第222話 第一次防衛戦(2)
『あちらの方は順調に進んでいるようです』
森の中を歩いている最中、ファーティから声を掛けられた。
「そうか……後はこちらが上手くやるだけだな」
『御意』
「皆が疲れる前に戦いを終わらせたいから、先を急ごう」
ファーティには、回り道になっても良いから、司令部の背後へと案内をしてもらっている。
馬鹿正直に真正面から突っ込むつもりは毛頭ない。
回り道をしているので、一直線に進むよりは時間が掛かる。
それを補う意味でも、俺とファーティの移動速度を上げた。
(皆の負担を、少しでも早く減らしたいからな……)
前線で捕虜となった司令官の姿を晒すまでは、戦闘が継続するだろう。
少しでも早く司令官を捕虜とし、少しでも早く門前へと帰る。
逸る気持ちを抑えつつ、警戒を怠らない様に司令部のある場所へと向かった。
『主よ、そこに司令が居ると思われます」
「道案内、ありがとう。
さて、あとは此処からどうやって司令の所まで行くかだな……」
草蔭から目の前にある陣幕への入り方を考えてみるが、こちら側は警備が手薄なようだ。
さっきから陣幕の方を窺っているが、誰も様子を見に来ない。
(前方からしか警戒していないだけなのか? 罠なのか?)
いくら回り込んだとはいえ、周辺の警戒も甘かった。
敵は、こちらの人数が少ないことを知っていて、高を括ったのかもしれない。
(これ以上は様子を見ても変わらないだろう。
突っ込んで行って、後は野となれ山となれだ)
ファーティに手を前へ振り上げて、突入する合図を送る。
俺も陣幕へと低い体勢のまま駆け寄り、端を持ち上げてファーティと共に陣幕の中へと滑り込んだ。
陣幕の中には2人の男が椅子に座って談笑していた。
「ファーティ、そっちの男を抑えろ」
俺はもう一人の方を押さえ込み、喉元に短剣を突き付けた。
「大人しくしろ」
もう一方の男はファーティに押さえ込まれ、首元にはファーティの牙が迫っていた。
「どちらが、此処の責任者だ?」
「私だ」
俺に短剣を突き付けられた方の男が答えた。
後ろから胸元を覗き込むと、勲章が3つ輝いていた。
また、家紋が見えたから貴族なのだろう。
「そっちは?」
「副官だ」
「分かった、大人しくしていれば殺しはしない」
「何者だ?」
「お前らが今戦っている相手だよ」
「どうするつもりだ?」
「どうするも何も、攻めて来たのはそっちだろ? 此方からは何も出来ないとでも思っていたのか?」
「何が望みだ?」
「このまま、お前を連れて行って、此方への攻撃を止めるだけだ」
「周りには兵士が大勢居る。
このまま逃げられると思うのか?」
「お前さんに人望があれば逃げられると思うけどな。
お前さんに人望が無ければ仕方がない」
話をしながら両腕を後ろ手に下げさせて、土魔法で作った腕輪で固めた。
ファーティが押さえつけていた男の両腕も、土魔法で作った腕輪で固めた。
「さて、立って貰おうか」
二人を並べて立たせた。
人質は1人で十分だったのだが、2人になってしまった。
まぁ、問題無いだろう。
2人を先に歩かせ、陣幕の中から出ていく。
後ろ手に縛られ、喉元には短剣を突き付けられた司令官と副官の姿を見た兵士たちは動揺していた。
「大人しくするんだ」
司令官の一喝により、兵士達は大人しくなった。
「それじゃ、村の方まで付き合って貰いますよ。
此処にいるものは、この場に留まっていてもらう」
これだと、悪役の言い様だな。
だけど、相手から見たら俺達は人質を盾にした悪役なのだろうから、仕方がないか。




