第232話 開拓地向け水路の完成(1)
「ノアよ、暫くの間は手動で動かすことにしたので、水路を作るのじゃよ」
門を壊して帰って来た日の晩酌の席で、ドノバンに言われた。
一瞬、何のことを言っているのか分からなかったが、開拓した土地への水路の事だと思い出した。
「あれは、人力だと大変だからと言って、保留になっていなかったか?」
「そうじゃが、新しく来た者たちが、毎朝、ノアが水を満たしているのを何とかならないのかと相談を受けたのじゃよ。
儂は人力でよいのならば川の水を引いてこられると伝えたのじゃが、作って貰えれば自分たちで動かすという事で話が纏まったのじゃよ」
「そうなのか、でも、大丈夫か?」
「出来る限り、負担は少なくなるように作るつもりじゃ」
「分かった。
それなら、明日にでも水路を作ろうか」
「あの機械を使えるのじゃ」
「あぁ、ヴィーヴル、明日はよろしく頼むぞ」
「任せておくのじゃ」
「でも、それなら俺に直接言ってくれても良かったのにな」
「此処に置いてもらっているという負い目があるから、言い出しにくかったのじゃろ。
それに、お主は色々と忙しく動いておったからの」
「そんな事、気にしなくて良いのにな。
そもそも、難民になった理由も、この村のせいだろうし」
魔王だったルシフェルが王位を簒奪されたために、他種族の迫害禁止が無くなった。
それにより難民となって此処へと流れついたのだから、この村のせいと言うのは間違いではないと思う。
だから、気兼ねすることなく、言って貰っても構わないのだけど……
「明日は装置を付ける所から先に作って貰う。
それが出来たら、水路を作って貰う予定なのじゃが問題無いだろうか?」
「あぁ、大丈夫だ。
その辺は全てドノバンに任せるよ」
「そうと決まれば、今夜は水路完成の前夜祭じゃな。
酒をもっと出しても良いのじゃぞ?」
ルシフェルは横で、「是非とも、そうするべきだ」とか言っているが、飲みたいだけだと言うのは明らかだ。
「何が前夜祭だよ。
完成してからで十分だよ」
翌朝、ドノバンは工房の方から、難民だったオーガに何やら大きな円筒形のものを持たせて、今ある水路へとやって来た。
「これが、水を汲み上げるものじゃよ。
まずは、この高さ位に水を溜める箱を、この位の大きさで作るのじゃ」
ドノバンに言われた通りに土魔法で箱を作る。
空中に浮かせたままには出来ないので、下に足を加える。
「良し、次はその箱と水路を繋げるのじゃ。
そこに水門を作れば、まずは汲み上げ場所の完成じゃな」
水路を分岐させるようにして、今作った箱への水路を作る。
ドノバンは、直ぐに水門を作って、必要な時だけ汲み上げ場所へ水が行くようにした。
「次は、その装置のこちら側を汲み上げ場所に入れるのじゃ。
それで、もう片側の方にはそれを回すための足場と、途中に穴が空いた所の下に水路を作るのじゃ」
「足場?」
「人力じゃと言ったじゃろ? 先の方についている取っ手を回転させると、水を汲み上げることが出来るのじゃ」
「回すだけで水が出てくるのか?」
「あぁ、あの穴の所から水が出てくるのじゃ」
「へぇ、それはすごいな。
中はどうなっているんだ?」
「説明が難しいが……一枚の板を棒に繋げているだけなのじゃが、その取っ手を右回りに回すと汲み上げられるのじゃよ」
「回す方向が決まっているのか?」
「そうじゃな、一応、反対には回らんようには細工してあるがな」
「逆回しはするなって言っておけば良いんじゃないのか?」
「人力ではなく、自然の力を利用しようと考えておったからな。
自然の力を利用するときには、反対に回ることが無いようにしておくものなのじゃよ」
そう言えばそうだったな。
人力での運用を考えていなかったから、そんな細工を施す必要があったんだ。
「どういう風にやっているんだ?」
「そんなに難しくは無いのじゃよ。
三角形を太めの棒の周りに付けて、鉄板を上に付けるだけじゃ。
回したい方向の三角形は斜めになる様に付けておいて、逆側は真っすぐになるようにする。
そうしておくと、逆方向に回そうとすると鉄板がつっかえ棒のようになり回らないという仕組みじゃよ」




