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第215話 今回の新作

「来たわよ~」


 昼飯を食べ終えた頃に、荷車を引っ張っていつも露店で見る女主人がやって来た。


「態々、来てもらって済まないな」


「良いのよ。

 その代わり、たくさん買って頂戴ね」


「あぁ、運ぶ手間が減るからな。

 いっそのこと、それ全部置いて行って貰っても良いかもな」


「そんなに買ってどうするのよ? 戦争でも始める気なの?」


「うちには大食らいが沢山いるからな」


「それなら、本当に全部置いて行っちゃうわよ」


 半分本気で、半分冗談だ。

 いや、8割は本気かも知れない。

 軽い挨拶と会話を交わして、品物を見せてもらう。


「それで、約束していた新作なんだけどね」


 女主人は荷車の中を漁り始めた。


「ここでしか出すつもりが無かったから、奥の方にしまったままだったのよね……ちょっと待ってね」


「今出したものは本当に買うから、このまま出しておいていいぞ」


「あら、そう……じゃあ、置いて行くわね」


 次々と出しては、荷車の中を漁っている。

 随分と深くに入れて来たな。


「あった。

 これは、あまり売れないから作っている人も少ないのよ。

 ……っと、はい、これよ」


 黄色い握り拳程度の大きさの果実を取り出した。


「これは……モモか?」


「時期的にはまだちょっと早いから、少ししか取れなかったのよ」


「生のモモなんて、久しぶりに見たな」


「そうね……他の物に比べると高いから、露店だとあまり売らないわね」


「これは、リンゴじゃないのじゃ?」


「違うな。

 見た目は多少似ているかもしれないが、これはモモという物だ」


「ノアよ、これも食べてみたいのじゃ」


「そう言うと思ったよ」


 モモのお買い上げが決定した。


「あとは、これまでと変わらないと思うわ」


「そうだな……ん、木の実もあるのか? 普段は見かけなかったけど」


「これは、いつも卸している店が臨時休業だったので、持って帰ろうとしていたの」


「木の実はいくらあっても困らないから、これも貰おうかな?」


「いいわよ、じゃあ、今度からあなた方にも木の実を売った方が良いかしら?」


「あぁ、あるのなら買うぞ。

 って、随分と手広く商売をやっているんだな。

 木の実を拾ったり、果物の世話をしたりって、そんなんじゃ、寝る暇もないんじゃないか?」


「一族の皆が近くに住んでいるから、全員で分担しててやっているのよ。

 私は街へ行って売るのが、主な仕事ね」


「そうか、俺はてっきり家族だけでそれだけの仕事をしているのかと思ったよ」


「流石にそれは無理よ」


「そうだよな」


「それで、後は……って、もう、売る物も無いわね」


「結局、全部になったな」


「冗談のつもりが本当になったわね」


「まぁ、此方としても助かったし、あんたも丁度良かっただろ」


「そうね、身も心も軽くして帰れるわ。

 けど、明日、売る物が無くなっちゃったわね」


「済まないな。

 持ち帰る手間が無いからと、調子に乗って買い過ぎたようだ」


「良いのよ。

 売れる分には悪い事じゃないから」


「それじゃ、俺達はこれをしまった後に、街へ買い出しに行くよ」


「私は家に帰るわ。

 次は5日後に露店ね」


「そうだな、今度は今日の様に全部買う事はないと思うから、安心してくれ」


「良いわよ、全部買っても。

 その時は、荷車を貸してあげるから」


「そんなこと言っていると、本当に全部買うぞ」


 また、冗談とも本気ともつかない様な会話の後、女店主は家の前を離れた。


(明日は、木の実拾いでも手伝おうかしら……)


 女店主はそんな事を思いながら、足取り軽く帰路を歩いていた。


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