「何故、そう思ったんだ?」
「長引かせようとしていた感じがしたのでな。
交渉すればその場でどうとでもなると言うには、ただの使者への任務としては重過ぎるであろう。
最低でも宰相、大臣が来る必要はあろう」
「隊長くらいじゃ駄目なのか?」
「無かったことにされてお終いであろうな」
「最後に慌てて帰ったようだが?」
「あれこそが、忍び込ませようとしていた証左であろうな。
合図をして引き上げている頃であろう。
早く引き上げないと、城を壊されてしまうであろうからな」




